サッカーの10年ワールドカップ(W杯)南アフリカ大会、アジア最終予選A組の日本代表は28日、埼玉スタジアムでバーレーン代表に1-0で勝った。日本は勝ち点11とし、試合数が一つ少ない勝ち点10のオーストラリアを抜いて首位に立った。日本は後半2分、FKからの中村俊輔(セルティック)のシュートが相手チームの選手が飛び上がったところ、その頭に触れコースが変化してゴールした。日本はそのまま逃げ切った。
そこで私が、このバーレーン戦で岡田ジャパンに思ったこと。
岡田ジャパンの全てのメンバーがいくつかの課題について意識を共有できつつあるのを感じる。岡田監督が言う、リスク管理についても認識が共有できている。リスク管理とは、リスクを冒さなくてはならないとき、リスクを抑えるとき、リスクを冒してはいけないとき、その時々においてチームとしてあるべき状況を管理することだ。このリスク管理の采配や度合いが、相手にどれだけプレッシャーをかけているかのバロメーターにもなる。今回の試合においては、守備は決定的なピンチに陥らなかったことからはマルだ、が攻撃においてはどうだったのだろうか、それはサンカク、物足りなかった。結果良しで、勝ったのだから、今回のゲームを通しては及第点だったと言えよう。バーレーンのマチャラ監督は、試合後のインタービューで、「強く、しかも集中している相手と戦わなければならなかった。プレッシャーがあった。日本はいい試合をしたと思う」とコメント。相手チームを讃える配慮のこもった発言だろうが、相手は日本のプレッシャーを感じていたのだ、私も同感だった。
日本チームは相手が強かろうが、落ち着いて球をさばく技術は相当高くなった。攻撃においての共有認識の第一番目は、ゴール前の攻撃において、相手バックスの裏で小さいパスを受ける形を武器としたことだ。
その二は、両翼からの大きなクロスではなく、勇気をもって中に持ち込んでの、短いクロスにピンポイントで合わせることだ。再三試みたものの、うまくはいかなかった。けれども、これも一つの形だ。小柄(小兵)ならではの、日本選手の器用さを活かしたやりかただ。このピンポイントで合わせるには、高度な技術が求められる。タイミング、場所、球質、正確性が求められる。運動量を多くして、層を厚くして対処すれば、シュートの可能性は拡がる。
その三は、相手攻撃の機先を早い目に制すること。相手攻撃の芽を早く摘み取ること。相手にボールが渡ったならば、ポジションにかかわらず近くにいる者は、がんがんボールを追っかける。相手陣営で、ボールを得たならば、それは一気に大きなチャンスに繋がる。
ここまでは、岡田ジャパンが全員に認識、共有させている行動原則の一,二,三だ。今後この形は、ますます精度を高めてもらいたいと思っている。
次に、私が物足りなさを感じたことを書こう。
岡田ジャパンには、シュート数が少な過ぎることだ。もっと思い切ってシュートを打つべきなのだ。私が尊敬してやまないセルジオ越後さんが、テレビ解説で再三言っていたのですが、ペナルティエリアの周辺で、フリーキック権を得たならば、必ずシュートを打つでしょう、だからこの辺りでは、もっとシュートを打たなくてはいかんのですよ。
シュートチャンスに、選手はできるだけ確実なシュートを打ちたがる。当然だ。好い体勢で打つためには、ワンタッチして、ボールをある程度コントロールしてから、打ちたがる。守る方だって必死だ。好い体勢でなんか絶対打たしてはくれない。そして精度の高さが求められる。神の手・マラゾーナや黒い真珠・ペレーならともかく、簡単にはスーパーシュートは無理だ。
ペナルティ・エリアから遠いならば、ワンタッチもやむを得ないが、ペナルティ・エリア付近からは、ダイレクトでどんなボールに対してもシュートを試みることだ。私は以前に、マラゾーナの追っかけ写真家の書いた本で知ったのです、マラゾーナのシュート練習のこと。ゴールを背にしたマラゾーナに対して、数人が色んな角度からドンドン変化に富んだボールを蹴り出し、それをなんとか直接、ワンタッチなしのシュート練習を繰り返す。そんな光景の紹介が記憶に蘇った。日本は、美しくシュートしてゴールを得る、そんなイメージから早く抜け出して、失敗しても失敗しても狂ったようにシュートを打ってもらいたいものだ。無理してでも、シュートを打つことからチャンスは生まれるのだ。その放たれたシュートがゴール・ネットを揺さぶればハッピーだし、入らなくても放されたボールはその瞬間にニュートラルな状態になる。こぼれ球(ダマ)だ。ボールがコート外に出なければ、攻撃陣にとってはラッキー続きだし、守備陣にとっては、不幸続きになる。そのボールを我が物にできれば、ゴールに繋がるってなもんだ。いくら工夫してもダイレクトで打てないときは、この時こそ味方にパスするしかない。この千載一遇(ちょっと大げさ過ぎるかな)のチャンスを見計らって、攻撃の層を厚くすることだ。この感覚が読み取れないようでは、いつまでも得点不足から、抜け出せない。
