2010年1月28日木曜日

日航経営破綻、更正法申請

以下の文章は、全て201020の朝日新聞の記事からより抜粋させていただきました。日本航空の経営破綻には、いろんな問題が含まれているので、この倒産劇はどうしてもマイファイルにして保存しておきたい。

政管業がもたれ合った結果、倒産は当然の結末だった。

潰れるべきして、潰れた国策企業の象徴的な大事件だ

1面

日本航空は19日、東京地裁に会社更生法の申請をした。これを受け、官民が出資する「企業再生機構」が同日、日航支援を正式に決め、政府が承認した。運航や営業は平常通り続ける。機構は日航を管理下に置き、3年以内の経営再建を目指す。グループの負債総額は2兆3221億円で、金融を主力事業としない企業としては、最大の経営破綻になった。

会社更生法を申請したのは、持ち株会社で東京証券所1部上場の日本航空、中核の航空事業を担う日本航空インターナショナル、金融会社ジャルキャピタルの3社。グループ連結での債務超過額は8676億円(2010年3月末見込み)に達する。東京地裁は同日、更生手続きの開始を決め、管財人に機構と片山英二弁護士を選んだ。

日航と企業再生機構がまとめた事業再生計画案によると、マイレージポイントや発行済みの株主優待券は今後も従来通り使える。燃料費など一般商取引の債権、航空機のリース債権などは保護される。一方、日航の株式は無価値になる。東京証券取引所は2月20日に日航株の上場を廃止する。

機構は、更正法申請前に日航の借金減額などで大手銀行と大筋合意。国内大企業では初の「事前調整型」の法的整理と位置づけている。今後、金融機関の債権放棄や企業年金の減額を実行。政府保証付きの日本政策投資銀行の融資も焦げ付き、少なくとも440億円の国民負担が生じる。

機構は日航に3千億円以上を融資し、日本政策投資銀行とともに6千億円の融資枠を設ける。1兆円近い公的資金枠を使って日航の財務体質を改善。グループで1万5千人超の人員削減など抜本的なリストラを進め、11年度の黒字化を目指す。こうした内容の更生計画を6月末までに決め、債権者の同意を得て8月に裁判所の認可を得たい考えだ。

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政官業もたれ合い響くーーーーーーー(野沢哲也)

国を代表する「ナショナル・フラッグ・キャリア」の日航が法的整理に至った背景には、政官業がもたれ合う「責任者不在」の構造があった。

自民党政権は地方空港を造り続け、完成すると航空会社に就航を迫った。全国97の空港と新幹線、高速道路が旅客を奪い合い、2009年度上半期、日航の国内線の7割近い路線が採算の目安とされる利用率60%を下回った。

旧運輸省・国土交通省は、空港建設と維持のために着陸料を高くし、航空会社の競争力をそいだ。01年の米同時多発テロ後、国際線需要の低迷から日航の体力が弱ると、抜本改革を先送りしながら日本政策投資銀行の増資引き受けや追加融資で延命を図った。

日航自体にも問題があった。05年に相次いだ運航トラブルや社内の派閥抗争などで会社の評判が下がり、客離れにつながった。リストラや機種を更新するスピードでも全日本空輸に後れをとった。

08年秋のリーマン・ショック、09年春の新型インフルエンザ流行という世界の航空業界を襲った大波にあらがう体力は、日航には残っていなかった。

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天声人語

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曇り空の下、技術陣の気がかりは離陸や巡航ではなく、着陸だった。ジャンボ機の初飛行である。あの巨体が無事地上に降りるのか、との疑念が航空専門化の間にあったからだ。

開発リーダーのジョー・サッター氏が自伝(堀千恵子訳)に記す。〈威風堂々とした外洋航路船ばりに滑走路に降下してきたかと思うと、静かに滑空し、それはそれは見事な着陸をやってのけたーーー

いまや真の飛行機が手に入り、成功もどうやら夢ではない〉

空の旅を大衆化した立役者は明日、就航40年を迎える。ロングセラーの最大の顧客が、法的整理に入った日本航空だった。リストラの一環として、効率の悪いジャンボ37機をすべて退役させるという。一つの時代の終わりを思う。

評論家の佐高信氏は「役所と民間の悪いところを合わせたような会社」と辛辣だ。政治に弱い体質に大企業病が宿っていた。ジャンボの大量購入も、対米配慮と無縁ではあるまい。空港を乱造した政治家、天下り官僚の責任は不問で、また税金が投入される。

日航でジャンボを長く操った田口美貴夫氏は、高度も速度もゼロから燃料満載の400トンが突き進む。整備から操縦まで、全てが完璧で初めて機体は舞い上がると、著書「機長の700万マイル」にある。

国家機関という空港に不時着し、会社更生法の格納庫で身軽になる日航。初めての着陸に固唾をのんだジャンボ開発陣のように、納税者は再びの離陸を厳しく見守りたい。天候がどうであれ、今度はしっかり飛んでもらう。

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社説/JAL法的整理

国民負担増やさぬ再生を

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政府の全面支援で日本航空を再生する取り組みが、正式に動き出した。日航がきのう会社更生法の適用を申請し、官民出資ファンドの企業再生支援機構が支援を決めた。

政府が関与しての「事前調整型」法的整理で、昨年6月に米政府が自動車大手のゼネラル・モーターズ(GM)の再建に適用した手法だ。日本では初めての試みである。

日航は巨額の債務超過に陥り、政府支援なしでは清算に追い込まれかねないほど経営が悪化していた。安全運航を確保っしつつ日航が担う国民の「空の足」の機能を再生するには、法的整理が避けられなかったといえる。

日航のマイレージや燃料などの商取引債権は、守られることになった。さもないと客離れを招き、燃料購入が滞ったり機体を差し押さえられたりすることも懸念された以上、やむを得ない措置だといえよう。

公表された再建計画では経営陣が総退陣し、社員を1万5千人削減する。現役・OBの企業年金は大幅カット、金融機関は債権の8割強を放棄。株券は無価値となる。

こうして利害関係者が痛みを分かち合うだけではなく、国民も巨額の負担を背負い込む。確定している分だけでも、日本政策投資銀行による政府保証つき融資の焦げ付きで440億円の国民負担が見込まれる。

政府ぐるみの支援が国民負担をさらに増加させる危険もある。それを最小限にとどめる努力が政府と日航に求められる。その意味でも、肥大化した路線網やサービス体制を現状のまま維持することは許されない。経営の徹底したリストラが必要だ。

路線の一部を他社に譲り渡すこともためらるべきではない。一方、政府のてこ入れで競争相手の全日本空輸や新興航空会社が不利な立場に置かれるようなことがあってはならない。

日航の経営悪化は自民党の長期政権と霞ヶ関の官僚にも重い責任がある。過剰な国内空港建設を続け、不採算路線への就航を日航に求めた。そんな航空行政が「親方日の丸」の甘い経営を長年にわたり放置した。

日航会長には民主党に近い大物経済人の稲盛和夫京セラ名誉会長が就く。世界的企業に育てたカリスマ経営者とはいえ高齢でもあり、個人の手腕に寄りかかるわけにはいかない。

1985年のジャンボ機墜落事故の後、伊藤淳二元鐘紡会長は社内抗争や労使紛争に巻き込まれ、辞任に追い込まれた。日航の体質とも言われた派閥抗争や複雑な労使関係を一掃するにも、社内外から人材を抜擢することが求められる。

日航は国民に対する責任の重さと過去の教訓をかみしめ、出直し創業に挑んでほしい。