2018年11月3日土曜日

色彩を持たない「つくる」とは?

この吾輩のブログで、読後感想を書いてない本が幾つもある。

それにしても、今年は大学の4年間と余り違わない本数を読んでいることに、贔屓目に誇りに想う。
学生時代は、立派な学問を学問らしく勉強することに感心が余りにも低かった。
その結果、私のできることは、泣り振り構わず、手当たり次第にある本を読むことだった。
校舎は4年間のうち、2年間はロックアウトしていた。
こんなことも、私が勉強しない癖をつけるに好都合だったのかもしれない。

ただ、サッカー部の選手としては、よくぞ頑張ったと胸を張っている。
入部した者の中では、平均点以下か?そんな生易しいものではなかった。
入部した段階で可能な限りの能力が、余りにも低く、随分皆にお世話になった。
1,2年生の時は、みんなと一緒に練習するなんて、その程度の選手ではなかった。
技術レベルについては一番低劣! 馬力についてはお尻にくっついていくのが精一杯だった。
皆が練習を終えてグラウンドを去ってからでも、定休日の月曜日でも、私には私なりの練習をする好い機会だった。
そんな私でも、4年生になって、3試合に1度は試合に出してもらえた。
部員が少なかったのと、私の立場から言えばとっても失礼な話なんだけれど、怪我人が出ると、私の出番になった。


10月半ばに、村上春樹氏の本を読む。
著者には申し訳ないのだが、私の読解力のなさが一番の弱点なんだが、彼の本にはなかなか馴染めないモノがあった。
私の脳は、どうも未文化的なのか、未時代的なのか? ーーーー修練不足だった。
それでも、今回の村上春樹は、私のような能力不足な人間にだって、ちょっとは分かり易かった。
そのうちに、どんな作家モノについても堪能できるように特化していく心算だ。



★本のタイトルは、
「色彩を持たない 多崎つくると、彼の巡礼の年」だ。






Murakami Haruki (2009).jpg
村上春樹氏

文学の解りの悪い私だからこそ、どうしても村上春樹の本は読めなかった。
読みずらくて、どうしても手が伸びなかった。
この本の先ずタイトル「色彩を持たない多埼つくると、彼の巡礼の年」に感心が進んだ。
そして、読み出したら、比較的読み易かった。

その「色彩を持たない」とは? 「彼の巡礼の年」とは何だ?
村上氏の作品は、理解しがたい抽象的な表現が多いが、この本は可なり現実的だった。
私の頭は、「彼の心象風景を描いた文章」が少なかったこと、いつものように「ぶっ飛んだ人物」が出てこなかったり、これらが入り易かった原因だろうと思う。

★あらすじ
高校時代から親友だった5人のグループ。男3人女2人だ。
つくるは育ちの良いハンサムボーイだった。
調和のとれた完璧な共同体であったが、大学2年の時に、つくるはそこから切り捨てられた。
フィンランドでクロに会ったとき、つくるは正直にその時の感慨、思念、心模様を話した。
「16年前あのグループから追放されたあと、5ヶ月間ばかりだけれど、死ぬことだけを考えて生きてきた。本当にそれだけを考えていたんだよ」、「ぎりぎりの端っこまで行って、中を覗き込んで、そこから目を逸らせなくなってしまった」。

生きる気力を失い傷を負った時期もあるが、何とか冷静に自分の生活を取り戻した。
それから36歳を過ぎて、傷ついた過去から元のように回復することができるのだろうか。

大学時代には2歳年下の灰田、36歳にはガールフレンド沙羅と親しくなる。
灰田は音楽、水泳、その他についていろいろ話をして、好ましい友人になったが、ある日、何故か連絡が取れなくなった。

その沙羅がつくるの傷の原因を追う。
つくるは沙羅の希望する4人の姓名と当時の住所と電話番号を机の抽斗から手帳を出して、ラップトップの画面に正確にタイプした。

4人とは。
赤松慶(あかまつけい)    ミスター・レッド
青梅悦夫(おうみよしお)   ミスター・ブルー
白根柚木(しらねゆずき)   ミス・ホワイト
黒埜恵理(くろのえり)    ミス・ブラック

