先日、横浜市泉区の中古住宅の物件調査に行った。住宅の家並みから、少し離れた農家の庭先に置かれていた野菜の無人店舗で、昼のラーメン用の野菜でも買おうと思って覗いてみた。この近辺に寄った時には、時々ちょこっと覗き見することがあるお気に入りのお店なのです。たまたま10円足りなくても、スマンと謝ればすみますから。でも決して常習犯ではありません。実家は農家ですから、働く農民の根っからの味方です。品物は、毎度御馴染みの、大根の間引いたもの、ネギ、柿、ニラ、薩摩芋、ジャガイモ、キャベツ他にも何かあったが、憶えていたのはそれぐらいだ。
それらの商品の横に、一人一個差し上げますと走り書きされたメモが添えられた「ムベ」が籠に入れてあった。ムベと書かれていて、読んでも、私には初見(はつみ)の実だ。秋で、落葉だ。季節柄、アケビに似ているなと直感した。一つ手に取って見ると、ほんふぁりと柔らかった。色は薄赤紫だ。匂いを嗅ぐと甘い香がした。一人一個とは書いてあるが、私は特別二個頂いた。だって、私はこの店の上顧客なんですから、神は許し賜るであろう。
その無人店舗の前の道路を跨いだところに、藤棚のようにつるがぐるぐる巻きに棚を作っていた。そのつるからたくさんのムベが鈴なりになっていた。きっとこの無人店舗の店主の屋敷なのだろう。キュウイのようにたくさんの実がぶら下がっていた。
自宅に持ち帰って家人に、この実のことを説明しても、一向に興味を向けてこない。ならば、私が独占的にいただきますよ、と言って、半分に切ってみた。果皮は厚く固かった。果皮の中には、乳白色の粘液が黒いヒマワリのような種の隙間に詰まっていた。それをスプーンで種ごとすくい出して、種ごと口の中に入れ、乳液を喉に下して種をぺっぺと吐く。スイカを食べる時と同じ要領です。
甘い。甘かった。アケビを最後に食ったのは、もうかれこれ50年近く前のことなので、その味の記憶は薄いのですが、アケビもたしかに甘かったが、ムベの方が糖度においては高そうだ。アケビも食べられる部分が少なかった。それでも、子供の頃、猿並みの山遊びの最中には貴重なおやつでした。それにしても、50年前とは、年月の経つのは早いものですね。百代の過客なんて言葉を思いだしたが、その意味はどうでしたっけ。キュウイは果皮の中に、しっかりした果肉が詰まっていて、小さい種は邪魔にはならずに果肉と一緒に食べられるので、商品としては十分流通しうるだけの資格があるように思うのですが、ムベの場合は、アケビと同様食べられる部分が余りにも少なさ過ぎる。これじゃ、売れない。天智天皇の時代には、貴重だったようですが。
それにしても、今回、ここでこの果実ムベに巡り会ったお陰で、食することができたのです。この機会が無かったら、一生ムベを知らずに死んでいったかも知れないのですから、今日の物件調査はそのものに大いに意義があったことに、初物(はつもの)体験が重なって、幸せな気持ちになりました。
注。文中、「むべ」を読み易くするために「ムベ」と片仮名にした。
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学習しよう=「むべ」の名前の由来をネットで見つけた。古文で「むべなるかな」という言葉に由来するそうです。以下は、ネットの文章をそのまま転載させていただいた。私の生まれ故郷のお隣で、その名が生まれたようなので、なおさら注目することに「むべなるかな」ということです。
では~。
その昔、大津に都があった時代(667~672年)、天智天皇が『蒲生野(がもうの)、湖東地域;愛知川と日野川の間の地域』に御遊猟に出かけた際、この地に立ち寄られ八人の男児をもつ元気な老夫婦に出会い,「汝ら、いかに斯(か)く長寿ぞ?」と尋ねられたそうです。
そこで老夫婦が「この地で採れるこの実を食べているためです」と説明したところ、「(むべ)なるかな」(なるほど、それはもっともなことだ)、「斯くの如き霊果は、例年貢進せよ」と仰せられたのです。それ以来、この果実を「むべ」と称するようになった、とさ。
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提供: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』(私の方で、勝手にダイジェスト、編集させていただきました)
ムベ(郁子)
ムベの実
ムベ(郁子)
トキワアケビ(常磐通草)
ムベ(郁子、野木瓜、学名:Stauntonia hexaphylla)は、アケビ科ムベ属の常緑つる性木本植物。別名、トキワアケビ(常磐通草)。方言名はグベ(長崎県諫早地方)、フユビ(島根県隠岐郡)、イノチナガ、コッコなど。
特徴
日本の本州関東以西、台湾、中国に生える。柄のある3~7枚の小葉からなる掌状複葉。小葉の葉身は厚い革質で、深緑で艶があり、裏側はやや色が薄い。裏面には、特徴的な網状の葉脈を見ることが出来る。
花期は5月。花には雌雄があり、芳香を発し、花冠は薄い黄色で細長く、剥いたバナナの皮のようでアケビの花とは趣が異なる。
10月に5~7cmの果実が赤紫に熟す。この果実は同じ科のアケビに似ているが、果皮はアケビに比べると薄く柔らかく、心皮の縫合線に沿って裂けることはない。果皮の内側には、乳白色の非常に固い層がある。その内側に、胎座に由来する半透明の果肉をまとった小さな黒い種子が多数あり、その間には甘い果汁が満たされている。果肉も甘いが種にしっかり着いており、種子をより分けて食べるのは難しい。自然状態ではニホンザルが好んで食べ、種子散布に寄与しているようである。
利用
主に盆栽や日陰棚にしたてる。食用となる。日本では伝統的に果樹として重んじられ、宮中に献上する習慣もあった。 しかしアケビ等に比較して果実が小さく、果肉も甘いが食べにくいので、商業的価値はほとんどない。
茎や根は野木瓜(やもっか)という生薬で利尿剤となる。
ムベの花(4月末から5月)
ムベの実(断面図)