ヘッデイングのゴールの確立が高いのは、目の近くの額にボールを当てるので確実にコースを選べることと、一発で放されるので、変化が大きく、防御する側からはボールの進むコースがよみにくいからだ。防御する側の逆のコースを攻めることができたときは、その効果は抜群だ。この理屈は、「ワンタッチなしでシュートしろ」、にも通じることだ。
中盤やその後ろのエリアではワンタッチが許され、そのエリアを担当する者のなかからは、優秀な選手を輩出できた。中田英寿や中村俊輔が代表的だ。だが、ワンタッチも許されないトップを任せられる選手は、日本ではどの選手も団栗(どんぐり)の背比べで、スーパースターが生まれていない。そろそろ日本にも、花形、スーパーシューターが待ち望まれる。
以上が、私が岡田ジャパンに捧げる、応援メッセージだ。
上の文章をまとめて誤字がないように確認してから投稿しようと思っていたら、暫く時間が経ってしまった。そうしているうちに下のような新聞記事が出た。シュートに対する私の考えと、俊輔の考え方が同一だった。よかった。
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20090405
朝日朝刊・スポーツ
2010年W杯 南ア大会へ
言葉の重み 俊輔自覚
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3月22日のW杯アジア最終予選・バーレーン戦の後も、大きな人垣ができていた。
「縦パスが多かったから、斜めに出すとか、そういう工夫の余地はあった。それはハーフタイムに話し合った」
「自分が入れたから言うわけじゃないけれど、得点は大きいね。点が入るとバーレーンの動きが止まった。焦って蹴り始めた。つくづく得点の影響は大きいと思った」
「ウッチー(内川)のシュートとか(田中)達也のシュートとか、シュートそのものの精度という問題もあるけれど、もう一人FWがゴール前に入っていれば外れたシュートを拾ってゴールという可能性もある」
選手と記者が直接話せるミックスゾーンで、中村俊輔(セルティック)の前に多くの報道陣が集まるのは、スター選手だからという理由だけではなく、的確な解説が聞けるからでもある。
「日本代表が今どういうことに取り組んでいるかをできるだけ分かってもらいたい。だからミックスゾーンで一生懸命しゃべる」と言っていたのは、バーレーン戦の日本代表24人が発表された3月19日。グラスゴー(英)の自宅近くで話を聞いた時だ。
「年齢(30歳)もキャップ数も一番上の方になってきた。自分の話したことは新聞にも載りやすい。発言力とか影響力は考える」
そう話す中村の視線の先に、所属事務所でメデイア対応をする八木繁さんが座っていた。有名タレントにも助言し、自身の著書「察知力」の編集作業にもかかわった「プロ」を意識しながら中村は言葉を選ぶ。上から見た発言になっていないか。他人に思わぬ迷惑をかけないか。多様な受け手に真意がきちんと伝わるか。八木さんがチェックするポイントがいくつかある。
「ジーコ監督の時もトルシエ監督の時も、自分がいいプレーをしてチームに貢献するという考え方だった。気にしていたのは自分のシュートとスルーパス、直接絡むFWとMFぐらい。今は自分がいいプレーできなくてもチームが勝てばいい。僕は右MFだけれど一番遠い左DFまで気になる。左DFの動きがちょっと変われば、僕には関係なくてもチームに関係してくる。
考え方の変化は、年齢を重ねたということもあるが、イタリアでの苦労や欧州チャンピオンリーグでの経験から、「これだ」というものをつかめたことが大きく影響しているという。
日本代表の現状を分析し、課題、目標、夢について語りながら「どうしても上から言うみたいになっちゃうけれど、チームを強くしたい。勝ちたいっていう気持ちだけだから」と加えた中村。八木さんは笑って見ていた。