2010年1月23日土曜日

ゴーストレストラン

1月20日(水)の夜、我が家の居間は、ゴーストレストランになっていた。

仕事を終えて、自宅に着いた。いつものように自宅の玄関のドアーチャイムのボタンを押そうとしたら、玄関扉につたない字で何やら書いた紙が張られていた。私の二女の息子・晴の見慣れた字だ。晴はこの春6歳になる。

張り紙には、ゴーストレストランへようこそ、いろいろなメニューがあります、とあった。

私は、ドアーが開くなり、ビールをください、特別に美味しいビールをください、早く早く、と晴に急かした。え、えっ、晴は頭を掻いていた。ビールは彼にとっては想定外のオーダーだったようだ。冷蔵庫から缶ビールを取り出し、テーブルに投げるように出してくれた。私の長女の娘・楓は、晴のお尻を追いかけていた。可愛い3歳のアシスタントです。

夕方、急に居間の照明が切れて、家人が蛍光灯を新しいものに代えても点かなくて、代わりに私の布団の枕元にいつもある電気スタンドをテーブルに置いていた。その弱い照明のなかに決して贅沢ではない、家人の手作りの料理が並んでいた。食材の質を活かし、愛情と技で練り上げたものだ。照明器具の心臓部分が壊れたようだ。

そこで、晴は、幽霊食堂を思いついたのです。こんな機会を捉えてでも、ちゃんと遊びに結びつけるなんて、なかなか、洒落者だと感心させられた。さすが、二女の息子だ。

私の長女・実が幽霊食堂じゃつまんないから、ゴーストレストランと呼ぶことにしたようだ。そして張り紙を晴に書かせたようだ。

毎週水曜日の昼間は、長女とその子どもと二女の息子らが我が家に集まって遊ぶのです。夕食は、その参加家族らが家人の作った料理に舌鼓を打つ。全員で食事することにしているのです。それから風呂に入って、各々の家庭に帰っていく。水曜日は平日なので、長女の夫は仕事で欠席。私は、我が社の営業部門が休みなので、早く家に帰って孫の顔が見られる。私の楽しみの一つです。

私がテーブルにつくと、晴はそのスタンド以外の照明を全部消した。なんじゃ、そんなスタンドの灯りでは風流さに欠けるぞ、無粋やなあ、ローソクでも灯そうよ、と言うと、やっぱりお父さんは、そう言うだろうなと思った、とは家人の言葉です。テーブルの周りだけは少し明るいが、少し離れると薄暗くなって、もう少し離れるとそこは闇だ。雰囲気は上々だ。料理にスポットライトが当たっている。お互いの顔が浮き出て、その表情の濃淡が鮮明になって、なかなか面白かった。私にとっても久しぶりの光景だ。

交わす言葉も、幽霊のように怪しい声で、弱弱しく、空気を撫ぜるような声音(こわね)で話し合った。時には、ゴツイ声になって、幽霊はそんな声を出さないよ、と笑い合った。

晴に、ボーイさんと呼びかけると、違うよ違う、私は社長さんです、社長と呼んでください、ときた。

遅れて、仕事帰りの晴のお父さん、お母さんも食事に加わった。私はみんなの顔を眺めながら、ひたすら、お酒をご馳走になりました。