2011年7月17日日曜日

なでしこ、もう少し大きな夢を

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(朝日新聞・20110715・スポーツ W杯決勝進出を決め、喜ぶ日本女子代表ら=AFP時事)

ドイツで開かれているサッカーの女子ワールドカップ(W杯)。

なでしこJジャパン、よくぞ頑張ってくれた。いや、頑張ってくれている、でも、まだまだ、頑張ってもらわなくっちゃ。

折角だから、この際だから、もう少し大きな夢を見させてよ。あのでっかい、トロフィーを全員が抱えあげるシーンを見せてもらいたい。男子のトロフィーは何度もテレビなどで見たことはあるのですが、女子のはどんな形をしているのだろうか。

ドイツ戦にしてもスウェーデン戦にしても、きちんと守って、得点は全て競り勝ってゲットしていることが、このチームの強さの証左だろう。19歳以下女子・本田コーチがこの稿の後ろの方で語っているが、女子がサッカーの基本を体得する小中学時代に、男子と混じって練習していたことが、勝負どころでの1対1の強さを身に付けたのだろう。

日本女子代表は、日本時間10日の準々決勝、対ドイツ戦では、0-0で迎えた延長戦の後半開始3分の丸山桂里奈のシュートを守りきって制した。前後半を通じて、力の入った、緊張した攻守が繰り広げられた。体格や特に身長の高さに優るドイツを相手に、粘り強く守りきった。決定的なピンチにもどうにか凌(しの)いだ。きっちり守って、相手のスキを衝く、日本ならではの作戦だ。全員の意思が統一されていて乱れがない。決勝点の丸山のシュートには強い意志が感じられた。

ドイツの監督さんと日本代表の佐々木監督が、健闘を讃え合って、にこやかに握手をしているシーンが感動的だった。ドイツの監督さんは日本代表チームを祝福してくれた。

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(日刊スポーツ・20110716 無断拝借)

13日の準決勝戦ではスウェーデンを破り、初の決勝進出を決めた。前半10分、澤穂希への不用意なバックパスをカットされ、そのまま持ち込まれ、先制点を奪われた。その後、澤から出たボールを宮間あやが左前にドリブル、そのまま左足でセンターリング、巧い具合にゴール前に迫った川澄奈穂美が、体のどこに合わせたのか、自分でも分からなかったとコメントしていたが、見ている方にもよく確認できなかった。足先なのか、脛(すね)なのか、ボールは迷うことなく相手ゴールに勢いよく入った。ボールには川澄の意志が乗り移っていたのだろう。泥臭いゴールだと解説者は言っていた。

川澄は、この大会はこの試合までベンチウォーマーだった。佐々木監督の、今までの攻撃の布陣を変えての起用に応えた。監督にも考えるところがあったのだろう。気合そのもののシュートだった。澤は、いの一番に川澄に抱きついて祝福した。

そして前半19分、日本代表は相手ゴール前でシュートを放つもキーパーに阻まれ、こぼれたボールを拾って日本チームがつなぐ、そしてゴール前の混戦に澤が出てきて、浮き球をゴールの枠をよく見極めて、ヘッドでシュート。澤は神輿のように抱え上げられた。澤は高らかに片手を天に突き上げた。

この場面、私は肝を冷やしたところでもあった。日本チームの前線は冷静だった。澤がヘッドしたボールを前にいた選手は、この緩いボールに反応しなかった。攻撃に参加するような動きはしなかった。入ると確信したからだろう。澤よりも前にいた選手がボールに反応して、攻撃に加担するようなプレーでもしていたら、オフサイドを採られていたかもしれないのだ。余りにも、冷静だったことに感心した。

後半19分、前線に?が猛烈に速いドリブルでゴールに向かう、相手キーパーはペナルティエリア外まで来てクリアー。そのクリアーされたボールを拾った川澄は、前に出てきたキーパーがまだゴールに戻っていないことを確認して、空っぽになったゴールに思いっきりシュートした。距離は30メートルか40メートルはあったが、弓なりの緩いボールは誰も居ないゴールに吸い寄せられるように、イン。相手を、あざ笑うかのようになんて表現したら、お叱りを受けることになるだろうか。川澄の今試合2点目のゴールだった。3-1で日本代表は勝った。

男子W杯最高の16強をはるかに上回る成績をおさめることになる。

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(日刊スポーツ・20110715 無断拝借)

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決勝進出のなでしこジャパンの強さの理由について、19歳以下女子・本田コーチは次のように語っている。(朝日新聞20110715・スポーツより。私が要約しました)

