2006年10月14日土曜日

06ノーベル平和賞 ユヌス氏

マイクロクレジット年」とした。2006年10月14日 朝日(朝)



06 ノーベル平和賞・ユヌス氏  グラミン(農村)銀行 草の根融資世界へ  

 

無担保で自助促す



 

 

13日発表されたノーベル平和賞を受賞した経済学者ムハマド・ユヌス氏の出発点は、バングラデシュで起きた74年の大飢饉だった。経済理論と現実の隔たりに失望し、農村に足を運んだ。そこから生まれた「マイクロクレジット」と呼ばれる貧困層のための融資制度は世界に発信され、現在アジア、アフリカなど多くの途上国で草の根からの開発の手法として実践されている。


ノーベル財団は受賞理由の中で、ユヌス氏と同氏が設立した「グラミン」銀行の功績について、「文化や文明を超えて最も貧しい人でも自らの手で発展をもたらすことができることを示した」とたたえた。


米国で経済学博士号を取得したユヌス氏は72年、前年独立したばかりの母国バングラデシュに。大飢饉を機に向った農村で出会ったのは、1ドルにも満たない資金に困ったり、高利貸しから借りざるを得なかったりする人々の現実だった。


回収率9割


人口約1億4千万人のバングラデシュは1人当たりの国民総生産が04年現在でも445ドル(約5万3千円)と貧困に苦しむ。貧しい人は返済ができないと信じられ、担保がなければ銀行は融資しなかった。貧しければ、貧しいほど貧困から抜け出す方法がないー。自らの手で、担保なしに村人が連帯責任をとることで融資が受けられる「グラミン」銀行を設立した。


農村(グラミン)を意味する言葉を冠した銀行は、それまでの常識を翻した。人々からの回収率は9割を超えた。銀行として採算がとれることも分かった。


「融資」という手法をとったことについてユヌス氏は、「返済が伴わない援助は人間の尊厳を傷つけて、人々は自助努力や自己責任を忘れがちになる」と強調した。


1億人恩恵


グラミン銀行の成功により、マイクロクレジット制度は90年代以降、草の根からの開発手法として注目され、97年には、マイクロクレジットの信奉者として知られるクリントン米大統領も出席して首脳会議(サミット)がワシントンで開かれた。


グラミン銀行は現在、バングラデシュの約7万の農村で660万人以上に貸し付けている。少額融資の仕組みも世界各地の貧困対策に導入され、対象者は1億人以上と見積もられている。同銀行は携帯電話などのビジネスにも取り組み、市場経済を先導する役割まで担い、「第2の政府」と呼ばれるまでになった。このため本来経済開発に取り組むべきで政府の動きが遅れているとの指摘もある。


00年の国連サミットでは、貧困や飢餓の撲滅、初頭教育の普及、妊産婦や乳幼児死亡率の低下を目指す国連ミレニアム開発目標が採択された。草の根から貧困撲滅の取り組みを始めたユヌス氏とグラミン銀行に改めて国際的な脚光があたる意義は大きい。



 

 

授賞式は12月10日、オスロで、賞金は1千万スウェーデン クローナ(約1億6戦万円)。AP通信によると、ユヌス氏は賞金の一部を貧困層のための食品会社設立に使うと述べた。



 

 

マイクロクレジット(少額融資)



信用力がなく、既存の銀行から借金できない途上国の貧困層に、少額の事業資金を貸し付ける支援制度。物資などを送る援助方式と異なり、人々が自主的な経済活動によって貧困から脱するのを側面支援することに力点を置く。グラミン銀行は少額融資専門銀行の先駆けとされ、そのノウハウが90年代に世界中に広がった。97年には「マイクロクレジット・サミット」が開かれ、国連は05年を「国際マイクロクレジット年」とした。