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20090603
朝日朝刊
天声人語
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びょう-んと琵琶が鳴って、平家物語の一節が胸をよぎる。〈奢(おご)れる人も久しからず、唯(ただ)春の夜の夢の如し〉。16兆円を超す負債を残し、アメリカンドリームの一つが終わった。
破綻したゼネラル・モーターズは20世紀のある時期、間違いなく「世界で最も倒産しそうにない会社」だった。アメリカという国家と、自動車という消費財。二つの隆起が重なる高みに、資本主義の一丁目一番地に、その巨塔はそびえていた。
倒れぬはずの塔は、しかし倒れるべくして倒れた。ひと続きの世界市場で、ガソリンがぶ飲みの車は通じない。日本車との競争、環境上の制約がはげしくなるのに、研究開発を怠り、身内への厚遇、身の丈を越す工場群や販売網を切れなかった。〈盛者必衰のことわり〉である。
旧GMの良い部分を継ぐ新生GMは、米政府が6割の株を持つ国有企業となる。つぎ込まれる公費は都合5兆円近い。救う側、救われる側とも、自由経済の権化としてこれ以上の堕落と恥はあるまい。
株主代表となるオバマ大統領は、「投資」を強いられた納税者に「GMは再び米国の成功シンボルになる」と訴えた。新たな失職者には「次世代が車を作り続けるための犠牲です」。だが、税金が生きる保証はない。
クライスラーに続く出直しだ。身軽に生まれ変わる米業界は、時代と消費者が求める車を再び世に問えるのか。例えば、キャデラックやシボレーを名乗るエコカー。こちらの想像力が足りないせいか、なにやら春夢の続きを見せられている気が、しないでもない。