2018年6月21日木曜日

袴田巌さん再審取消し!! どういうこっちゃ?


先月、映画「獄友」を観て、感じたことを映画館でもらったパンフレットなどを材にブログを発した。
石川一雄さんの「狭山事件」については、高校時代に知って、検証した本からそれなりのことは解っていた。
が、今回、話題にした「袴田事件」については、20年程前に知った。
当然、内容など知る由はなかった。そして、映画「獄友」で袴田巌さんを知り、極めて彼に興味をもった。

この映画「獄友」で、叱られそうな言い方かもしれないが、狭山事件の石川一雄さんとこの袴田事件の袴田巌さんのことが気がかりになった。



写真・図版
東京高裁の決定を前に、弁護士会館に入る袴田巌さんの姉・秀子さん(右)。
2018年6月11日、午前11時44分 東京霞ヶ席
(林 紗記撮影)



石川さんのことは幾本か読んで解っていたが、この袴田さん、御本人のことは、この映画を観るまでは余り知らなかった。
1966年 静岡県清水市(現・静岡市)で、一家4人が殺害された事件で死刑が確定した。
元プロボクサーの袴田巌(82)について、静岡地裁が2014年、DNA型鑑定などを根拠に再審開始を認めた。
袴田さんを釈放する異例の決定を出した。

ところが東京高裁は2018年6月11日、再審請求を認めない決定をした。
弁護側は高裁決定を不服として、最高裁に特別抗告する方針。


2018 6月12日の朝日新聞を転載させてもらう。


1面
袴田さん再審取り消し
死刑停止・釈放は維持
「DNA鑑定 地裁の評価誤り」

東京高裁
1966年に静岡県清水市(現・静岡市)で一家4人が殺害された事件で、死刑が確定した元プロボクサーの袴田巌さん(82)=浜松市=について、東京高裁は11日、再審請求を認めない決定をした。
大島隆明裁判長は、4年前に再審開始を認めた静岡地裁決定の最大の根拠となったDNA型鑑定について「手法に疑問があり、結果も信用できない」と判断。
「証拠の評価を誤った」として地裁決定を取り消した。

地裁は決定で袴田さんの死刑の執行停止と釈放も認めていた。
高裁はこの点について「(袴田さんの)年齢や健康状態などに照らすと、再審請求棄却の確定前に取り消すのは相当とは言い難い」と述べ、取り消さなかった。
これにより、袴田さんの異例の釈放は当面、維持される見通し。
弁護団は高裁決定を不服として、最高裁に特別抗告する方針だ。

袴田さんは被害者らが経営に携わるみそ工場の従業員だった。
確定判決では、事件の1年2か月後に工場内のみそタンクから発見された5点の衣類が「犯行時の着衣」と認定された。
再審請求では、このうちのシャツにあった血痕から、「袴田さんと別人のDNA型が検出された」という本田克也・筑波大教授による鑑定の評価が争われた。

地裁はこの鑑定結果の信用性を認めたが、高裁は本田教授が試料を集めるために使った方法にについて、「布に付着したDNAを抽出することは困難」と疑問を示した複数の専門家の意見書などを重視。
「科学的原理・知見の信頼性が十分ではない」と指摘した。
本田教授が実験のデータやノートなどを「消去した」と説明したことも「あまりに不自然だと述べ、「鑑定結果の信用性は乏しく、地裁は評価にあたって慎重さを欠いた」と判断した。

弁護側はみそタンクに漬ける再現実験の結果から「衣類の色合いが不自然」と主張。
地裁決定はこの主張も認め、捜査機関による証拠の捏造の可能性にも言及したが、高裁は「実験で使われたみその色は、正確に再現されたものではない」などと指摘。
さらに、5点の衣類が発見されるまで検察が別の衣類を「犯行時の着衣」と主張していたことも踏まえ、「捜査機関が捏造する動機は見いだしがたい」とした。

(杉浦幹冶)

  

再審開始決定取り消しを支援者から聞かされる袴田巌さん
11日午後、浜松市、代表撮影



東京高検の曽木徹也次席検事の話
法と証拠に照らし、適正かつ妥当な判断だ。


東京高裁決定の骨子
●「犯行時の着衣」の血痕から袴田巌さんと別人のDNA型が検出されたという鑑定結果は信用できない。静岡地裁は鑑定の評価について慎重さを欠き、判断を誤った。

●捜査機関がこの衣類を捏造した証拠はなく、犯行時の着衣であり、袴田さんのものだという確定判決の認定に合理的な疑いは生じていない。

●袴田さんの年齢や健康状態を考慮し、死刑と拘置の執行停止は取り消さない。


視/点
正反対の判断
審理に不信も
死刑が確定した袴田巌さんの再審請求に対する判断は、地裁と高裁で大きく分かれた。

事件から既に半世紀以上が経過し、証拠も古くなっている。
そんななか、弁護側が推薦した鑑定人は前例のない鑑定を試みた。
地裁はその結果を高く評価したが、高裁は「確定された方法ではない」などとして信用性を否定した。

