「開き直り」が生む価値
20151209 野坂昭如は心不全でなくなった。
以前にネットと新聞記事を材料に書き込んだ文章があったので、本日公開します。
以前にネットと新聞記事を材料に書き込んだ文章があったので、本日公開します。
ノサカのこの記事を読むと、急に懐かしさがこみ上げてきた。
筆者は、ノサカを意識してか、元々の文章の綴り方がそうなのか、ちょっと乱暴でもあるのが、嬉しい。
朝一番、新聞★を読みながらの朝食の時でした。
長いこと彼の著作物から遠ざかってしまっていた。
懐かしい。
彼のことを朝日新聞の文化欄で取り上げているなんて、なんだか不思議な気がして、嬉しかった。
実に久しぶりだった。
最近はマスコミに露出する頻度が少ないように思われるのだが、ノサカのホームページでは元気がいい。
何故、こんなにノサカのことに興味がそそるのか?私にも一見ノサカ風の一面を持っているのかもしれない。
寂しい、鳴泣!悲しい。
彼の反戦や秩序に真正面の戦い心に頭が上がらない。
★野坂という一人の男を知ってからのことを思い出してみた。
現実に会ったこともない。
テレビとラジオと週刊誌と小説のうえでのことだけれど。
私の青春時代の読書遍歴はしっちゃかめっちゃかだったのです。
先ずはデカダンから始まった。
大江健三郎、安倍公房に始まって、三島由紀夫、その間も、古本屋で手当たり次第安価な本を乱読した。
川端康成、丹羽文雄、石坂洋二郎、石川達三、井上靖、田辺聖子。
そんな作家たちのなかで、野坂には文学的野坂の思い出を巡ってみたいと考えた。
秋吉久美子の裸見たさにピンク映画館に忍び込んだのは、中学3年の冬だった。
せっかくドキドキものでモギリを突破したというのに、秋吉のヌードも映画のストーリーも全然記憶に残らなかった。
主題歌が強烈過ぎたのだ。
映画と同名のその歌は「バージンブルース」。
歌うのは野坂昭如。「ジンジンジンジン血がジンジン/ 寂しい男は眠れない/ 百恵もジュン子も総あげだ」
あなたもバージンあたしもバージン、と続く。
あまりといえばあまりのインパクト。なんだ、なんだこのおやじは?
以来野坂といえば、小説家というより歌手として、自分には刻印された。
実際、彼の歌は小説家の余技ではない。レナード・コーエンを思わせる不必要に低い声。
「トントンとんがらしの宙返り」 「さよならさよなら国家甲羅(コッカコーラ)」など即興的な装飾フレーズ。
野坂の歌は歌詞にはずれがない。
しかも、ほかの男が歌ってはさまにならない歌詞なのだ。
妻子持ちの四十路(よそじ)男、道ならぬ恋の相手が結婚し、飲む水割りの物思い、幸せになれよとつぶやいたすぐその後に「てなこと言って俺は俺/ 俺は俺だけの道を行く/ たとえ地獄へ落ちようと」。
この開き直り。
野坂をゲストに迎えたクレイジーケンバンドのライブ盤「青山246深夜族の夜」が、6月、ヴァインから再発された。
久しぶりに聴く野坂は、やはり国宝級の投げやりっぷり。
つい懐かしくて、昔、入手した未発表曲などを集めた音源を聞き返してしまった。
有名な「ソ、ソ、ソクラテスかプラトンか」もいいのだが、野坂には大傑作がまだたくさん隠されている。
「おめおめ老いぼれ生き延びて/ おめおめテレビに者(しゃ)っ面(つら)さらし(/おめおめ00こと夢の中/ 八十島(やそしま)目指す剰(あまつさ)え」〈「大忸怩(じくじ)」〉、「九段の桜は散りました/ 靖国神社空っぽ/ ぽぽぽっぽ鳩ぽっぽ)〈「九段の桜」〉。
野坂以外が歌っても何のことやらさっぱり意味不明だ。
しかし、あの吃音(きつおん)まじりのダークな声を通ると、曲の意味性が立ち上がる。
歌い手として野坂の価値は、おそらくそこにある。
ーーーーー
聴いていて胸騒ぎがするような野坂の歌い方には、どこか怪しさがつきまとっていた。
不安定な音程が、聴き手の不安感をかきたてた。
「マリリン・モンロー・ノーリターン」がさほどヒットしなかった原因は、そこにあったのではないかと思われる。
ところが話題性がなくなった後になっても、レコードはそこそこは売れ続けた。
それはB面に入っていた「黒の舟唄」のおかげだった。
男と女の間に
深くて暗い川がある
誰も渡れぬ川なれど
エンヤコラ 今夜も舟を出す
Row and Row Row and Row
振り返るな Row Row
お前が十七 俺十九
忘れもしないこの川に
二人の星のひとかけら
流して泣いた夜もある
Row and Row Row and Row
振り返るな Row Row
- 『エロ事師たち』講談社 1966年 のち新潮文庫
- 『とむらい師たち』講談社 1967年 のち文庫、岩波現代文庫
- 『受胎旅行』新潮社 1967年 のち文庫
- 『アメリカひじき・火垂るの墓』文藝春秋 1968年 のち新潮文庫
- 『好色の魂』新潮社 1968年 のち文庫、岩波現代文庫
- 『軍歌・猥歌』講談社 1968年
- 『真夜中のマリア』新潮社 1969年 のち文庫
- 『色即回帰』講談社 1969年 のち文庫
- 『騒動師たち』光文社〈カッパ・ノベルス〉1969年 のち角川文庫、集英社文庫、岩波現代文庫
- 『水虫魂』朝日新聞社 1970年 のち新潮文庫、岩波現代文庫
- 『エロスの妖精たち』中央公論社
- 『てろてろ』新潮社