2010年5月13日木曜日

選手も監督も、狂え!!

サッカー日本代表の岡田武史監督は今月10日、ワールドカップ(W杯)南アフリカ大会(6月11日開幕)に臨む日本代表23人を発表した。選ばれたメンバーを見て、今の現状ならば、これでしょうがないのかと思う気持ちの中に、どこかツマラナい気持ちが消え去らない。ワクワク(沸く湧く)してこないのだ。私は、この一年、守備で中澤や闘莉王を脅かす選手、狂ったような攻撃的MFやFWが、突如として現われてくるのを楽しみに待っていた。

中村俊、長谷部、本田、遠藤、松井の5人はそれなりの個人技は持っているものの、自ら崩せる技量はまだまだ充分ではない、それでも無理して無理してシュートを放すこと、そして、連携してどれだけ相手布陣を崩せるか、トリッキーな場面をどれだけ作れて、その瞬間、瞬間にできた隙間をボールという刃先で切り込めるかだ。内田、長友は後ろから、横、裏にどれだけトリッキーな局面を自ら作り出せるか。攻撃の層を厚くして変化を持たせ、相手守備の少しの綻びを突くこと、これしかない。相手ペナルティーエリアに近付いた時、日本の選手が何人その近くに位置しているか、必ず相手守備にコントロールされていないこぼれ球が、思わぬ方向からころがってくるものなのだ。層を厚くしていなければ、このボールは狙えない。クリーンシュートなんか、絶対ありえない。

かって磐田でプレーしたこともある今ブラジルの代表監督を務めるドウンガーは、チームメイトを怒鳴りつけ、司令官としては強烈だった。あんな司令官を私は初めて見た。初めて見た時、この男は狂っていると感じた。そして彼は、着実に磐田の屋台骨を作り上げ、最大の功労者になった。このような強い司令官がこの代表チームに欲しい。仲良しクラブでは、第一次予選、1勝もできないだろう。選ばれたメンバーの中から、狂った司令官に誰でもいいから、名乗りを上げてくれ。私は、このチームの司令官は本田が、一番適任だと思う。彼が、相手を制するためのイメージを描けて、それを理性的に説明できて、自らそのモデルになり得るプレーができたならば。本田なら、狂った司令官になれる。稲本にも、その素質は充分持ち合わせている。どうかね稲本君、ここらで一発、君の総仕上げとして大いに狂ってみないか。中村俊や遠藤、中澤では無理、今までと何ら変わらない。岡崎、君は刃(やいば)だ、大鉈(おおなた)を振るのは無理だ、鋭い刃先で素早く突っつくんだぞ。

応援しようとしている人間も必死なんだ。

守備においては、前線エリアで相手攻撃の芽を摘む、相手攻守の切り返しに必死で喰らいつく、層を厚くする、これらを忠実に行なうためには、冷静沈着な神経と強靭な体力が必要だ。ここ一番というピンチに体を、どれだけ大胆にはれるか、もう1センチ近くに、もう1秒速く、判断よくプレーできるか。

私はこの一年、狂ったような選手の出現を待っていたと言えば、何だか変なように聞こえるが、簡単に言えば、今まで見慣れてきた日本代表のメンバーではなくて、イメージをカッ飛ばすようなプレーを秘めた選手が現われて欲しかったのです。異質な個性を持った選手のことです。この段階ではテクニックよりも、速い、強い、恐(こわ)い、うるさい、しつこい、疲れを知らぬ体力、高い、相手の懐深くに入れる、なりふり構わずシュートする、こんなことを自然にこなせる選手だ。

変わり映えのしないいつもの選手達で、どれだけ、今までと違う試合運びができるというのだ。でも、選らばれたメンバーでやるしかない、やる日は時々刻々と迫っている。チームが変になっていることを全員がしっかり認識して欲しい。一般的な表現をするならば、全員が火の玉、相手の虚(きょ)を衝(つ)く、これしかない。選手達は、自分たちのよく通じ合う言葉で、コミュニケーションを図って欲しい。

先ずは岡田監督こそ狂って欲しいのだ。あなたが狂わなくて、どうしてこのチームを変えられるか。

後ろの方に朝日新聞のうるさ型記者の記事を転載させていただいたのですが、編集委員の潮智志さんのは「日本人の欠点が武器に」と題した深耕記事だ。私は日本人の日本人らしさの良さは欠点につながることも大いにある、と心配している。

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朝日新聞朝刊(20100511)の写真を利用させていただいた。朝日新聞の熱烈な読者に免じて

お赦しください。

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20100512

朝日朝刊

記者有論

サッカーW杯の日本代表へ

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日本人の欠点が武器に

その① 編集委員・潮智志(うしおさとし)

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サッカーの日本代表チームはオランダ遠征を行なった昨秋をピークに調子を落としたままだ。代表チームの難しさは、1,2ヶ月に数日集まって試合をしてはまた解散する、時間の短さにある。そのたびに積み上げてきたことを忘れていては、チームづくりは遅々として進まない。特に海外組みや主力が不在のときは、そんな繰り返しだった。W杯常連国ほど直前合宿で一気にチームをまとめ上げてくる。対戦相手に応じた具体的な戦略を落とし込む作業を含めて、ここから岡田武史監督の真価が問われる。

