2008年11月25日火曜日

オバマ、次米大統領選勝利宣言

 

オバマ氏が、来年の1月から米国の大統領に就任することが決まった。4日深夜、日本時間5日昼に勝利宣言をした。記念すべき日の、朝日新聞の記事を転載させていただいた。

27州と首都を制す。

「変革の時がきた」

(081106)の 朝日朝刊/1面、天声人語、社説

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08年米大統領選を制した民主党のバラク・オバマ上院議員(47)は4日深夜(日本時間5日昼)、地元イリノイ州シカゴで演説し、「この選挙で私たちが起こした行動により、米国に変革の時がきた」と勝利を宣言した。10万人近い観衆が歓呼で応えた。

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47歳

バラク・オバマ氏

1961年8月、米ハワイ州生まれ。父はケニア出身の留学生、母は米国生まれの白人。コロンビア大卒業後、シカゴの貧民街地域活動家を経験し、88年にハーバード法科大学院に進学。イリノイ州議会上院議員を経て、04年、連邦上院議員に初当選。ミシェル夫人との間に2女。

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奴隷制度という過去を持ち人種問題を抱える米国が、奴隷の子孫ではないものの、アフリカ系(黒人)の大統領を選んだ歴史的な選挙となった。オバマ氏は演説で「(リンカーン大統領らが言った)『人民の人民による人民のための政治』は、なお滅びてはいないと証明した。あなたたちの勝利だ」と述べ、草の根の選挙運動を支えたボランティアの努力をたたえた。

世界の人々に向けて「今夜、米国以外の議会や王宮から見つめている人々、忘れられた世界の片隅でラジオを聞いている人々に対して言いたい。(今日成し遂げられた)米国の物語は特異だが、我々の行き先は共有できる。米国の新政権の夜明けが近づいている」と呼びかけた。「この世界を破壊しようとする者たちを、我々は打つ負かす。そして、平和と安全を求める人々を支援する」と決意を語った。

また、米国の「本当の力」として「武力や富の力ではなく、民主主義や自由、機会や希望といった絶えざる理想」を挙げた。そのうえで「米国は変化できる。我々の団結は完遂できる。これまで成し遂げたことから、今後、達成できることへの希望が生まれる」と語った。

一方でオバマ氏は「待ち受けている膨大な課題を理解している」とも語った。イラクとアフガニスタンという「二つの戦争」や金融危機を例に「道のりは長く、険しい。1年、あるいは(大統領任期の)1期(4年)の間には達成できないかも知れない」との認識を示した。そのうえで「できやしないという人に出会ったら、『イエス・ウィー・キャン(我々はできる)』と答えてやろう」と呼びかけた。

これに先立ち、ブッシュ大統領はオバマ氏に電話し、「あなたは、これから人生の偉大な旅に出ようとしている」と祝意を伝えた。

ブッシュ氏は5日午前、ホワイトハウスで声明を読み上げ、次期オバマ政権への移行について現政権による「完全な協力」を約束した。また、前夜の電話でオバマ氏夫妻をホワイトハウスに招いたことを明らかにした。

ABCニュースは5日朝、オバマ氏が民主党のエマニュエル下院議員(イリノイ州選出)に、ホワイトハウスの首席補佐官への就任を打診したと報じた。

一方、上下両院選挙は民主党が過半数を維持し、民主党主導の議会が次期オバマ政権を支える形が固まった。

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米国民、現状拒否を選択

アメリカ総局長・加藤洋一

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今回の米大統領選で米国民が示した選択の本質は、「オバマ氏の勝利」というより「現状の拒否」であることが明らかだ。

イラク戦争の長期化に加えて最近の金融危機。世論調査では「米国は間違った方向に進んでいる」と答える人が約8割を占め、選挙が本格的に始まった今年初めより増えている。ブッシュ大統領の支持率も30%を切った。軍人と医師を除き、あらゆる分野の指導者に対して不信感が募っているという「リーダーシップ危機論」すら聞かれる。

