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20100611
朝日・社説
南アW杯 ソフトパワーも全開
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サッカーのワールドカップ(W杯)がきょう、幕を開ける。世界が熱狂する、1ヶ月に及ぶ戦いの始まりだ。
舞台は南アフリカ。W杯がアフリカ大陸で開催されるのは史上初である。
単なるスポーツの祭典ではない。世界中のメディアが、各チームの活躍だけでなく、開催地や参加国についても集中的におびただしい情報を発信する。それまで知られることの少なかった国や地域について様々な新しいイメージが形成されていく。いわば各国のソフトパワー競演の場でもある。
その意味で、南アでのW杯開催の意義は大きい。
サッカーはこの国の現代史と縁が深い。アパルトヘイト(人種隔離)政策下の時代、ケープタウンの沖合いにあるロベン島刑務所で、政治囚らが自分たちのサッカーリーグを立ち上げた。看守から絶え間ない暴力を受けながらも、囚人たちは刑務所側と数年がかりで交渉し実現にこぎ着けた。ズマ大統領は主将の一人だった。
彼らにとって、サッカーは過酷な日々を尊敬を持って生き抜くための支えでもあったという。そんな中には後に国防相やスポーツ相など国の要職に就いた人たちも多い。今回のW杯運営に携わる人もいる。
島の隔離棟にいて試合に参加できなかったマンデラ元大統領も、このリーグ戦の勝敗に関心を持ったり、ラジオでW杯の実況を聴いたりしたという。
そのマンデラ氏は「南アはアフリカのホスト国として開催の名誉を受けた」と、W杯を大陸全体の大会として位置づける。
アフリカは今、変わりつつある。まだ各地に紛争や貧困といった問題が根深く残る。破綻国家の様相を呈している国々もある。しかしその一方で、民主化と市場経済が進んでいる。
今年は折りしも、出場国のカメルーンやナイジェリア、コートジボワールをはじめとする17カ国が1960年に植民地支配から独立した「アフリカの年」から半世紀の節目である。
激しい貧富の格差や治安の悪さを抱えながら、有力国の集まりであるG20にアフリカから唯一加わっている南アは確かに、苦闘しながら変容を遂げようとするアフリカを代表する国だ。
大会では、南アとアフリカ各国に存分にソフトパワーを発揮してもらいたい。そこに世界のまなざしが集まり、アフリカの国々が高揚感を共有すれば、変革を促す活力にもなるだろう。
今大会の優勝候補はスペインや6度目の優勝を狙うブラジルなどだ。日本代表の健闘を祈りつつ、アルゼンチンのメッシ、ポルトガルのロナルドをはじめとする世界最高峰の選手たちの技も楽しみたい。
来月11日の決勝まで、スポーツの持つ力を堪能したい。