2018年9月21日金曜日

希林さんも去った

20180918の朝日新聞・天声人語より。

おととい訃報が届いた俳優の樹木希林さんは子どもの頃、運動が苦手だった。
小学6年生の水泳大会で選んだ種目はクロールや平泳ぎでなく「歩き競争」である。
泳げない子向けの競技で、ほかは1,2年生ばかり。
あっという間にゴールして1等賞を取った。

同級生から軽蔑されながらも賞品をもらい、得した気分になった。
「これで私はきっと味をしめたんだね。いいんだ、これでって。そのまま来ちゃったわね。私の人生」。
昨年のアエラ誌で語っていた。

他人と比べない。
周りの価値観にとらわれない。
そんなスタイルで役者人生を貫いた。
だからなのか、呼び名に困る人でもある。
名脇役ではぴったり来ないし、怪優や名優も違う気がする。
「樹木希林」としか、言いようがない。

おばあちゃん役ながら、「沢田研二」さんのポスターを前に「ジュリー!」と身もだえする。
写真フイルムのCMでは「美しい人はより美しく、そうでない方はそれなりに」と言われ、がっかりする。
そんなコミカルな演技に、いつしか重厚さが加わっていた。

病との付き合い方もこの人ならではであった。
全身に転移したがんを受け入れ、振り回されはしない。
最後まで仕事を続ける姿は、生きることを楽しむかのようだった。
人生の素晴らしさも悲しさも包み込んだ作品が、残された。

「現在まで、それなりに生きてきたように、それなりに死んでいくんだなって感じでしょうか」。
ひょうひょうとした言葉をいくつも残して、去ってしまった。