沙羅はつくるに告げた。
「私は個人的にその人たちに興味があるの。その4人について、もっとよく知りたいの。あなたの背中に今でも張り付いている人たちのことを」。
インターネットを通じて解かったことだけを、つくるに話した。

・アオ/ミスター・ブルーは、現在、名古屋市内のレクサスのディーラーでセールスマンをしている。
ずいぶん有能らしく、ここのところ連続して販売台数のトップ賞を手にしている。
高校時代は能天気なスポーツマンだった。

・クロ/ミス・ブラックは、フィンランドに住んでいる。
愛知県立芸術大学工芸科?
彼女は名古屋にある女子私立大学の英文科に入ったはずだが。
実家に電話をして母親からクロのことをいろいろ教えてもらった。
フインランドのご主人と二人の小さな娘とヘルシンキに住んでいる。
だから、彼女に会いたければ、そこまで出かけるしかない。
高校時代は機転の利くコメディアン。
フィンランドでクロから「私のことをクロとは言わないで、エリと呼んで。柚木のこともシロとは呼ばないで。できれば私たちはもうそういう呼び名をされたくないから」と言われた。

・アカ/ミスター・レッドはけっこう波乱万丈の人生を歩んでいる。
名古屋大学経済学部を優秀な成績で卒業後、大手銀行に入行。
この銀行を3年で退職し、いささか荒っぽい噂のある金融会社に転職した。
それも2年半で辞め、自己啓発セミナーと企業研修セミナーと企業研修セミナーを合体させたようなビジネスを立ち上げた。
高校時代は頭脳明晰なインテリ。

・シロ/ミス・ホワイトは、現住所を持っていないと告げた。
住所を持ってないとは、余りにも不自然な言い方だ。
彼女は今から6年前に亡くなった。30歳の時だ。
名古屋市の郊外にお墓があるだけ。
高校時代は可憐な乙女。



沙羅の調査で、グループのひとり=シロが殺されていたことを知る。
この事件の犯人は誰だろう。
沙羅は、事情を知るにつけて、気持ち悪がり、強引につくるに指示したり、質問に答えなかったり。
沙羅は「長く待っているよ」とつくるに意味ありげに話したーーー、それはどういうことだ。
そして、つくろもグループの生き残り人に会って話してみたいと思った。

つくるは名古屋の実家に帰ってレクサス販売のアオに会った。
大学2年生の時に、他の4人とは付き合わないで欲しいと告げられた。
何故、追放されたのだ。
「何が理由だったのだ?」と、つくるから問い質されたアオはその理由を話した。
シロは「君、つくるにレイプされた」と話したんだよ。
かなりリアルに細部まで説明してくれた。

そんなことがあって、我々の仲間に君を入れないようにしようとしたんだ。
「僕は昔からいつも自分を、色彩とか個性に欠けた空っぽな人間みたいに感じてきた」。
「空っぽも容器。無色の背景。これという欠点もなく、とくに秀でたところもない。そういう存在がグループには必要だったのかもしれない」。
アオは、「シロは音楽大学を卒業したあと、自宅でピアノの先生をしていたが、やがて浜松市に移り、一人暮らしをしていた。
それから二年ほどして、マンションの部屋で絞殺されているのを、母が見つけた」。

沙羅は「来月になれば、今かかっている仕事は一段落」「その目途がついたら、フィンランドに行きたいと思っている」。
そうしたら、一緒に行かないかと、つくるは沙羅に進められた。
沙羅はロンドンで仕事を終えれば、つくると同行できるという。
つくるは行く気になった。

つくるには奇妙な感覚があった。
おれという人間の中には何かしら曲がったもの、歪んだものが潜んでいるのかもしれない。
シロの言った通り、おれには表の顔からは想像もできないような裏の顔があるのかもしれない。
いつも暗闇の中にある月の裏側のように。
そんな暗い裏側はやがていつか裏側を凌駕(りょうが)し、すっぽり吞み込んでしまうのかもしれない。

「自分は空っぽの容器だ。自分には何もない」という考え方から「空っぽだからこそ、他人を受け入れる器になる」と認識は変化した
自意識の肥大でなく、他者に想いを馳せるようになれば、絶望の淵から這い上がれるだろうか。
沙羅は「あなたの中で何かがつっかえていて、それが自然な流れを堰き止めているのかしれない」とも言った。