だが、高裁決定に多く登場するのは、4年にわたる審理の大半を費やした鑑定の検証や鑑定人尋問の結果よりもむしろ、審理の最終盤に検察側が追加提出した、鑑定手法に懐疑的な専門家らの意見書の内容だ。

「審理の意味がなく、結論ありきの決定だ」という弁論側の反発には、再審請求の審理ルールが明確ではなく、裁判官の裁量が通常の公判と比べても大きいことへの不信も影響している。

静岡地裁は決定で「証拠捏造の疑い」とまで言及した。
再審で公開の法廷が開かれれば、捜査全体の検証にもつながった可能性があるが、このままではその機会も失われる。
異例づくしの再審請求の経緯は、現行の司法制度のあり方にも深い疑問を投げかけている。

(高橋淳)



2面
袴田さん 重い再審の壁
鑑定の信用性 覆った評価

いったん開いた「再審の扉」が、再び閉じられた。
52年前に静岡県で起きた一家4人殺害事件をめぐり、静岡地裁と東京高裁の判断を分けたのは、DNA型鑑定の信用性への評価だった。
一方、死刑確定後も再審請求を続けてきた袴田巌さん(82)の釈放は引き続き認められた。
異例の経過をたどってきた審理の舞台は、最高裁に移る。








再審 4年経て一転 
袴田さん姉「50年戦った。頑張る」



事件をめぐる主な経緯
1966年6月 
静岡県清水市(当時)のみそ会社専務家から、殺害された一家4人が 見つかる。
11月
袴田さんが初公判で起訴内容を全面否定。

1967年8月
工場のみそタンクから血の付いた「5点の衣類」が見つかる。

1968年9月
静岡地裁が死刑判決。

1980年11月
最高裁が上告を棄却。

2008年4月
静岡地裁に第2次再審請求。

2014年3月
静岡地裁が再審開始と袴田さんの釈放を決定。
検察側は東京高裁に即時抗告。

2018年6月
東京高裁が検察側の即時抗告を認め、再審開始決定を取り消す。




再審開始と釈放を決めた4年前の静岡地裁の決定から一転、東京高裁は袴田巌さん(82)の再審開始決定を取り消した。
死刑囚としての再収監は免れたものの、袴田さんを支持する人たちからは、怒りや戸惑いの声が上がった。


憤る弁護団「偏見で判断」
「大変残念な結果です」。
弁護団と記者会見に臨んだ巌さんの姉の秀子さん(85)は、「身柄の拘束はしないと書いてあるので、ひと安心しています」と、言葉を続けた。

巌さんは2014年3月に静岡地裁の再審開始決定で48年ぶりに釈放されたが、長い拘禁生活で精神を痛み、会話もままならない。
秀子さんは弟を故郷・浜松市の自宅に迎えて身の回りを支えながら、4年間暮らしてきた。

この日の決定で、巌さんを釈放し続けるかどうかの判断は最高裁に委ねられた。
今後の生活を問われた秀子さんは「再審開始になって、皆さんに『おめでとう』と言ってもらえると信じて、余分なことは言わないで暮らしていく」。
「今までも50年戦ってきた。これからも頑張っていきます」と会見の発言を締めくくった。

一方、弁護団からは怒りの声が漏れた。

決定では、地裁が再審開始決定の主な根拠とした筑波大学の本田克也教授(法医学)の鑑定を「信用性は乏しい」と全面的に退けた。
本田氏の鑑定は「犯行時の着衣」とされる衣類に残る血痕と袴田さんのDNA型は「一致しない」としたもので、この鑑定をめぐって審理は長期化。
弁護団は本田鑑定の再現実験を行ったが、本田氏の指導と監督により行われたことなどを理由に、高裁は信用性を否定した。

弁護団事務局長の小川秀世弁護士は、弁護側の主張のほとんどを退けた高裁決定を「非常に薄っぺら。
強い偏見によって判断している」と批判。
西嶋勝彦弁護団長は、最高裁に特別抗告する意向を示し、「なるべく迅速に最高裁の結論を得て、一日も早く巌さんの無事を明らかにしたい」と語った。

(増山祐史、矢吹孝文)
 




高裁決定を聞いたのち、神社で手を合わせる袴田巌さン=浜松市浜北区、代表撮影





高裁決定に沈黙「そんなのウソ」

巌さんは11日、浜松市内の自宅で過ごした。
支援者によると、巌さんはいつも通り午前6時ごろ起床。
午前9時ごろに、支援者が上京の意思を尋ねると「行かない」と答えたという。

巌さんは、市内を数時間歩くことを日課にしている。
この日の午後は、支援者の車で近くの岩水寺へ。
午後2時前、本堂に向かう途中で支援者から「決定が出た」と聞くと、「あ、そう」と答えた。
支援者が「不当決定を許すことはできない」と伝えると「どうもどうも」と応じたという。

