2010年6月22日火曜日

イカロス 宇宙に銀の帆

(20100614の朝日新聞より)

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(南天の天の川の前を右下から上方へ横切った「はやぶさ」と回収カプセル=日本時間13日午後10時51分から星を自動追尾して3分間露光、豪州南部グレンダンボ近郊、東山写す)

 

小惑星探査機「はやぶさ」は13日。午後11時21分(日本時間午後10時51分ごろ、豪州南部の上空で大気圏に再突入し、約60億キロの旅を終えて7年ぶりに地球に帰還した。月以外の天体に着陸した探査機の帰還は世界初。宇宙航空研究開発機構は、小惑星「イトカワ」の砂が入っている可能性のある回収カプセルをヘリコプターで探索、発見した。

カプセルが見つかったのは、オーストラリアのウーメラ立ち入り制限区域。現地の砂漠一帯は、豪空軍の実験場などがあり、先住民アボリジニーの聖地でもある。同日午前、アボリニジーの代表がヘリで現場を視察。了解を得て、宇宙機構のチームが回収に向かった。

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はやぶさは2003年5月、鹿児島・内之浦からM5ロケットで打ち上げられ、約20億キロ航行して05年にイトカワに到着した。その後、姿勢制御装置の故障や燃料漏れが相次ぎ、エンジンが設計寿命を超えるなど、帰還は何度も絶望視された。そのたびに解決策を見つけ出し、予定から3年遅れ、往復で60億キロの旅程を経ての帰還となった。38万キロ離れた月以外の天体との往復は世界初。

はやぶさの主な目的は、イオンエンジンと呼ばれる省エネ型の新エンジンや、地球からの指示なしで動く自動制御技術の検証。これらは達成でき、小さな探査機でも木星などの遠い天体を目指せる基本的な技術を確立できた。

見つかったカプセルにイトカワの砂が入っていれば、月の石を持ち帰った旧ソ連のルナ計画、米国のアポロ計画、宇宙空間で彗星のチリを回収した米国の探査機に続く成功となる。

着陸時に回収装置が正常に機能せず、砂が入っていても微量だと考えられる。ただ、粉薬1粒ほどでも成分は分析できるという。宇宙機構は、カプセルを回収次第、日本へ空輸して詳しく分析する。

(その後の報道では、1ミリ以上の物は見つからなかったらしい。それ以下の物質を調査している)

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20100610

朝日・朝刊

天声人語

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(河原の石ひとつにも宇宙の全過程が刻印されている)という、奥泉光さんの芥川賞作「石の来歴」の冒頭は印象深い。ふだんは「石ころ」などとさげすまれる。しかし沈黙の奥に、聞こうとする耳には聞こえる悠久の物語を秘めている。

太陽系が誕生して46億年がたつ。往古の姿を今も保つ小惑星に向けて、小石などの採取に飛び立った探査機「はやぶさ」が、7年ぶりに地球に帰ってくる。機械の不調で石は難しかったようだが、砂などが採取できたのではと期待されている。

成功していれば快挙である。これほどロケットが飛ぶご時世でも、他の天体の表面から持ち帰った物質は、かの月の石だけだ。はやぶさは20億キロの長旅へて、長径わずか500メートル小惑星イトカワに着陸した。

帰路は苦難に満ちていた。エンジンなどが次々に壊れ、帰還を3年遅らせた。動いているのが奇跡的なほどの満身創痍で、40億キロを乗り切ってきた。機械ながら健気な頑張りが、帰還を前に静かな共感を呼んでいる。

漫画家の田中満智子さんは応援イラストを描いた。傷だらけの鳥ハヤブサが懸命に宇宙を飛ぶ。「ぼく、がんばったよ」「もうすぐ、かえるからね」。吹き出しが涙腺をじわり刺激する。賢治の名作「よだかの星」をどこか彷彿とさせる。

13日の夜、はやぶさは大気圏に突入して燃え、流れ星になって消える。わが身と引換えに回収カプセルだけを地上に落とす。砂一粒でも入っていれば、様々な物語を聞かせてくれるだろう。遠い空間、遠い時間からの語り部を待ちたい。

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私の翼は溶けない

イカロス 宇宙に銀の帆

太陽光を受けて進む宇宙帆船「イカロス」が銀色の帆を広げ、漆喰の宇宙空間で光輝いている姿を、イカロスから分離されたカメラがとらえた=下の写真、宇宙航空研究開発機構提供。宇宙機構が16日、発表した。イカロスの帆は一辺14メートルの正方形で、厚さは髪の毛の太さの10分の1にあたる0,0075ミリ。表面にアルミが吹き付けられていて、鏡のように光を跳ね返す。このときに受ける力を、ヨットが風を受けるように利用する。今回は、本体に積んでいたカメラを切り離し、全体像を撮影した。

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