2年間にわたった選挙戦は当初、テロとの戦いに勝てるのかという「安全保障」が主要テーマだったが、終盤は金融危機を受けて「富の再配分」の是非に焦点が移った。いずれも国家の最も基本的な役割であり、それが真正面から問われたことに米国の国家基盤の弱体化がうかがえる。

今、オバマ陣営関係者の間で盛んに読まれている本がある。大恐慌直後の1932年に当選した、フランクリン・ルーズベルト大統領の就任後、100日間を描いた「THE DEFINING MOMENT(決定的瞬間)」だ。未曾有の危機から国家をどう救うのか。先輩の経験から何とかヒントを見出したいという必死の思いが見て取れる。

悲観的空気のなかで一筋の光明が見えるとすれば、「初のアフリカ系大統領」の誕生だろう。5日未明、ホワイトハウス前で気勢を上げていたアフリカ系の若者は「オバマは大統領として失敗したって構わない。我々は今日、歴史を作ったのだ」と興奮していた。しかし、これで米国が黒人差別を克服したのかと問えば人種を問わず返ってくる答えの多くは「ノー」だ。

オバマ氏は奴隷の子孫ではなく「怒れる黒人」の代表でもない。選挙戦を通じて見えたのは、むしろ人種を超越しようという姿勢だ。ジャクソン師ら公民権運動家があ冷ややかな視線を送る一幕もあった。

直近の民主党大統領だったクリントン氏は、96年の一般教書演説で「大きな政府の時代は終わった」と宣言した。しかし、金融危機に対応するため、政府の役割拡大は避けられない。最近の7千億ドルに上る金融救済策が如実に示している。「過去30年続いた、より小さな政府を目指す流れは完全に変わった」(ハムレ戦略国際問題研究所所長)との指摘も聞かれる。ただ、どこに向かうかは誰にも分からないようだ。時代の転換点でかじ取りすることの難しさが、浮き彫りになっている。

「オバマ氏なら現状を変えてくれるだろう」という期待が、米国内外で高まっている。ブッシュ政権の単独行動主義が是正されることを願う日本も例外ではない。しかし何をどこまで実施するのか、できるのかーーそれはまだ未知数だ。来年1月に発足するオバマ政権にとっては、各方面との「期待感の調整」が、当面の大きな仕事となる。

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天声人語

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それは、今日の日を予言した熱狂だったように、今になれば思われる。無名だったオバマ氏が4年前、一躍全米に名を広めた演説のことだ。民主党全国大会での鮮やかな雄弁を、取材で会場にいて聞いた。

クリントン夫妻や。その年の大統領候補ケリー上院議員ーー。きら星が光る会場の空気は「オバマって誰?」だった。だが登壇し、話を始めると、大聴衆は私語をやめ、たちまち吸い込まれた。きら星もかすむ歓声と拍手が、「祖国アメリカ」を語る言葉に湧いた。

米国の民衆は政治家に言葉を求め、言葉を楽しむ。心に響く言葉によって連帯感を強め、将来を確かめ合う光景は、日本の政治風景とだいぶ違う。かの地の選挙が「民主主義の祭り」と呼ばれるゆえんでもある。

その祭りに勝ち、オバマ氏は大統領になる。4年を経た勝利演説でも聴衆を魅了していた。「民主主義を疑っている人がいるなら、今夜がその答えだ」。初の黒人大統領になる自らを、建国以来の理念に重ねた。

無名かつ無銘から登りつめた勝利の言葉は、それゆえに重い。人を勇気づけもする。ひるがえって、世襲議員の首相が続く日本とは、残念ながらだいぶ違う。選挙は将来への賭けだという。米国民は「変革」のサイを投げた。こちらは掛ける機会も見通せぬまま閉塞感が募るばかりだ。

「真に偉大な大統領になりたい。情けない大統領ならいくらでもいるから」と、氏はかって語っていた。きょうの興奮がさめていけば、後には厳しい現実が控えている。言葉の真価は、これから問われる。

