2010年6月29日火曜日

W杯、日本決勝トーナメント進出

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サッカーのワールドカップ(W杯)南アフリカ大会第14日は、24日(日本時間26日未明)、1次リーグE組の日本(世界ランク45位)がルステンブルクのロイヤルパフォケング競技場でデンマーク(同36位)に3-1で勝利。2勝1敗の勝ち点6としてE組2位になり、決勝トーナメント進出を決めた。日本の16強入りは日韓が共催した2002年大会以来2度目で、海外開催のW杯では初。日本は初のベスト8進出をかけ、29日午後4時(日本時間同日午後11時)開始の決勝トーナメント1回戦でF組1位のパラグアイ(同31位)と対戦する。  (20100625 朝日・夕刊より)

前半の始まりから10分は、デンマークにボールを回された。右サイドからも左サイドからも、立て続きに破られた。今までの2戦では、最終ラインの前に守備的MFを3人をおいてきたのだが、このゲームにおいては2人にして臨んだが、早くにして攻められ続けて、急遽元の3人に戻すように、岡田監督から指示が飛んだ。この試合のここまでは、見る側には辛い時間だった。阿部も長谷部も頭を抱えていた丁度その時に指示が出て、守備陣営の変更に直ぐに適応できる器用さを身につけていた。監督も選手も思いは同じだった。それからは、守備が安定した。

そして本田のFKと遠藤のFKが決まった。

本田のキックは約30メートル、ペナルティエリアの右後方から左足でゴールの逆の上隅に突き刺さった。回転のしないボールは揺れたのか、クネクネしたのか弾道が読めなかったようだ。相手守備陣は、ボールを回してくるのではと思っていた者もいたようだ。3人の壁は、本田にはラッキーだった。私と三女・苑は、未明にも拘わらず大声を上げて、ガッツポーズをした。この娘のどこに、こんなエネルギーを秘めていたのか、今更ながら不思議な生き物を見たような気がした。道路向かいに住んでいる、二女の夫は、我等の声で目が覚ましましたと言っていた。お陰で、それから観戦することになりました。この稿の後にオシムさんのコメントが朝日新聞の記事のまま転載したのですが、この名将は、日本のファンに、本田自身に対しても浮き足立たないように、このFKはそんな皆が言うほど素晴らしいものではなかった、と釘を刺した。彼独特の警句だ。でも、3点目の岡崎のシュートにつなげた、本田の切り返しは、美しかったと褒めた。オシムはこういう言い方をする人なんだ。

大きなことを言ってないと弱い自分が大きくなってしまう」本田は愛すべき可笑しな奴だ。私は見なかったのですが、本田のおじいちゃんがテレビのインタービューで、大口を叩いてないで早く家に戻って来いなんて言っていたらしいが、この男はどこまで荒野をめざして進んでいくのだろうか、楽しみだ。

ボールのタメ(溜め)を前線で作れる男として、本田は俄か作りのワントップを任せられた。彼には慣れていないポジションだ。ペナルティエリア内で、第1戦目では自分でシュートを決め、第3戦では岡崎にシュートのアシストをした。この岡崎のワントップのアイデァは岡田監督の采配の勝利だけれども、その役割をきちんとこなしているのは流石(さすが)だ。今回は岡崎だったけれども、本田がペナルティエリア付近でボールをキープした時には、攻撃の層を厚くすることだ。数的有利な状態にすると必ずチャンスがくる。

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そして、遠藤のFKだ。ボールを置いて、遠藤と本田は何やら語っていた。その適度に長い時間が、焦る相手には効果的だったのだ。主審さえ、その間の時間を気にしていた。先ほどの技ありの本田がボールの前に陣取れば、テクニシャンの遠藤を余り知らない相手は、本田が蹴るものとばかり思っていたのだろう。キーパーには、先ほどゴールを破られたイメージがこびりついていたのだろう、キーパーの位置は左寄り気味だった。それを遠藤は見逃さなかった。蹴ったのは遠藤で、右足から放ったボールはバナナの弧を描くように、右ポストの外側から内に吸い込まれるように入った。

朝日新聞の記事によると次のようだ、遠藤は上昇志向の強い本田とFKを奪い合った。「本田は蹴りたそうなそぶりを見せていたけれど、1点取っていたから、『今度は俺蹴るよ』って」。この時、遠藤はこの位置からのこの距離は、自分が得意としているという自負があったのだろう。今大会で強く記憶される数少ないFKの一つだ。