つくるがヘルシンキ行きの飛行機に乗る数日前、青山通りから神宮前に向けた穏やかな坂で、沙羅は中年の男、たぶん五十代前半の感じのいい顔立ち、その男と仲よさそうに手を繋いで通りを歩いていた。

そしてヘルシンキに向かった。
沙羅の会社のフインランド支店の友人が、ホテルを予約しておいてくれた。
友人から、簡略化した地図とクロが住んでいる家の電話番号などを教えてもらった。
今はサマーハウスに居ることも友人が調べてくれて、其処へ行くまでの地図とレンターカーの申し込みもしてくれた。

そして、クロ(エリ)のサマーハウスに着いた。
ハウスには、クロは散歩に出かけていて、クロの夫だけが留守番していた。
彼からクロの生活、ここまでのいきさつなどを教えてもらった。
夫は二人の女の子を連れて買い物に出かけた。
クロと二人っきりにするための夫の配慮だったのだろう。

「誰かに突き落とされたのか、それとも自分で勝手に落ちたのか、そのへんの事情はわからない。
でもとにかく船は進み続け、僕は暗く冷たい水の中から、デッキの明かりがどんどん遠ざかっていくのを眺めていく。
船上の誰も舟客も舟員も、僕が海に落ちたことを知らない。
そのときの恐怖心を僕は今でも持ち続けている」。

クロは「つくる、君はもっと自信と勇気を持つべきだよ。
だって私が君のことを好きになったんだ。
いっときは君に自分を捧げてもいいと思った。
熱い血がたっぷり流れている一人の女の子が、真剣にそこまで思ったのだ」のだよ。

二人は、長く抱き合った。

長い二人っきりの会話の最後にクロ(エリ)が言ったことは「ねえ、つくる、ひとつだけよく憶えておいて。
君は色彩を欠いてなんかいない。
そんなのはただの名前に過ぎないんだ。
私たちは確かにそのことでよく君をからかったけど、みんな意味のない冗談だよ。
君はどこまでも立派な、カラフルな多埼つくる君だよ」。

クロは何故、シロの保護者のようなことをしていたのか?
親友といえども、そこまでするか!
シロはつくるを愛していたし、クロ(エリ)だってつくるを愛していた。
そんな複雑な環境を、クロは消滅したくて、つくねを輪の外に追い出したのか。

クロ(エリ)だってある意味では人生の亡命者だと言える。
心に傷を負い、その結果いろんなものを置き去りにして、故郷を捨てた。

沙羅が明日には、つくるのマンションにやってくる。
つくるはラザール・ベルマンの演奏する『巡礼の年』をターンテーブルに載せ、針を落とした。
書名になっている「巡礼の年」とは? こういうことだったのか!
その音楽に耳を澄ませていると、ハメーンリンナの湖畔の光景が浮んだ。

明日、沙羅がおれに好意を持っていなかったら、俺を選ばなかったら、おれは本当に死んでしまうだろう。
現実的に死ぬか、比喩的に死ぬか、たぶん大した変わりはない。
確実に息を引き取るだろう。

「すべてが時の流れに消えてしまったわけじゃないんだ」、それがつくるがフィンランドの湖の畔で、エリに別れ際に伝えるべきことーーーでもそのときには言葉にはできなかった。

沙羅はつくねのマンションに来なかったのか? 来たのか?





---------------------
本を読んだ後、その本について、どのように感じたのか、どのように思ったのか、自らの感性はどのような影響を受けたのか、それらを書く機会が有るには有るのだが、どうも時間が無いわけではないのに、しっかり書けていない。
此のことについては、情けなく恥じ入っている。

そんなことを、何も理由をつけて此処でグチュグチュ言っている訳(わけ)ではない。
勤めている会社の社長さんのお陰で、読書時間はいっぱい手に入ることに感謝したい。
そして、8月、9月で読み上げた本はかくの如しだ。


・ビルマの竪琴    竹山道雄            新潮文庫
・創作の現場から   渡辺淳一            集英社文庫
・ワルのぽけっと   灰谷健次郎           角川文庫
・闇の子供たち    梁石日(ヤン・ソギル)     幻冬舎文庫
・砂の城       遠藤周作            新潮文庫
・火車(かしゃ)   宮部みゆき           新潮文庫
・母性        湊かなえ            新潮文庫