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社説

米国刷新への熱い期待

オバマ氏当選

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米国を変えたい。刷新したい。

米国民のこうした思いが、一気に噴出したような選挙だった。

民主党のバラク・オバマ氏が、史上初めてアフリカ系(黒人)の大統領に選ばれた。地滑り的な大勝である。イラクとアフガニスタンの戦争と金融危機。この「非常時」に、47歳の黒人大統領に米国の再生を託したのだ。

歴史的ともいえるこの米国民の選択から二つの声が聞き取れる。ブッシュ政権のもとで分断された社会の再生への期待と、米国一極支配はもう終わりにしたいという思いである。米国という国のありようが変わるだけではない。世界との関係も新しい時代に入っていくのだろう。

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厚い壁を打ち破って

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「米国の真の強さは、軍事力や経済的豊かさではない。その理想の持つ力なのだ」と、オバマ氏は勝利演説で語った。人種や差別にかかわらず、だれにでも機会は開かれている。そんな米国の理想を自ら体現してみせた自信がみなぎっていた。

選挙中は、人種的な理由やその若さから中傷にさらされた。世論調査でリードしても、多くの白人有権者が最後は黒人候補であることで二の足を踏み、投票しないのではないかという見方もつきまとった。

そうした偏見をはねのけた末の、圧倒的な勝利である。キング牧師らが先頭に立った公民権運動から半世紀。肌の色にとらわれずに指導者を選ぶことを、米国民はついにやってのけた。米国の人種問題は、奴隷制以来の負の遺産だ。1回の選挙で克服されるはずもない。だが、人種という壁が破られた意義は限りなく大きい。これからは女性やマイノリティ-が大統領を目指すことが特別視されなくなり、社会の融和が一段と進むのは間違いない。

オバマ氏勝利の背景には、ヒスパニックやアジア系などのマイノリティー人口の増加をはじめとする米国社会の構造的な変化がある。だが、まるで革命を思わせるこの大きな意識変化は、それだけでは説明できない。

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ブッシュ時代へ「NO]

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今の米国社会には、沈滞した空気が漂っている。約8割の米国民が「米国は悪い方向に向かっている」と感じているという。軍事力と経済力で他国を圧倒してきた超大国が、自信を喪失している。

この閉塞感を打破して、新しくやり直したい。そんなリセット願望が若い世代を中心に共鳴し合い、雪だるま式に「オバマ現象」を膨らませていったのだろう。

「イエス・ウィー・キャン(われわれはきっとできる)」というオバマ氏のメッセージは米国民を鼓舞し、前向きな挑戦への意欲を取り戻せた。

オバマ氏を押し上げたもう一つの原動力は、8年間のブッシュ政権に対する有権者の「ノー」だった。

9・11同時テロという衝撃が米国を襲ったあと、ブッシュせいけんは圧倒的な軍事力を前面に立てて単独行動に走った。大義なきイラク戦争は、4千人以上の米兵と多くのイラク国民を犠牲にしただけではなく、中東を混乱させ、米国の国際的な信用を失墜させた。

そして、大恐慌以来のといわれる金融危機、ウォール街の投資銀行が消え、かって米国の繁栄の象徴だった自動車産業ではリッストラの嵐が吹き荒れている。市場崇拝と規制緩和が

生み出したバブル経済のつけが回ってきた。

「強い米国」を掲げる軍事力を強化し、「小さな政府」路線を進めたレーガン政権以来、30年近くに及ぶ新自由主義の挫折といっていいだろう。ブッシュ時代に露呈したその失敗は、共和党支持者をも失望させ、マケイン候補の大敗につながった。

「政府には果たすべき役割がある」と強調し、イラク戦争を批判したオバマ氏は、米国民の異議申し立てを鮮やかに代弁してみせた。

上下院の議会選挙でも、民主党が圧勝した。ホワイトハウスと上下院の多数を民主党が制するのは、92年にクリントン氏が初当選いた選挙以来だ。

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米一極支配の終わり

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だが、新政権を待ち受ける現実は厳しい。まずは米経済の建て直しだ。冷え込む景気や急増する失業、1兆ドル(100兆円)に達するとも見られる財政赤字はもとより、世界経済の混乱をどう収拾していくか、来年1月の就任を待たずに対応を迫られよう。