岡田監督のチームづくりは、過去の代表チームと出発点が異なる。自身が12年前に挑んだ98年W杯を含めて、これまでは世界と比べて劣っている部分をどうやって補うか、という発想だった。

本当にそうなのか。岡田監督は「個人の体格やパワーではかなわないから組織力で補おう」という前提を問い直すことから始めた。単調な無駄走りが多いと言う欠点を逆手にとって運動量で相手を圧倒できないか。日本人ならではの俊敏性や機動力は、セオリーを無視してあえて狭いエリアでこそ有効ではないか。そこで生まれたのが現在のスタイルだ。日本人の特性を明確な武器として持ち出したからこそ、どんな結果と内容を導き出すのか興味深く、何が通用して、しなかったかという評価を次に生かせる点で意味を持つ。

この2年半の間、岡田監督が徹底してやってきたのは選手へ問い続けることだった。物議を醸したベスト4という目標設定もその一つ。日常のトレーニングと試合で、あと一歩前へ、もう0,3秒速くという積み上げなくして世界に近づく方法はない。「こんなプレーで4強に入れるのか」という理屈抜きの自問自答を選手自身に促した。監督が「本気でベスト4を目指してみないか」と選手に問い掛けたのは08年9月。「やってみます」と最初に反応したのは3人だった。監督から見て、その人数は増えたり減ったりしてきた。「本気」を保ち続けた選手はどれだけいたか。直前合宿の重要性が増す一方で、問われるのは06年のW杯ドイツ大会からどんな時間を過ごしてきたのか、ということでもある。

その4年前、代表はばらばらのまま敗れた。「監督は何も授けてくれない」と選手は嘆き、試合中にベンチを見て指示を求める選手に「プレーするのは君たちだ」とジーコ監督はいらだった。もともと選手を戦術にはめこむ指導を得意としてきた岡田監督は「それではチームは伸びない」と気づいている。だからこそ、「自分の判断でリスクをとり、生き生きとプレーしろ」と問い掛け、背中を押し続けてきた。

代表チームは、その国の風土や社会、教育、価値観などを映し出す。W杯でベンチに助けを求めるような姿は願い下げだ。

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頑張るだけでは限界も

その② 編集委員・忠鉢信一(ちゅうばちしんいち)

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岡田武史監督になって日本が初めて負けた2008年3月のW杯アジア3次予選のバーレーン戦で、「日本のサッカーはどこへいってしまったのか」「これは迷走の始まりかも知れない」と書いた。W杯本大会の出場権をつかみ、南アフリカへ向かう23選手が決まった今も思いは同じだ。

「日本の良さを生かしたサッカー」に近いものがピッチ上で実現されたのは前任のオシム監督が率いた07年9月の欧州遠征が最後だ。絶好機が訪れるまで徹底的にパスを回し、守る相手を走らせて消耗させ、試合の後半以降、相対的な動きの量の多さで圧倒するという試合運びを、当時のチームは意図的に展開した。得点力に難がある日本代表だが、パスをつなぐ力は国際的に見ても高い。得意を生かしたサッカーが完成の途上にあった。

岡田監督の発想は違う。自分たちが走る量を増やして相手を上回ろうとする。「がんばる」が美徳の日本人が受け入れやすい方針だが、非効率的で駆け引きを忘れがちになる。日本人の良さというより弱点が引き出されている。岡田監督の日本代表に出来不出来の波がある理由はこれに尽きる。

最近の不振とあいまって日本代表の評価は近年になく低いものの、勝負は何が起こるかわからない。だが勝ち負けという結果以外にW杯で何を得られるだろうと考えると、現状ではあきらめに近い気持ちだ。

1998~2002年にトルシエ監督が取り組んだ「自動化された連携プレー」は称賛された一方、自由の抑圧という批判も出た。その後06年までのジーコ監督が「自主性」を強調すると、組織の意思決定やスター選手のエゴがテーマになった。「考えながら走る」など名言の多いオシム監督の哲学は関連本の出版が今も続く。いずれもサッカーの枠を超えた議論になり茶の間や居酒屋の話題としても広がった。

岡田監督が掲げる目標を巡る議論は、好き嫌いや信じるかどうか以上の深みを見せていない。「W杯4強」は途中の到達度を測れず、目標に近づく過程で自信を積み重ねられないもどかしさがある。脳科学や心理学を引き合いに語る「無心の状態」という理想も手ごたえをつかみにくい。岡田監督が日本人の良さと考える「ハードワーク」「アグレッシブ」も同じ。現象としておきる体力勝負が日本人の得意ではないから、勝つためのアイデアとして壁に当たる。

今からでも目標を定め直すべきだろう。「日本のサッカー」を語った「岡田サッカー」で独自色を求めるより理にかなった基本を徹底した方がいい。なぜなら結果から多くを学べるからだ。正攻法で格上と当たるのは不安だが、将来、本物の「日本の良さ」を見つける土台にきっとなる。自国開催以外のW杯で日本は5敗1分け。一足飛びを狙っても得られるものは少ない。