今年の初め、105円で買った古本、遠藤周作の「深い河」を読んで、インドのカースト制度における身分差別の実態を知ったことをこのブログに著した。ガンジーがインド「独立の父」と言われて尊敬されている。が、身分階層からも排除された不可蝕民を「神の子」と認めながらの統治には、やっぱり偉大な為政者と言うには無理がある。人口11億人のうちの8割の人がヒンズー教を信仰していて、そのヒンズー教がカースト制度を土台に成り立っていて、インド社会において、不可触民はどうすれば自らの人間としての権利の復活が可能なのか? そんな状況下で、身分制度に異を唱えた人が出現した。その人こそアンドーベカルでした。
アンドーベカルは、ヒンズー教ではカースト制度として認められてきた身分差別を絶対認めなかった。自らも不可触民出身であった。篤志家の援助で、アメリカでの就学の後、帰国して差別を禁じるインドの現憲法を起草した。そして最初の法務大臣に就任した。憲法の条文の随所に被抑圧、被差別、不可触民の人々に対する配慮や人間復活を実現する為の指針が細やかに仕組まれている。現憲法は1950年に発効した。アンドーベカルのことを、インドの「憲法の父」と言われている。
やがて、アンドーベカルはガンジーの率いるヒンズー教とは、カースト制度や不可触民に処する考え方の違いから、距離を置くようになり、ついにはヒンズー教から仏教に改宗した。ガンジーの偽善性を衝いた。彼の「カーストを破り、宗教、教育、社会の革命を成し遂げた精神と行動力」に影響を受け、仏教への改宗に走った人たちは、50万人にものぼったらしい。
そしてアンドーベカルの遺志を受け継ぎ、インド仏教のリーダーになったのが佐々井秀嶺さんだったのです。今尚、インドでの、仏教による人間解放のための闘争が続いているようだ。佐々井秀嶺さんは「インド仏教徒にとって、往生、成仏とは人間解放のこと」、そして「人間解放とは、人権、生命を尊重し、いかなる人種、いかなる言語を使う人とも手をつなぐ状態」と説く。
私にとっては、狐狸庵さんの本を読んで、それから、それから、紆余曲折を経て、佐々井秀嶺さんの存在を知ることになった。その佐々井秀嶺さんが、44年ぶりに日本に帰ってきた記事を朝日新聞で見つけたので、これらを回想した。
「不可触民と現代インド」(光文社新書)を著した山際素男さんの活動も知った。
マザー・テレサの日常の活動のことも、この本で知った。
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20090620
朝日・朝刊
44年ぶりに故郷の地を踏んだインドの荒法師
文・写真:竹内幸史
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借金や女性関係で悩み、放浪も自殺未遂もした青年時代。得度し、日本を旅立ったのは東京五輪後の65年のことだ。移り住んだインドで、仏教復興運動に身を投じた。今春44年ぶりに帰国し、2ヶ月間、赤い衣と金剛杖姿で各地を講演行脚した。
仏陀が悟りを開いた仏教の聖地、ブッダガヤで大菩提寺の奪還闘争を率い、「バンテージ(上人様)ササイ」は一躍有名になった。「仏陀はヒンドゥー教の化身」とするヒンドゥー教の委員会が管理していたのに抗議し、5千キロデモ行進を決行した。国外追放の脅かしを受けながら首相らに直談判し、共同管理をもぎとった。宗教者でつくる政府機関の仏教徒代表にもなった。
インドの仏教徒は被差別カースト出身が多い。ヒンドゥー教から仏教への改宗は差別との闘いでもある。「インド仏教の礎になる」とインド国籍を得て、大勢の改宗を導いた。
「インドで仏教がいかに貧しい人の救済に役立っているか」。死ぬ前に日本の仏教関係者らに支援を感謝し、報告したかった。「日本の仏教が活性化する手がかりになれば」と考え、主な宗派幹部と積極的に交流した。23日、インドに帰る。
新幹線も、高速道路も初体験。「浦島太郎」の気分だ。「日本列島が箱庭みたいに見えるんですよ」。その一方、「街に人が減り、活力が無い。義理人情と助け合いが薄れ、貧しい人は暮らしていけない国になってきたのではないですか」。