「強い米国」による一極支配の時代は、軍事と経済の両面で終わりを迎えている。米国が超大国であることは変わらないが、イラクとアフガニスタンはもはや一国では手に負えない。巨額の資金が一瞬のうちに世界を駆けめぐる金融市場の規模とスピードには、グローバルに対応するしかない。

オバマ氏が国際協調の重要性を訴え、敵対してきた国との対話にも積極姿勢を打ち出したのは、その意味では時代の要請に応えるものだ。温暖化対策や核拡散の防止などの課題でも、米国を軸とした国際協力が欠かせない。

これからの世界が多極化に向かうとしても、米国の指導力が頼りにされていることに変わりはない。「米国の再生」を待ちわびているのは、米国民だけではないのだ。

オバマ氏は勝利演説で「私はみんなの声に耳を傾ける」と約束した。世界の超えに耳を傾けて、「信頼され、尊敬される米国」をよみがえらせてほしい。

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2面

オバマ流 合衆国包む

党派や人種、統合を強調

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「民主主義の力をなお疑う人たちへの答えが出た」。4日、米大統領選で当選した民主党のオバマ上院議員は、勝利演説でこう強調した。歴史的な勝利を呼び込んだ強さの背景を探ると、草の根の組織力に支えられた、一つの社会運動ともいえる独特の政治スタイルが浮かびあがる。(ワシントン=梅原季哉)

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「米国民は、我々が単なる青のアメリカや赤のアメリカの寄せ集めではなく、一つの『アメリカ合衆国』であり、今後もそうあり続けるというメッセージを世界に発した」-オバマ氏は勝利演説で、民主、共和両党のイメージカラーの青と赤を引き合いに、分断を乗り越え、統合を目指す考えを強調した。

レッテル分けを嫌う姿勢は、共和党地盤とされる州でも、一定の勝機があれば労力を注ぐ動きとなって表れた。

オバマ氏は、5ドル、10ドルといった小口のネット募金を広く薄く集め、財政面で優位に立った。それを生かし、従来なら民主党候補はあきらめていたような州でも、積極的に選挙運動を展開した。

その結果、04年ブッシュ大統領が選挙人を獲得した州のうち、少なくともバージニア、フロリダ、オハイオ、アイオワ、コロラド、ニューメキシコ、ネバダ、インディアナの8州を、共和党の「赤」から民主党の「青」に塗り替えることに成功した。

CNNによると、全米レベルの獲得総数でもオバマ氏は6千万票以上を得て、過半数を制する勢い。民主党の大統領候補で、選挙での獲得票が50%を突破すれば、76年のカーター氏以来となる。

レッテル分けの議論に組しないオバマ氏の姿勢は、人種問題でもみられた。

今年春、ヒラリー・クリントン氏と激しい党内指名争いを続けていたころ、自らが所属していたキリスト教会の黒人牧師による「白人のアメリカ」への憎悪を感じさせる扇動的な発言が問題になり、人種問題が争点となりかけた。

オバマ氏はその後、人種問題を克服するよう真正面から全米に訴えかける演説をし、牧師との間に一線を画する姿勢を強調。分断を深める政治家という印象が定着するのを防いだ。結局はこの教会から離脱までして、既成の「黒人政治家」の枠から自由であろうとした。人種問題に対する人々の関心は薄れ、牧師との交際を問題視する攻撃も、やがて下火になった。

有権者も大半は、こうしたオバマ氏の統合への訴えを支持した。CNN調査では、80%が「人種は投票先を決める要素ではない」と答えた。人種を選択の要素として考慮したと答えた少数派の中でも、むしろオバマ氏に票を投じた人のほうが多かった。

