2007年3月3日土曜日

吃驚したなあ、もう

誰もが、何かの拍子に珍しい出来事(椿事)に出くわすことがある。

ちょっと前の話だけれども、どうしても、人に知らせておきたい、だけど、でも、そんなに、面白いわけではないんです、がね。

昨年の年末、12月30日、福山から新幹線で横浜に戻ってきた時のことです。

新横浜駅の改札の出口のゲートで、特急券と乗車券の2枚をキップ入れ口に入れようとしたその直前に、並んでいる私の前に中年の女性が滑り込んできた。

私はキップを入れる動作を止めることができないまま、そのままキップを入れることになってしまった。ゲートは開き、中年のオバハン(今回だけは、差別用語を使わせてもらった、御免。いつもは御婦人礼賛者ですぞ)は通過。直後、私の前でゲートは閉ざされ,中年女性は、すたすたと足早に遠ざかって行った。

アッと言う間の出来事だった。中年女性の動作の機敏なこと! 本番で、寸秒の狂いなくやってのける。ここまで腕を磨いてきた道程には、苦労もあったことだろう、失敗もあったことだろう。それにしても、一連の動作の鮮やかさには感心させられた。

ただの、これだけの話なんですがね。

ところが、私が犯した37年前の行為を思い起こすきっかけになってしまった。私は大学3年生だった。夏休みを利用して、博多の生家に戻っていた後輩を訪ねての旅でのことです。マナベ君に会いに行ったのです。国鉄を使って、東京から九州は博多に着いた。もちろん、鈍行の乗り継ぎで。手にしていた乗車券は、高田馬場駅発行の、80円か100円か、手垢で汚れた、最少の金額の乗車券。検札に回ってきた車掌さんの目をかいくぐりながら、なんとか努力の甲斐あって、博多までは、無傷でやってこられた。車両の真ん中程の座席にさえ座っていれば、車掌さんが前から来ても、後ろから来ても、気が付きさえすれば、対処のしようがある。検札に来るのが分かれば、席を外すのです。ほとんど、トイレに身を隠して、車掌さんが通り過ぎるのを確認してから、再び席に戻って知らん顔。厳正な生き方をしている人には、金が無いのに旅行なんて思いつかないものですよね。若気の至り、というものですか。さあて、これから、どうして駅の外へ脱出するか? 迎えに来てくれた後輩と、改札の柵をはさんで陰謀を企てた。

私は、人間が多く出入りする改札口ではなく、構内の隅っこの方に、貨物を出し入れする可動式の柵があることに気が付いた。その柵の周辺には人がまばらにしかいなくて、そこならば、何とか脱出できる可能性があるように思えた。

・後輩に私の荷物を預けた。

・駅からは500メートル程離れている、旧財閥系の生命保険会社の看板がかかったビル

 を指定して、後輩をそのビルの前で待っているように指示した。

・私は、貨物の出し入れする可動式の柵を、陸上競技のハードルのように飛び越える。

 それから、指定したビルまで全速力で駆ける。

・私が、そのビルに着いたら、君も一緒に走れるだけ走るのだ、と今度は命令した。

 できるだけ駅から、遠ざかることだ。ええか、分かったか、と念を押した。

後輩が指定したビルに着くだろう、と思われる時間を十分とってから、私は、気を落ち着かせて、スタートをきった。

高さ1メートルぐらいの柵なんて、へっちゃらだった。助走に勢いをつけて柵を越え、最初の一歩をできるだけ遠くに着地することだ。そうすれば、加速がつきやすい。私を捕まえようと思いつく人がいても、私の猛ダッシュを見て、即、諦めてしまうほどの速さでなくてはならない。

陸上競技を専門的に取り組んでいる人ならば、逃げる私を捕まえることができたかもしれないが、当時の私は、サッカーを1日9時間もやっていたのだ。スピードは100メートル12秒ぐらいかもしれないが、持久力があったから、たとえ追い手がいても、最後にはふっきって逃げ切る自信があった。相当な強者・達人でなければ、私を捕まえることはできない。

走り出したとき、人の視線を感知した。最初から想定はしていたが、やはり見られてしまった。だから、できるだけスピードを上げて、駅から離れることだった。

待ち受けてくれていた後輩とめでたく合流。それからも、走った、走った。

うまい具合に来たバスに乗って、後輩の家の近くまで行った。車中、ゲラゲラ,馬鹿みたいに笑い合った。

その後、後輩の実家にエラクお世話になり、感謝・感激・雨あられ状態で、一方的に後輩の実家にお世話になりっ放しだった。こうして、この夏の、博多旅行の前半は終わったのでありました。

東京への戻りは、ヒッチハイクでした。この道中もテンワヤンヤだった。赤恥モノでした。が、今回はこれまで。

博多駅の柵を飛び越える私を見た人は、その時、どのように思ったことだろう。

(注)天地神明に誓って宣言できます。 『卒業してからは、無銭にて、食事・乗車・乗船・入場はしておりません』