ヤギと散歩する少女「楽しい」
20181106の朝日新聞・夕刊、社会面に出ていたものを、ここに転載させてもらう。
だって、ヤギと散歩? 少女「楽しい」? そのような表現とその言葉。
少女とヤギが仲良く並んでいる写真が載っていれば、私の感心が頗(すこぶ)る。
私は決して、立派な父親ではなかったが、子育ての大切さはよくよく理解している筈だ。
私の頭の中は、11日未明、3時半に横浜市神奈川区大口通りの商店街で、近くに住む会社員女性(34)が刺されて重症を負った事件の渦が、1(ひと)ヒネリ2(ふた)ヒネリ、こんがらがっていた。
犯行現場は、弊社から5キロもない至近の場所だ。
その犯人が、12日に現場から700メートル傍に住んでいる71歳の老人が逮捕された。
右手で杖を突き、左手はポケットの中で凶器の準備をしていた。
お酒の好きな人で、その金を欲しくて襲ったのか? 捕まった後の調べで詳細はわかるのだろう。
酒癖の悪さなのか、認知症が発症したのか?
ヒネリの大きな原因は、犯人が71歳で私が70歳、両人とも酒を大いに楽しみ、多少酒に現(うつつ)を抜かしかけていることが、お似合いザ。
そんな惨事を前に、一体俺は、果たしてこのオジサンと何か違うものを持っているのか、まさか、よく似た同士? そっくりの相似ではなかったよナ~
そんなことを考えて、不思議に嫌な気分で居たときの、新聞記事だったのだ。
そりゃ、新聞記事を読む気力は凄(すご)む。
記事とはーーー。
「最後の清流」と呼ばれる高知県の四万十川のほとりで、ヤギと散歩する少女に出会った。
四万十川の緑濃い岸辺や青く光る水面を、冷たい風が渡っていく。
少女は稲刈りが終わった晩秋の水田を抜け、コスモスが咲く道をたどる。
お供は、生後10ケ月の雄のヤギだ。
ときおり、首の鈴がチリリンと小さい音を立てる。
少女は同県四万十市の小学5年生、林海風(みかぜ)さん(10)。
ヤギは4月に、両親と3人で暮らす自宅に段ボール箱に入れられやってきた。
家の周りの草刈りに疲れた両親が「草を食べてもらおう」と飼うことにしたのだ。
1月に生まれたばかりの子を譲り受けた。
真っ白な顔の一部が少し茶色だったので、「チャチャ」と名づけた。
海風さんが餌や水の世話をし、放課後や土日に散歩を始めた、
海風さんが背負うリュックには、小さなピンクのバケツが入っている。
のどが渇いたチャチャに川の水を飲ませるためだ。
初めは自宅周辺だけだったが、歩く距離はどんどん延びた。
約2キロ離れた四万十川の佐田沈下橋まで約1時間かあけて往復する。
沈下橋は、増水時に川に沈むように設計された欄干のない橋で、四万十川を代表する風景だ。
橋の観光に訪れた外国人に話しかけられたり、写真を撮られたりすることもある。
「食べ過ぎだよ」
散歩は発見の現場だ。
ゆったりとした歩みに合わせていると、いつもの風景が違って見えてくる。
季節ごとに変わる四万十川の川面や魚たち、野山に咲く花、飛び回るチョウやミツバチ。
カラスの水浴、トンビのけんかも目にした。
チャチャは何度も立ち止まり、道端の草をおいしそうに食べる。
満足するまで動かない。
「もう行くよ」「食べ過ぎだよ」、引っ張るが脚を踏ん張って抵抗する。
油断していると、今度は猛然と走り出す。
昼間の目は細くて、最初は怖かった。
でも今は「夜は目が丸くなってかわいい」。
耳の動きで、うれしいのか怒っているのか、気持ちが伝わってくる。
まるで人気アニメ「アルプスの少女ハイジ」のような牧歌的な光景を、地元の人たちは温かく見守る。
「大きな犬かと思った。ヤギか」「かわいいね」。
11月初旬、総出で草刈りをしていた地区の人たちから声がかかった。
海風さんは「チャチャと一緒に地域の人とあいさつしたり、話をしたりすることが楽しくなった」と笑う。
12月にはチャチャを見合いさせる。
相手は、自宅近くのトンネルの向こうで飼われているヤギだ。
海風さんは「赤ちゃんが早く見たい。チャチャと子どもと親子で散歩する日が楽しみ」と毛をそっとなでた。
(笠原雅俊)