2009年1月10日土曜日

岡田ジャパンの目指すスタイルは

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岡田武史監督の目指す、日本サッカージャパンの試合運びのスタイルが見えてきた。選手も実感をともなって共通認識を持ち始めたようだ。大型ストライカーの出現を期待するには無理がありそうだ、がJリーグが培ってきたものや、日本人のもつ俊敏性や生真面目さ、小兵ならではの特性を生かしたチームが確かなイメージで出来上がりつつあるように思う。朝日新聞の記事を参考にしながらまとめてみた。

先ずは、マルキーニョス(32)が、Jリーグ年間表彰式(2008Jリーグアウォーズ)で最優秀賞を受賞したことです。2連覇した鹿島のブラジル人FWで、初受賞で、得点王(21得点)、ベストイレブンと合わせて個人賞3冠に輝いた。このマルキーニョスが何故(なにゆえ)にこの最優秀賞に選ばれたかということだ。FWとして、最高得点をゲットしたことは、言うに及ばないが、それよりも何よりも、彼の守って得点するそのハードワークにある。鹿島の同僚が、口々に評する言葉、岡田ジャパンに定着した内田篤人は「前から激しく球を追って組織プレスのスイッチを入れてくる」、これまた岡田ジャパンの興梠慎三は「あの姿を見ると僕もさぼれない」。彼自身は「FWも献身的に守るのが現代サッカー」。並のFWがここまで守備に力を注げば本分の攻撃まで手は回らないもの。「そこは工夫した。1人でやるのではなく、仲間と協力してゴールに向かおうと」。岡田監督は、このような鹿島を百も承知している。彼の国籍は日本ではないので、岡田ジャパンに招請されることはないが、影響力は大だ。

前記の内容とオーバーラップするのですが、私には印象強く網膜に刻まれた局面と、それについての中村俊輔のコメントを聞いて、これこそ岡田監督が求めるゲーム運びなのでは、と思ったことがある。W杯最終予選の日本とウズベキスタン戦だったかカタール戦だか忘れたのですが、後半の半ばに交代選手としてピッチに入った佐藤寿人が、ボールをキープする相手選手を追いかけて、追いかけて、最後はスライディングして相手のボールコントロールを狂わせた。そのニュートラルになったボールを日本の選手が奪ったのです。このプレーを中村俊輔は「あのようにして、ボールを追いかけて、相手を潰すことが、攻撃のスタートなのです。彼はよく理解しているのです」、こんなコメントを静かに言い切った。岡田監督と、ゲームメーカーである中村俊輔の共通し合った認識なのだろう。前日本代表監督のイビチャ・オシム氏(67)の教え子の巻誠一郎も、前線で必死にボールを追いまわす。

マルキーニョスの頑張りに鹿島のメンバーが応えているように、FWが必死にボールを追いかけると、チームとしての緊張感は否応なしに引き締まる。士気は上がる。また攻められてもコースが絞られてくるので、守備はしやすくなる。守備がしやすくなると、攻撃へのエネルギーは温存されるし、攻撃に対する想像力は生き生きと澄む。

岡田監督が敬意を払い、何かとアドバイスを貰っていたオシム氏の、日本に在住中言い続けていた「走れ」、「真剣に全力で動いて取り組め」の言葉の重要さを、岡田監督はよく理解している。オシム氏の所産は偉大だ。

又、Jリーグ覇者の鹿島は岡田ジャパンの攻撃のヒントにもなったと思われる攻撃のパターンを確立した。マルキーニョスは、興梠慎三と息を合わせ、2人の縦パスで裏へ出る得意形を築いた。欧州リーグの映像を見返し、複数の連係で攻めるイメージを固めた、とマルキーニョスは言っている。中村俊輔や中村憲剛、長谷部誠、遠藤保仁から、時には大きく展開したり、時には短く、パスで繋いで繋いで、前線(戦)の狭いエリアまでボールを持ち込み、そこでタイミングを外しての、相手守備陣の裏でパスを受け、短い距離からの正確なシュートでゴールを奪うパターンだ。この戦法に合った選手がFW陣を占める。玉田圭司、佐藤寿人、大久保嘉人、田中達也、興絽慎三、香川真司、山瀬功治らだ。前線では守備で走り回り、球を奪えばゴール前へすぐに飛び出す田中達也は、インタービューで答えている。「自分に合う、自分を出せる戦術です」、と。また、ラテン系・田中マルコス闘莉王、オシムの申し子・阿部勇樹と巻誠一郎、野武士・中澤裕二等の個性も活かそうとしている。

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(11月19日のカタール戦の前半19分、内田からのパスに抜け出す田中達也⑧。この後先制ゴールを決める)

昨年の暮れのクラブ杯の準決勝で、優勝したマンチェスター・ユナイテッドにガンバ大阪が挑んだ試合では、ガンバ大阪のパスワークが評判だった、また元マンUのボビー・チャールトンさんは「インテリジェンス」と「平常心」を褒めていた、と朝日新聞は報道している。ボビー・チャールトンさんの、会場提供国としての日本に対する敬意と社交辞令による褒め過ぎ、評価し過ぎの感は否(いな)めないにしても、この場は身を引き締めて拝聴させていただこう。実際のゲームにおいて、マンUは手を抜いたとは言わないが、長旅の疲れもあったのだろうが無理はしなかった。先取点を取ってからの、マンUのゲーム運びには必死さが見えなかった。ところが1点差になると、ルーニーの劇烈なゴールで日本を突き放した。危機に陥っては爆発的に稼動する。この違いは何だ。サッカーの歴史の違いと、どうしても欧州と日本とのフィジカルの違いに行き当たる。この欧州との差を埋めるには、試合を重ね、国際経験を豊かに積み上げるなどの努力が必要で、その必要性は理解できても時間はかかる。弛(たゆ)まぬ不断の努力を続けることだろう。日本の選手は、外国のクラブチームにどんどん移籍して、試合に出ることによって練磨され、視界の広い選手になって欲しい。

岡田監督が、しばしば使う言葉の一つは「Our Team」だ。自分たちのチームだという意識を持たせている。私も、35~40年前大学でサッカー部に在籍していた。当時、私は、部員が宴席や何かと集まる機会に、言い続けていたことがあったのです。それは、人の「縁」のことです。我が大学には、北海道から九州まで、高校時代、名を馳せた名選手もいれば、私のようにレベルの低い選手らがごっちゃ混ぜに集まって来ていた状況の中で、武蔵野のグラウンドでサッカーをする為に集まったのだから、最長4年最短1年間、かけがえの無い制約された期間、実のあるように頑張ろうや、ということでした。人の「縁」を真面目に考えると、人の「絆」が深まるのです。「君と私、その他の仲間、コーチと監督、との邂逅。武蔵野のこのグラウンドで、一緒にサッカーの出来る幸せを徹底的に大事にしようということでした。Jリーグの各チームに所属してそれなりの評価を受けながら、尚、日本代表チームのメンバーとして、もう一段高いレベルのプレーを目指す気概と、日本代表に選ばれた者同士の「絆」と、誇りを持つこと。そのような精神土壌の中で、本気で戦うチームでしか得られない連帯意識を醸成する。そしてチームは一丸となる。そんなチームを岡田監督は構想しているのだと私は思っている。

それと、セットプレーの精度を今以上に上げることだろう。セットプレーは強豪チームにだって泡を吹かせることができるのだ。これは、妙味だ。日本チームの知恵の出しどころだ。

W杯アジア最終予選はこれからが山場だ。産業界は土砂降り状態で、気の休まるときがない。どうか、いい試合を見せ続けて欲しいものです。