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後半42分、3点目が決まった。待ちに待った、岡崎のシュートだった。岡崎が目標とする中山雅史のお手本のまま、まさに泥臭いシュートだった。ワールドカップ南ア大会のアジア地区予選では、泥臭い単なる「点」になって得点を重ね、本大会までは日本代表のエースストライカーだった。線をいくつも描くことでもなく、エリアを確保することでもなく、得点機に点として機能した。この点としての機能は得点できる確率が低い。ところが今回の岡崎の得点は、本田と岡崎の二人がエリアを確保して、線を描いて敵を攪乱し、点につないで、ゴールを割った。今までとは違う得点なのだ。一発で、どか~んは無理なのです。

同期の本田から、岡、点をとろうよと声を掛けられていた。

この得点は、本田からフリーのパスだった。左足でトラップ、危なかしかった。モタモタしているように見えた。何とかボールをコントロールしてそのまま左足で押し込んだ。美しいプレーではなかった。パスのタイミングが絶妙だったので、余裕も頂いたのだ。パスを出す前の本田のキープ、そして前へ、そして切り替えして相手守備を外した、その切り返しのスピードといいタイミングといい、その見事さに私はうっとりしてしまった。見惚れてしまった。あの場所で、相手を前にプレッシャーはかかっていた。同輩の、点を取れよと声を掛けた岡崎に入れて欲しかったのだろうか、ゴール後の二人の抱擁は微笑ましかった。

先発メンバーから外れていた岡崎の今後に期待したい。ボールが前線に来た時には、必ずその中に入っていく、それが岡崎のゴールを生んだのだ。岡崎はこのことを、常々認識して走りこむことだ。私が、攻撃の層を厚くしろといっているのは、このことだ。足でも、頭でも、体でも、何とかして今まで点を取って来たではないか。

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20100626

朝日・朝刊

オシムの目/お祝い 大会終わってから

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選手と日本の皆さんに、おめでとうと申し上げたい。日本サッカー界にとって素晴らしい勝利だ。

守備では遠藤、阿部、長谷部の3人がカギだった。デンマークにスペースを与えず、ボールを回させなかった。チーム全体でも勇気をもってプレスをかけ、相手に思うようなプレーをさせなかた。スターがいなくても、全員が連動するプレーができれば結果がでることが分かったはずだ。相手がブラジルでもポルトガルでも、こういう試合を続ければいい。

本田のFKはたいしたキックではない。プレーを褒めるとすれば、自分の任務をこなしたところだ。守備の一番手としてよく走ったから、後の選手たちがいいプレーすることができる。ボールもキープもできていた。3点目のアシストは美しかった。日本では彼の髪型がはやるだろうね。けど、チヤホヤするのはやめた方がいい。若者はすぐにつけあがる。

相手のPKになってもおかしくない場面が2回以上あったことを忘れてはいけない。審判に助けられた試合だった。大久保のワンマンプレーや長友の単調なプレーも気になった。組織的にやればあと2,3点は奪える可能性があった。日本人には耳に痛いことを聞かない傾向があるが、それでは進歩がない。小言は、期待の裏返しなのだから。

決勝トーナメントでも同じようにプレーできるかどうかが大切になる。次も、あるいはその先へも進める可能性がある。いま、あまりお祝いしすぎないように、大会終わってからでも十分だ。

「前日本代表監督」

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20100626

朝日・朝刊

決勝T 心して戦って

潮 智史(編集委員)

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デンマーク戦後の記者会見で、岡田監督がW杯直前のシステム変更と先発入れ替えの理由に初めて触れた。「今年に入って結果が出ず、中心となる選手の不調が続いていた。彼らと話したが、W杯という重圧だったと思う。私がどこかで踏ん切りをつけないといけなかった」。本番までの残り時間と照らし合わせた、ぎりぎりの決断だったことを明かした。

「中心となる選手」は、中村俊や内田を指す。いずれも攻撃のキープレーヤー。ボールを保持して主導権を握るという理想も再考する必要に迫られた。「でも不調がなければ、前のやりかたでもいけたかもしれない」。16強入りを果たした監督自身にはなお、違ったトライをしたかったという思いが残っている。結果を出しても、質や内容を突き詰めたくなる習性の人なのだ。

選手はよく間に合わせた。カメルーン戦の勝利会見で、監督が選手の自主性について話している。「選手が自分たちでやらなきゃという気持ちになった。ここで結果を出したいという強い気持ちがあったんじゃないか」。下地にあったのは監督の待ちの姿勢。体幹を鍛える、持久力を高めるといったトレーニングで刺激を与え、「そんなことでベスト4に入れるか」と、2年半にわたって選手から働きかけてくるよう促した。「本気でやるかは選手次第。私に出来ることは問い掛け続けることしかない」

一方で、追い詰められる前に選手が自分たちから動き出せていたら、とも思う。W杯は、ベンチの指示を仰いでいるような甘っちょろい場ではない。むき出しの人間と人間が技術と知恵を武器に相まみえる。世界中で200を超える代表チームがある中で、わずか16チームによる舞台。心してかかれ。