20091030
朝日・朝刊
オーサー・ビット2009より2話
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☆ 瀬戸内寂聴さん
瀬戸内さんの波乱万丈の人生を知ってか生徒からは「恋と愛の違いは?」「恋は永遠ですか」と質問が相次いだ。
「恋は仏教では『渇愛』と言う。愛するだけでは足りず愛されることを求めるのね。仏教で『慈悲』と呼ぶのが愛。見返りを求めません」「恋は残念だけれど永遠じゃないわね。アメリカでは長くて4年と言います。私は2年だと思う」
(岩手県立福岡高校浄法寺校と、二戸市立浄法寺中学校の生徒、保護者、公募の市民を前に)
☆亀山郁夫さん
エリート意識にとらわれ、金貸しの老人を計画的に殺した若者。だが、「この主人公を嫌いだ、許せない、と思った人は?」と尋ねると、手を上げる者はいない。「どうしてかな」。首をかしげる生徒たち。亀山さんはやさしく説いていく。
それは『罪と罰』が善ではなく、悪と同化させる力を持つ物語だから。読者は悪の主人公と一体化することで、善悪とは何かと自問し始める。つまりこの物語は、考える魂を目覚めさせる「最初で最後の童話」だという。
「じゃあ、主人公に科された刑をどう感じた?」。2人の女性を殺したラスコーリニコフは、流刑地での強制労働8年という刑を言い渡される。「人を人とも思わず殺した」という点で、亀山さんは、昨年の秋葉原無差別殺傷事件を引き合いに出した。「秋葉原の犯人は、極刑を免れないかもしれないのに」
時代を超えた二つの凶悪事件の犯罪心理は、生徒の関心事でもあった。女子生徒の一人が意見を述べた。「ラスコーリニコフは自白したけれど、反省はしていない。苦しみから逃れたかっただけだ」。異論は出ない。いよいよ謎だ。彼はなぜ、たった8年の刑だったのか?
亀山さんが沈黙を破った。「刑を軽くしたのはドストエフスキーが主人公と読者に与えた、死ぬな、生きろ!というメッセージなんです」
(愛媛県立松山西中等教育学校の生徒を前に)