政策面でも「リベラル」「保守」といったレッテルに縛られるのを嫌った。実際の上院議員としての投票行動は明らかにリベラルだが、「政府が全ての問題を解決してくれるわけではない」とも繰り返し、「大きな政府」への懸念を和らげようとした。

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ネットで草の根

空前の若者動員

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「我々は今、歴史を作った。すべてはあなた方が時間と才能、情熱を選挙運動にささげてくれたからこそ、可能になった。ありがとう。バラク」。5日未明、オバマ氏がシカゴで勝利演説を終えて間もなく、ボランティアの携帯電話に、こんなメールが届いた。オバマ氏は大学卒業後、シカゴの低所得者層が住む地域で草の根活動家として政治にかかわるようになった。共和党は、イリノイ州上院議員を経て04年に連邦上院議員に初当選したオバマ氏に自治体の長や会社経営の経験がないことをとらえ、「履歴書に書ける唯一の業績が『地域活動家』」(ジュリアーニ前ニューヨーク市長)とやゆした。

だがライバル陣営は、草の根から組織をを作り、人々を動かすオバマ氏の能力を見誤った。「オバマ氏の選挙運動が見せた統率力は、彼自身の反映だった」(政治コラムニストのマーク・シールズ氏)

オバマ陣営は投開票日の4日も、フロリダ、バージニアなど「決戦場」とされた州で数万人のボランティアが戸別訪問による働きかけを最後まで続けた。

若者を対象とした新たな有権者登録の上積みでまず、共和党をしのいだ。それだけで気を緩めることはなかった。そうした有権者を実際に投票所まで足を運ばせた。決め手はオバマ氏本人の雄弁だけではなく、携帯電話やインターネットを駆使した人間関係の構築だった。特に米国の選挙ではかって見られなかったほどの水準で若者を動かし、「新しい世代」を呼び込んだ。

フロリダ州東部の町メルボルンで初めて投票に臨んだ大学生デレク・ターナーさん(18)は「歴史を作る一員になっている気がして感激している」と、オバマ氏支持の理由を語った。伝統的に共和党支持層が厚く、引退した高齢者が多く住む土地だが、夜明け前からできた投票所の列には意外に若者が目立った。

CNNの出口調査では、18歳から29歳までの若年層では66%がオバマ氏に投票し、マケイン氏の32%を圧倒した。

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経済重視、民意つかむ

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オバマ氏は「ブッシュ政権からの変革」をになう候補としての位置づけを明確にした。CNNの出口調査では、候補者に最も大事な資質として「変革をもたらす能力」を挙げた人が24%で最も多く、その中ではオバマ氏の支持率は89%に達した。

「変革」は当初、外交政策で鮮明だった。07年2月に出馬表明した段階から、泥沼化したイラクからの撤退を公約に掲げた。イラク戦争に当初から反対し続けてきたを、民主党に指名争いで本命視されていたクリントン氏と差別化する点としてアピールした。

だがその後、イラクの治安情勢の改善に伴い、米国民が大統領選で選択基準に挙げる争点としても影が薄れた。CNNの出口調査では、「イラク」を最大の関心事として挙げた人は10%に過ぎない。

イラクに代わって「変革」の必要性を米国民に決定的に植え付けたのが、今年9月からの金融危機だった。オバマ氏が「今世紀最悪」と呼ぶ状況は、かっての世界恐慌並みの事態になるのではないかという国民の不安を招き、ブッシュ政権が取ってきた解決策では対応できない。思い切った変革こそが求められている、という空気を強めた。

CNNの調査では「経済状況について心配している」とした人が85%にのぼり、うち54%がオバマ氏を支持。「経済」が政策面での決定打になったことを裏付けた。

オバマ氏の選挙運動を草の根で支えた人々は今後どうするのか。米オクシデンタル大のピーター・ドライヤー教授は「オバマ陣営はすでに今年夏、ボランティアの訓練で『11月4日は始まりに過ぎない』と強調していた。政策の実現に草の根の声を反映させる道具として、今後もこのネットワークを活用していくのではないか」と指摘する。

