2015年7月26日日曜日

冥王星

20150720 朝日新聞の天声人語から

太陽系の8人きょうだいは普通「水金地火木土天海」と順に並べられる。「木土天海地金火水」と並べることもできる。前者は太陽に近い順で、後者は大きさの順だ。どちらの末尾にも9年前までは「冥」の文字がついていた。

一番遠くて一番小さい惑星だった冥王星である。月より小粒な「末っ子」が格下げされて準惑星になったのは記憶に新しい。そのときの本紙社説の見出しは趣があった。「冥王星 地球は君を忘れない」。折りしも米国の探査機が冥王星への旅に出たばかりだった。

その「ニューホライズンズ」が、9年半、48億キロの旅をへて冥王星をかすめる最接近に成功した。送ってきた画像には、漆黒の空間を背に、氷でできた3千メートル級の山の連なりが写る。人類が初めて目にする荒々しい素顔だ。

探査機は、冥王星を発見した米国の天文学者クライド・トンボーの遺灰も載せている。米国人が見つけた唯一の惑星とあって、米の学者は国際会議で格下げに反対した。三つの小ぶりな星を加えて12人きょうだいに増やす案も登場するなど白熱した。

降格という処遇ゆえに話題性は増し、「君を忘れない」の長途の旅がロマンと感傷をかきたてる。探査機はそのまま飛行を続け、太陽系のいわば「村はずれ」である外縁の天体を観測するという。

任務を終えた後は、人類のメッセージを携えて太陽系から遠ざかっていく。故郷の青い惑星に高度な文明がある。その証しである。地球をむさぼり、痛める文明でありたくはない。