立ち止らない天才2人
朝日・朝刊 2007 6 26 スポーツ面 EYE
編集委員=西村欣也
二人の人生の軌跡が交錯した瞬間を、もう一度振り返っておきたいと思う。21日、パイレーツの桑田真澄がマリナーズのイチローをカーブで空振り三振に仕留めた。
39歳の桑田はこんな言葉を残した。「進化をし続けているイチロー君との対戦を楽しみにしていました。力みがないというか、さらっと水のようにしなやか。求めているものはおなじかもしれませんね」
33歳のイチローは、「桑田さんは昔の自分じゃないことを受け入れられている感じがしますよね。なかなかできるものではない。引きずるものですから」と応じた。お互いがお互いをリスペクト(尊敬)しあっている。
二人の言葉に、重なり合う人生観が見えてくる。立ち止まって、過去を振り返ることを、しない。アスリートである間、究極を求めて旅を続ける。道は自分の後ろにできていく。桑田がランニングすることでジャイアンツ球場の外野にできた「桑田道」は、その象徴だろう。
イチローとバッティングについて話したことがある。彼は日本にいるころから、ひとつのフォームにとどまることはなかった。
「だって、バッティングは生き物ですからね。その時の体の状態によっても変わってくる。例えば、筋肉のつき方によって、当然、スイングは変わってきます」。そして言葉を続けた。「つまり、1箇所に止まっていることはできないんですよ」
桑田もベテランと呼ばれるようになってから、トレーニングに古武術などを取り入れてきた。
歩みを止めない二人の天才の一瞬の出会い。シアトルでの芳醇な時だった。