代表取材の記者が、再審を認めない決定が出たことについて尋ねると、しばらく沈黙した後、巌さんは「そんなのウソなんだよ。ウソ言っているだけだよ」と言い、せき込んだ。

静岡市清水区の事故現場近くに住み、被害者と親交があったという60代の男性は「亡くなった人や遺族の気持ちを思うと、喜ぶことも悲しむこともできない」と複雑な胸中を明かした。



「幸せ」釈放後初めて記す 袴田さん
袴田さんは現在、故郷の浜松市で姉の袴田秀子さん(85)と暮す。
JR浜松駅周辺を歩くのが日課で、「応援しとるで」と声をかけられることもある。

48年に及んだ拘禁生活の影響で袴田さんは精神を病み、意味が通じない発言も多い。
自分のことを「神」や「最高権力者」と語ることもある。
秀子さんによると、自身と敵対する存在を思い浮かべてか、「ばい菌」や「ゴミ」という言葉を口にすることも多い。

5月には、支援者らがメッセージや意見を書き込める「袴田巌さんの壁」が静岡市内で除幕され、袴田さんも「幸せの花」と書き込んだ。秀子さんによると、袴田さん「幸せ」という言葉を使ったのは、釈放後初めて。「今は幸せだと、多少でも思ってくれると本当にありがたい。裁判の決定で、巌をいつまでも幸せにしてほしい」と話した。

(矢吹孝文、宮川純一)




静岡県警・地検 コメントせず
東京高裁決定を受け、静岡県警の柏木孝敏刑事企画課長は11日、報道陣に対し、「決定は確定したものでない。
審理内容にかかわるため、県警としてはコメントを差し控える」と述べた。
再審開始を認めた静岡地裁決定が「捜査機関が証拠を捏造した疑いがある」と指摘した点について、高裁決定は「抽象的な可能性に過ぎない」との判断を示した。
柏木課長はこの点も「審理の内容にかかわる」とした。
静岡地検は同日、取材に「一切コメントするものはありません」と回答した。

(宮廻潤子、佐々木凌)


日弁連も批判
日本弁護士連合会の菊地裕太郎会長は11日、高裁の決定を批判する声明を出し、「再審無罪を勝ち取るまで、引き続き全力で支援していく」と表明した。
「声明は、科学的証拠であるDNA型鑑定に対する判断を誤った。
『疑わしい時は被害人の利益に』と明言した過去の決定を骨抜きにしている」と指摘した。

 



















2018 6月12日の朝日新聞 声より。
社説

人の命がかかった審理がこのようなものでいいのか。
釈然としない思いがぬぐえない。

52年前に静岡県で4人が殺された事件で死刑が確定した袴田巌さんについて、東京高裁は裁判のやり直しを認めない判断をした。
静岡地裁の再審開始決定を取り消したが、身柄を拘置所に戻す措置はとらなかった。

地裁の段階で6年、高裁でさらに4年の歳月が費やされた。
それだけの時間をかけて納得のゆく検討がされたかといえば、決してそうではない。

結論を分けたのは、犯行の際の着衣とされたシャツなどの血痕のDNA型鑑定だ。
地裁は、弁護側が提出した新鑑定を踏まえ、「犯行時のものではない疑いがあるい」として再審を認めたが、高裁は「鑑定手法には深刻な疑問がある」と退けた。

この決定に至るまでの経緯は一般の市民感覚からすると理解しがたいことばかりだ。

まず、別の専門家に再鑑定を頼むなかで長い議論があった。
実施が決まると、その専門家は1年半の時間をかけた末に、高裁が指定した検証方法を完全には守らず、独自のやり方で弁護側鑑定の信頼性を否定する回答をした。
高裁は結局、地裁とほぼ同じ証拠関係から正反対の結論を導きだした。

身柄を長期拘束された死刑囚の再審として国際的にも注目されている事件が、こんな迷走の果てに一つの区切りを迎えるとは、司法の信頼性を傷つける以外の何ものでもない。
それぞれの立場で省みる点がないか、関係者は点検する必要がある。

こうした事態を生む背景のひとつとして、再審に関する法制度が整っていないことがあげられる。なかでも問題が大きいのは証拠の取り扱いだ。

今回の事件でも、地裁段階で検察側が「ない」と主張してきた問題の衣類の写真のネガが、高裁になって一転開示されるという場面があった。
再審に直接結びつく証拠ではなかったかもしれないが、正義に反する行いとして厳しい非難に値する。

ほかにも、審理の進め方や裁判官の権限などあいまいな点が多く、結果として再審をめざす側の障壁になっている。

11年から14年にかけて、捜査や刑事裁判のあり方を検討した法制審議会の特別会は、再審請求審での証拠開示を「今後の課題」に挙げたが、その後、議論は進んでいない。

疑わしきは被告人の利益に。
この刑事裁判の鉄則は再審にも適用される。
制度も、運用も、意識も、その観点から不断に見直されなければならない。