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「大きな政府」選択へ

財政赤字拡大の恐れ

経済

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オバマ米次期政権は、不況に突入しつつある経済を早急に回復させるという、極めて難しい公約を抱えている。これまでの「小さな政府」から「大きな政府」へかじを切り、格差是正を図るとみられるが、最大の制約要因は、過去最悪の1兆ドル(約100兆円)を超しそうな財政赤字だ。

オバマ氏は近く、次期財務長官を選んで経済政策チームを発足させるとの観測がある。長官候補には金融危機対策で活躍するニューヨーク連邦準備銀行のガイトナー総裁や、サマーズ元財務長官らが浮上。すでに財務省は次期政権スタッフが使える部屋を用意、来年1月20日の政権発足を待たずに現政権と連携できるよう準備を整えている。

オバマ氏が重視するのは低所得者・勤労世帯の支援だ。ブッシュ共和党政権の金持ち・大企業優遇からの転換を選挙戦で訴えてきた同氏は、「多くの家庭が経済危機で打撃を受けている。それでもマケイン氏は大手企業の最高経営者に平均70万ドル(約7千万円)減税しようとしているが、1億人以上もいる中流米国人には減税しようとしない」と厳しく批判していた。

オバマ氏は、勤労者の95%の税負担を軽くするため、1人あたり500ドル(約5万円)の支給など実施する計画だ。これらの政策で、所得税を払わない人の割合は約10ポイント上昇、48%程度に達する見通しだ。

顧問役のエコノミスト、ジェラッド・バーンスタイン氏らは「労働生産性は00ねんから07年まで約20%上昇したが、勤労世代の中流家庭の実質所得は3%低下すいた」と、ブッシュ政権時代に広がった格差を是正する必要性を強調する。

4日の投票所の出口調査では、家庭所得が全米平均を下回る5万ドル(約500万円)未満の有権者のうち61%がオバマ氏を支持した。

だが、「大きな政府」路線の前に立ちはだかるのは財政赤字だ。今年度の赤字額は、金融危機対策などで、過去最大だった前年度の2,5倍の約1,2兆ドル(約120兆円)に急膨張する、との見通しもある。対国内総生産(GDP)比は「3,2%から過去最高の8、2%に上昇する可能性がある」(金融大手UBS)という。長期金利は0,5%幅ほど押し上げられ、景気回復にマイナスの影響を与える恐れがある。

オバマ氏の公約を実施すれば、減税だけで赤字要因は4年間で1兆ドル近く増えると試算される。同氏の経済政策に影響力を持つルービン元財務長官は「短期的には大きな財政刺激が必要」との認識だが、長期的な赤字は「我々の通貨(ドル)や経済の将来にとって、深刻な脅威となる」と警告する。

減税の効果についても、先行き不安で貯蓄にまわり、消費に点火する力に欠けるとの見方が目立つ。「厳しい財政状況で、経済政策の幅は狭まる可能性もある」(エコノミストのデビッド・ジョン)との指摘もあり、経済運営ではブッシュ政権以上に難しいかじ取りを迫られそうだ。

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イラク撤退、多難の道

北朝鮮との対話継続

外交

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米国がイラクとアフガニスタンという二つの戦場を抱える中で、イラク戦争に当初から反対、「責任ある方法」での撤退を外交安保政策の柱に掲げたオバマ氏が、任務遂行を訴えたマケイン氏を退けた。ブッシュ大統領が就任した01年の同時多発テロ以来続いた「テロとの戦い」は、オバマ政権誕生とともに転機を迎える。

昨年後半からのイラクの治安情勢改善で、大統領選の争点としては後退したイラク問題だが、世論調査では米国民の過半数がなおイラクは「負担に値しない」と考えているとの数字がある。財政面からも巨額の戦費を削減する必要に迫られており、オバマ氏は公約通り、大統領就任後16ヶ月以内の早期撤退を目指すことになる。