①体格の大きな相手に対し、グループでパスを展開して崩す狙いは(以前から)あったが、具体的にどう崩せばいいかという答えをあまり持っていなかった。近年はそうしたノウハウを持つ指導者が増え、女子でもどのタイミングで仕掛ければいいかという判断ができる選手が増えた。ショートパスに速い攻撃という『日本らしさ』をちゃんと理解し、表現できる選手が増えた。

②小学生の頃、男女が同じチームでプレーしていることも大きい。米国など、女子サッカー人口が多い国と違い、日本は小学生女子単独チームは少なく、70%は男子に混じって技を磨いている。

③技術的に伸びる小学生の頃に、男子と厳しいプレッシャーの中でやっていることが実は大きい。

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20110712

朝日朝刊

天声人語

その名は、豊作を念じて父親が考えたという。沢穂希(ほまれ)さん、32歳。「なでしこジャパン」の主将である。15歳で日本代表になって以来、女子のサッカーを支え続けた功労者が、また一つ誉れを手に入れた。

女子ワールドカップを戦うなでしこは、地元ドイツを1-0で破り、初の準決勝に進んだ。3連覇を狙う相手は過去8戦して勝てなかった難敵だ。それも、大入りの観衆を向こうに回しての快挙である。

選手は、震災の映像を見直して大一番に臨んだと聞く。延長戦後半、沢さんが「願いを込めて」相手守備陣の裏に浮き球を放り込む。丸山桂里奈(かりな)選手が走りこみ、ぎりぎりの角度から歴史的な決勝点をあげた。疲れた相手の足が届かない。ここしかないというパスとシュートだった。

沢さんは男の子の中で強くなった。小学生時代、試合中に「女のくせに」とスパイクを蹴られたことがある。その子は、心でわびているに違いない。代表での通算得点は今大会で78に増え、あの釜本邦茂さんを抜いて最多となった。

サッカーは長らく「男のスポーツ」だった。沢さんにも女子ゆえに出られなかった試合がある。悔しさは練習とゲームにぶつけるしかなかった。その背中を見て、女の子が当たり前にボールを追い始めている。

アトランタ五輪で惨敗、続くシドニーは出場もできず、廃部が相次いだ低迷期がある。沢さんらはドイツ戦のように耐え忍び、見事に盛り返してみせた。何本もの青い穂に大粒の「なでしこ人気」を実らせて。

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20110715

朝日朝刊

社説/なでしこ 頂点をめざすひたむきさ

サッカーの女子ワールドカップ(W杯)で、日本代表チームなでしこジャパンがスウェーデンを破り、決勝に勝ち進んだ。

これまで世界レベルの大会では、2008年北京五輪の4位が最高だった。その壁を乗り越える快挙だ。

技術の高さが際だつ。スウェーデンとは平均身長の差が10センチあった。国際舞台では常に背負う体格差を、献身的な運動量と持ち味のパスワーク、俊敏性、組織力でカバーした。先制点を許しても落ち着いた試合運びで、勝利を手繰り寄せた。

女子の代表チームが初めて編成されたのは、1981年のことだ。マイナースポーツとしての長い苦難の末、30年という節目に花が開いた。

追い風が吹いたこともあった。89年に始まった日本女子リーグには、バブル景気を背景に企業チームが次々に参入し、海外の有力選手を集めて隆盛を誇った。しかし、バブルが崩壊すると多くのチームはリストラ対象となり、90年代終盤に廃部や解散が相次いだ。

福島第一原発の事故の影響で東京電力チームの活動が休止となり、代表を含む多くの選手が移籍先探しを余儀なくされた。

世界の頂点を狙う現在でも、選手たちの待遇は決して恵まれているとはいえない。

海外のプロリーグで活躍する選手を除けば、代表クラスでも、月給20万円程度の契約社員ならいい方といおう。仕事やアルバイトをしながらサッカーに取り組む選手がほとんどだ。

男女が一緒にプレーする小学校でサッカーの魅力を知った女子が中学に上がると、男子のみの部活に参加できず、プレーする場に困ることもまだ多い。

代表選手たちは、ボールを蹴る喜びや周囲への感謝を最初に口にする。「結果を出すことで女子サッカーの環境を変えたい」との想いが共通するのだ。

こうした厳しい競技環境を乗り越えて、なでしこたちのひたむきさはある。

女子サッカーの人気は世界的に高まっている。日本でもなでしこの活躍で認知度は大きく上がった。選手を取り巻く環境の向上につながって欲しい。

地元ドイツと対戦した準々決勝の前に、選手たちは大震災の映像を見て、自らを奮い立たせたという。試合後のピッチでは真っ先に横断幕を広げる。

「世界中の友人のみなさんへ、支援をありがとう」

ドイツで躍動するなでしこたちのメッセージを受けとめたい。そしてこの勢いで、頂点を極めてもらいたい。