テレビでは、大手企業の入社式の様子が映しだされていた。新入社員は、紺や黒のスーツに身に纏い、恭(うやうや)しく、企業の代表者の祝辞を聞いていた。会社から貸与されたユニフォームを着衣している会社もあった。どの会社の代表者からも、経済環境を反映してか、厳しい言葉の連発だ。祝いの席の祝辞なのに、内容はもう全く訓示を飛び越えて何かの決起集会のようにも思えた。
新入社員は、テレビのインタービューに答えて、満面笑みを浮かべ、「頑張ります」とか「社長になります」とか、なかなか威勢がいい。
そして、テレビの画面が変わって、就職が叶わなくて留年することに決めた某私大の男子学生が、アパートでパソコンの画面を眺めながら、就職できなかった悔しさを語っていた。悲しい思いに沈む若者が多いのだろう。この学生は新卒で就職するために、留年を選んだらしい。
政府は景気回復を促す政策をうつこと、企業に対して雇用を増やすように指導すること。大企業が実施してきた新卒一括採用という方式を見直し、通年採用に切り替えることなど、今後経済界に取り組んでもらいたい。学校においては、学生の個性を見抜き、広範な業種から適切な就職指導を徹底しておこなう。実行しなければならない対策は幾らもある。
そこで、先述の就職のために留年した学生等に対して、私からの提案があります。各人各様の状況下にあって、志向や条件、経済状況も違うわけで、一律にこの提案を鵜呑みにすることはないのですが、まあ、聞いてみてくれませんか。
この1年間苦学生をやってみませんか。
1日24時間を無理して無理して、過ごしてみませんか。かって、受験勉強では睡眠4時間とか5時間とかで、頑張ったことを思い出して、ここでもう一度、無理をしようよ。そうしないと、若者たち、君の明日は見えてこない。政府や経済界が取り組まなければならないことは、多々あるとは言ったが、一番肝心要なのは、仕事に就きたいと思う本人の心がけも鍛錬しなくてはならない。
親からの仕送りをストップする。アルバイトに精を出す。本気で生活費を稼いだことがありますか。親からの仕送りがあれば、遊ぶお金や足りない分だけを稼げばよかったのですが、この1年間は自分が生活するための全費用を自分で稼ぐのです。親の立場になって言わせてもらえば、4年間の仕送りで済むものを、ええ大人が、卒業する気さえあれば卒業できるのに留年して、もう1年も?こんなことは堪らない。 一端(いっぱし)の大人が、それでもまだ仕送りを親に求める心算ですか。馬鹿と違うか。
かって「金の卵」と呼ばれて首都圏に働きにやってきた中卒の人たちは、月給は60年程前ならば1万円とか2万円位だったのではないでしょうか、そのなかから、弟や妹、老いた父母に仕送りをしていたのです。私はといえば、45年前のことです、高校を卒業して、大学に入るために勉強するよりもお金を貯めることを優先した。2年間のドカタで270万円位貯めた。入学してからは、農協に預けてあるその資金をちびりちびり送金してもらった。寮に入っていたので、みんなは5~6万円送ってもらっていたが、私は月3万円で凌いだ。多く送金されると、早く資金が枯渇する、当たり前のことだ。結果、友人達には随分迷惑をかけた。でも、不思議なことに、迷惑をかけた奴とは殊更(ことさら)仲良く、終生の友になった。貯めたお金で3年半の生活費と3年間の授業費はまかなえた。汗を流して労働することの快感は、今後生きてゆくには不可欠な感性だ。
学校のカリキュラム以外に、もう一つ学びたいことを作り出すのです。私が手っ取り早く思いつくのは語学です。語学でなくてもいい、これっと思いついた分野を、今までの大学の授業では得られなくて、これだけはもっとマスターしたいと思うものを見つけるか、自ら作り出すのです。もっと知りたいこと、究めてみたいこと、足を踏み入れたいと思うこと。もう少ししか残されていない大学生活だ、もの足りなさは実感している筈だ。このもの足りなさを感じること、そしてこのもの足りなさを起爆に、何かを探すのだ。この作業は結果的には宝物になるような気がするのです。
私の息子は、理系私大の土木学部に4年間、それからオーストラリア、ウーロンゴン大学の大学院に2年間就学した。結果的に親の目からも賢明な方法を選んだもんだと感心したのです。お世話になった理系私大は、1年の時から、2,3,4年と就職指導が熱心で、私の息子はその「就職、しゅうしょく、シュウショク」としつこく言われるのを嫌ったのです。就職は重要なこととは理解していても、余りにもその就職指導に熱心なあまり、息子はシラケたのでした。勉強の方も中途半端な状態だったこともあって、教授の勧める学校に留学したのでした。外国だから語学は自然と身に付く、視野も自ずから拡がる、様々な国の人間と知り合いになり得たものは多かったようだ。そして、就職は外国で培ってきたことを評価してくれて、希望する会社に入社することができた。
このように留年の1年間を、今までのようにホドホドでなく、無理して無理して過ごしてみようよ。今までやりたくてもできなかったことや、未習熟のままで気になってしょうがないことを、今、ここで狂ったように、無理無理のスケジュールの中に、無理して突っ込んでみよう。
そうすれば、結果、就職活動にも明るさが見えてくる。社会は捨てたもんじゃない、楽しいことや面白いことをいっぱい包含しているのです。
楽しく、無理して、金を稼いで、学習する。