私の経済人としてのこの一年間は大変だった。当然、今も、昨日も今日も、この経済不況の荒波の真っ只中に居る。不良在庫の処分、人材などのリストラ、経費の削減、金融機関との条件変更の折衝に明け暮れた。人材のリストラにおいては、大学の一年生の時から40年も付き合ってきた友人にも、会社を辞めてもらった。断腸の思いだった。早く会社を、なんとか元の状態にまで戻して、復職をしてくれたらいいな、と夢見ながら頑張っている。負の処理に当たっては、誰に会っても、何処に行っても、ペコペコ頭の下げっ放しだ。
私は、自分の筆で書いた標語を壁に張った。
”愚直に、強い意志をもって、復活だ”。
私自身にも、スタッフの皆にも、今日明日の共通した心構えだ。
我々の業界、市場はドン底を乗り越えたようだが、その後の予想はまだまだ侮(あなど)れない。緊張は続く。そんな矢先に、鶴見区栄町通にアーバンビルドの関連会社の宅建免許事務所を開設することになった。ちょっと変則的なのですが、パラデイス ハウスの本社の開設なのです。地名が目出度いではないか、「鶴」で目出度く、「栄」えてハッピー。場所柄については、誰もがアレッと思う不思議な立地だ。我らがゲリラ的に活動する為の陣地としては格好のポイントだ、と自画自賛している。
ここで、私が著したかったのは、久しぶりに味わっている気分、こころが高揚していくなんとも言えぬ幸福感なのだ。
宅建免許事務所を開設するための全日本保証協会への申請手続きや事務所としての体裁を整える為の作業が楽しいのです。申請書を何度も書き直して、ベテラン女性スタッフにチェックしてくれと見せたら、彼女は既に、パソコンで作り上げていた。私が鉛筆舐めなめ、モタモタしているうちに、言われてもいないのに、繁忙の合間に徐徐に作成していたのだった。スタッフが少なくなった分だけ、各人に仕事の負担が重くなったので、なんとか皆の手を煩わせないようにしたかったのだが、やっぱりお世話になってしまった。いいスタッフ、だ。スタッフに感謝。
郵便受けに社名を貼り付け、事務机、打ち合わせ用テーブルとそれらの椅子を軽トラックで運んだ。ファックス、電話の設置。冷蔵庫はビールを冷やすのに絶対必要だ。ポットもコーヒーやお茶を飲む為に必要だ。インターネットの接続。時にはスタッフの力を借りたが、ほとんど一人で作業した。正式な開業は今月16日からだ。
軽トラックに荷物を積んで走っている時などに、ふっと思いがけず過去のアレコレが浮かんでくる。この稼業で、思い出すのは楽しかったことよりも、苦しかったことばかりだ。楽しかったことなんてあっただろう?かと。それでも、懲りずに、次のステージの準備に入ろうというのは、幾ら苦しかっても、やっぱり働くのが好きなんだろうな、と我ながら感心する。
ここで働くスタッフは、まず一人。春のリストラで会社を去って行った人たちの中の一人だ。
まだまだ人を雇える状態に会社は至ってはいないが、先行して仕掛けなくてはならないこともある、給料は充分とは言えないが仕事を求めている人もいる。こんな状況の中で、事務所を作らなければならないことになったのは、思わぬ幸運なことだ。感謝。
今日は本棚にもなる収納ケースを運ぶことにしよう。