ただ、民族・宗派間対立の火種がくすぶるイラクは、内戦状況に舞い戻るおそれがある。その場合、国際社会から無責任と非難されてもイラクを切り捨てるのか、難しい判断を迫られる可能性がある。

テロとの戦いのもう一つの舞台、アフガニスタンに関しては、オバマ氏は「主戦場」と位置づけ、国際テロ組織アルカイダの指導者・オサマ・ビンラディン容疑者の捜索作戦を徹底させると訴えてきた。だが、アフガン問題は軍事力だけで解決できる余地は少なく、政情不安に揺れる隣国パキスタンの協力が欠かせない。

オバマ氏は闇市場を通じて流出した核による核の予防策確立を訴えてきたが、ここでも、核保有国パキスタンとの関係をどう再構築するかが課題だ。ひとつ間違えば泥沼化するアフガン・パキスタン情勢はオバマ政権の外交を占う試金石になりそうだ。

東アジア政策では、北朝鮮の核問題への対応が最優先課題。オバマ氏は北朝鮮との対話路線を打ち出している。6者協議の成果を引き継ぎ、米朝の直接協議をさらに活発に行い、非核化を目指すことになりそうだ。

オバマ氏のアジア政策顧問には北朝鮮問題に詳しい人材がそろう。中でも副大統領に選ばれたバイデン氏のもとで上院外交委員会スタッフを務めるジャヌージ氏は、訪朝や、北朝鮮当局者との民間会合への出席の経験が豊富。北朝鮮にとっても対話を始めやすいと言える。

ただ、北朝鮮の出方次第では身動きが取りにくくなる可能性もある。米朝は核計画申告の検証方法で合意したものの、合意には「試料採取」が明記されていないなど不十分な点が多い。オバマ氏は北朝鮮が検証を拒めば新たな制裁を検討すべきだとしており、今月中の開催を目指す6者協議で北朝鮮が非協力的な姿勢に終始すれば、強い態度を示さざるを得ない。

また、国際社会での存在感を増す中国とどう向き合うかは、任期を通じて問われる外交課題だ。オバマ氏は対中関係を「成熟した幅広い関係」と位置づけている。

ただ、オバマ氏は米中間の貿易不均衡を問題視、人民元の対ドルレート切り上げを求める発言などを繰り返してきた。政権与党となる民主党のペロシ上院議長は人権派として知られており、チベット問題などで中国への圧力が増す可能性もある。

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オバマ政権、同盟関係は継続

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オバマ氏の対日政策は、同盟関係の強化を基本とすることで、現在のブッシュ政権と大きな違いはなさそうだ。陣営のアジア政策チームの一員であるジャヌージ上院

外交委員会スタッフは先週、ワシントンで開かれたシンポジウムで「アジア政策への取り組みで、マケイン陣営と多くの違いはない」と語った。

ジャヌージ氏は、オバマ政権のアジア政策について「にほん、オーストラリア、フィリピンなど伝統的な同盟国との関係をまず強化、発展させる必要がある」と述べた。

米国務省当局は、新政権が当面取り組むべき重要な課題として、①エネルギー②環境③経済の3項目を挙げる。

「3項目は相互に深く関連している」として、全体として両国経済にプラスとなる形で取り組む必要性を強調した。

ただ、日米両国関係者がそろって改善の必要あると指摘するのが、北朝鮮をめぐる両国の政策調整だ。米国政府が10月に踏み切った北朝鮮のテロ支援国家指定解除をめぐっては、北朝鮮の非核化交渉の進展に必要とする米国に対し、「日本や韓国との調整を優先してほしかった」とする日本側に不満と不信感が残った。

日本側は「オバマ陣営関係者は、日本が不満に思っていることはよく理解している」としており、改善に期待をもっている。

オバマ政権は来年1月の発足直後、まずイラク、アフガニスタンを含めた中東政策に力を注ぐと見られている。日米関係に本格的に取り組むのは春以降になる見通しだ。