東京演劇アンサンブルの年末恒例の「銀河鉄道の夜」を観てきた。第26回目の公演だそうだ。
081224/19:00~
作=宮沢賢治
脚本・演出=広渡常敏
音楽=林光
協賛=ケンタウルスの会
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今年は、私と私の娘(次女)と次女の息子(私の孫にあたる可愛い子です)と、次女の同居人K氏の4人で、いつもの練馬区関町のブレヒトの小屋へ行ってきた。年末のせいかクリスマス・イブのせいか、道路は大混雑で、横浜から2時間以上かかった。混んでる道路の傍にでも軽便鉄道の停車駅がないか、と夢想したのは私だけだったようだ。昨年は会社の忘年会を兼ねて、1回の公演を貸切にしていただいた。この20年程の間に、6回観ているものの、昨年も観たのだが、解らない部分を抱えたままだったので、今まで意味が解らなかった部分やセリフの聞き逃した部分を注意して、以前に観たのを振り返りながら、本を思い出しながら、じっくり観劇した。今回こそ完全に理解してみせるぞ、と気合を込めた。原作はきちんと読み直してやって来た。
私の後ろに座った中年のご婦人は、一緒に来たと思われる知人に「わたし、このお芝居、よくわからないのよね。映画ではわかったのですが」、なんて話していることが漏れ聞こえた。どんな映画を観たというのだろうか。私も、やっと前回ぐらいから、少しは解りかけたところだったのだ。宮沢賢治の世界は、難しいけれど、私にもようやく解りかけてきている。
原作を、映画化する、お芝居にする、絵〈画〉本にする。制作者は、原作者の作意というか、物語を起稿した本意を、各種各様に具現化して我々を楽しませてくれる。当然、原作者の筋書きのままのものもあれば、逆説的に、誇大に、時には反逆的に、アイロニー的に展開するものもある。いったん壊して再構築する作業だ。監督、脚本家や演出家のオリジナリティー〈創作意向)に委ねられ、具体的な作品になって、我々の目に晒(さら)される。
この宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」のお芝居の脚本と演出を担当した、今は亡き広渡常敏氏の文章をパンフレットの中に見つけた。この広渡常敏氏の文章を読むと、先ほどの「わたし、わからないのよね」なんて頭を傾げていた人にも一助、理解できるのではないだろうか。
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- 宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」をご覧になる前に
広渡常敏
「銀河鉄道の夜」の童話的構図について、私はこう考えております。
「銀河鉄道の夜」はめくるめくイメージを読者に吹き付けてくる。ぼくが中学生三年生の頃はじめてこの衝撃的な童話に出会って、ときめく胸の高鳴りをおぼえ、いいようのない感動を持て余した夜のことを思い出す。戦争の日々の暗い灯火管制の電灯の下で、この童話を読んでいる一人の中学坊主姿を思い浮かべる。現在の〈定稿)と部分的に異なっている箇所もあった。超現実の作品でそれも夢の中の物語だから、説明のつかない難解なところがあるにしても、溢れる燐光のイメージの中を泳ぐんだと、僕も思ったし友人もそう言っていた。
それは50年後の今日でもやはりそうに違いないが「銀河鉄道の夜」を舞台化するために脚本を書くとなると、夢の曖昧さでは済まされない。夢という意識化の海に潜められている詩人のエクリチュール(作品行為)をたどり、俳優が追体験できるように脚本が書かれなくてはならない。古くからの友人の一人は舞台なんか見たくない、作品の幻想的イメージがきっと壊されるだろうからという。だが演劇は文学から受けるイメージを舞台に再現するものではない。作者のエクリチュールの源泉に迫り、俳優自身の作品行為を行為するところが舞台なのである。
賢治の〈不完全な幻想四次元)世界では、人々の願いや祈りによって世界が変化する。思いが実現するのだ。そして銀河鉄度の彼方の四次元世界に〈お母さんのお母さん)がいらっしゃる。三次元現実の〈お母さん〉は病気で、ジョバンニの牛乳を待っていらっしゃる。四次元世界の〈歴史の歴史〉は三次元現実では〈歴史〉となる。どうやら幻想四次元の投影として三次元現実があるらしい。さながらマルセル・ジュシャンの投影図法のようでもある。もしーーー三次元現実の人々の願いや祈りが、銀河の後方の幻想四次元世界に届くならば、不動と思われる現実も変化することができるかもしれない。このような祈りにも似たユーモラスで稚気あふれる世界像が、「銀河鉄道の夜」の基軸構造である。
櫓のまっくろに並んだ坂道で立派に光って立っている電灯の下に自転車のスポークのように四方に伸びているジョバンニの影たち(二次元)。それらの影が地面から起き上がって(三次元となって)ジョバンニを取り囲む。ジョバンニは三次元から四次元へ出発することになる。銀河ステーションに夜の軽便鉄道の音が近づいてくるのだ。
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銀河の底でうたわれた愛のうた
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詞・広渡常敏
曲・林光
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ひとすじにやさしく まなかいにいつまでも 愛
貝殻に火をともし あの人の名前を呼ぼう
さそり座揺らぐ夜
麦の穂をくちびるに 願いごとささやこう
乙女座燃ゆる夜
ひとすじにやさしく まなかいにいつまでも 愛
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