2010年6月10日木曜日

「維新」の出直しに挑め

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20100603

朝日・朝刊

社説/鳩山・小沢ダブル辞任

「維新」の出直しに挑め

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多くの国民の信頼を失っていたとはいえ、国の指導者として無責任な政権投げ出しには違いない。就任わずか8ヶ月で、鳩山由紀夫首相が退陣する。

「政治とカネ」の問題を抱え、世論の大方が辞任を求めていた小沢一郎・民主党幹事長も、ついに職を去る。

昨年の総選挙で政権交代を実現した立役者二人の「ダブル辞任」である。

有権者自身の手による史上初めての政権交代を、鳩山首相は「無血の平成維新」と名付け、「国民への大政奉還」を宣言した。日本にようやく新しい政治が芽生えると、国民は大いに歓迎した。その期待を裏切った二人の、そして民主党の罪は重大である。

 

政権交代の原点に

政権が窮地に陥っているとしても、目前の参院選対策という政党の都合で安易に首相を取り替えるのはよくないと、私たちは主張してきた。民意に直接選ばれた首相の立場には、与党内の「たらい回し」で選ばれるのとはまったく違う正統性と重みがあるからだ。

内政外交全般にわたり短命首相が続くことの弊害も大きい。腰を据えた政策の実行が難しくなり、日本の発言力の低下につながるからだ。

しかしながら、、「政権交代そのものが間違いだった」といった幻滅感が、有権者の間に広がりつつあるとすれば事はさらに深刻である。

政権交代なくして表現できなかった変化は少なくない。事業仕分けや、「コンクリートから人へ」の予算配分の見直し、日米密約の解明などだ。

その一方で、自民党時代と変わらない金銭スキャンダルが繰り返される。普天間問題や財政無策に象徴される統治能力の欠如も、いくら待てども何ら改善される気配がない。

政権交代の功の部分を「小鳩政権」の罪の部分が帳消しにしてしまって、首相自身が認めるように何を言っても国民がまともに耳を傾けなくなった。

政治不信と政党離れという民意の荒廃を食い止めなければならない。歴史的な政権交代の意義を無駄にはできない。今回のダブル辞任が「平成維新」の出直しに資するなら、必要な通過点だと考えるべきだろう。

問題はすべてこれからである。

 

小沢氏も政界引退を

首相、幹事長が辞めるといっても、民主党が信頼される政権党としてリセットするのは簡単ではない。

今の民主党は異質な潮流が同居する「寄り合い所帯」の側面をなお残す。鳩山氏や菅直人副総理ら旧民主党出身者と、自民党旧田中派、旧竹下派の嫡流とされる小沢氏らとの間には、理念政策の方向性でも政治手法や体質でも大きな隔たりがある。

そうしたなかで首相は、選挙対策、国会対策などの党運営を小沢氏に全面的に委ねてきた。小沢流は、数にものを言わせた強引な国会運営、選挙至上主義と露骨な利益誘導を特徴とする。小沢氏に誰もものを言えない風潮は、野党から「小沢独裁」と批判された。

こうした「古い政治」の体質や小沢氏依存の党運営を、首相が放任し傍観しているだけだったことも、有権者を失望させたことを忘れてはならない。

政権交代に有権者が期待したのは、小沢氏的ではない「新しい政治」の姿だったはずだ。政官業の癒着の排除、徹底した情報公開や政策決定の透明化、自由闊達な議論を通じた丁寧な合意形成などである。その原点に戻るには、小沢氏の影響力から脱し、その手法と明確に決別しなければならない。

首相は次の総選挙には立候補しない考えを表明した。小沢氏もこの際、政界引退を考えるべきだ。政治改革を始め、政権交代も実現した小沢氏の功績は大きい。だが今となれば、「小鳩態勢」の文字通りの清算こそ民主党再生への近道ではないか。

 

代表選に手を抜くな

鳩山氏の後任を選ぶ党代表選挙は、8ヶ月の失政を厳しく総括し、党の力量を鍛え直す重要な舞台である。

複数の候補者が徹底した論戦を通じ政見をぶつけ合い、誰が次のリーダーにふさわしいかを競い合う場である。

有権者の歓心を買うことを優先した「ばらまき」型マニフェストの限界を論じ、見直す好機でもある。十分な日数を確保することが欠かせない。

ところが驚くべきことに民主党は、あすの両院議員総会で新代表を選出する方針を決めてしまった。国会を延長せず、参院選を既定方針通り、24日公示、7月11日投票で実施するためだ。

新内閣が発足して勢いのあるうちに、また野党の対抗策が整わないうちに選挙に臨んだ方が有利だという思惑が明白だ。しかし、顔を変えれば支持が戻ってくるというポピュリズム(大衆迎合主義)的な発想に引っかかるほど有権者は甘くはあるまい。

「小鳩体制」の構造的な問題を総括する。理想あって方法論なしとも揶揄される統治能力不足の克服策を考え抜く。経済財政や外交安全保障政策を見直す。代表選で議論すべきことはやまほどある。拙速はいただけない。

野党時代の民主党は、「政権選択」に直結する総選挙をしないまま、自民党が次々と首相を交代させたことを厳しく批判してきた。その言葉はいま、民主党自身にはねかえってくる。

新首相はどんな政治を進めるのか、一定の判断材料を国民に示したうえ、なるべく早く解散・総選挙をし、信を問うのが筋である。