2013年7月8日月曜日

又、「事件」を読んでしまった

スモモ 003

大岡昇平の「事件」(新潮社)を、又、読んでしまった。

というのは、この「事件」を20年ほど前に読んだことがあるのに、2週間前、ふらったと立ち寄った何とかオフとかの古本チェーン店で、手にしてしまったのだ。アホか?それともボンクラか? 以前に読んだ本だということをすっかり忘れていた。数冊まとめて買ったものだから、詳しく1冊づつの確認はしなかった。本の題名からも物語を思い出せなかった。かくして、本棚には「事件」が2冊並ぶことになった。1961年から翌年にかけて、朝日新聞で「若草物語」の題で連載されたものを加筆、修正して「事件」に改題、新潮社から刊行された。

大岡昇平という作家の名前と、このような類の本の題名が目に入ると、いつになっても、否応なしに感応する要素を持っているようだ。

1ページの6行目までで、物語の全体像がつかめた。が、肝心要(かんじんかなめ)の、この本の主題が思い出せないまま、嫌~な気分で読み進んだ。その気分が面白くない。

結婚相手の姉を登山ナイフで刺殺した容疑で19歳の少年が逮捕され、少年は、警察官にも、弁護士にも、公判廷でも、返り血を浴びないように気をつけながら左手で被害者の体を抱き、刺傷を与えたと詳細かつ具体的に供述した。そして、遺体を崖下に突き落として、その場を去った。単純な殺人死体遺棄事件だったはずだ。

被害者は、少年と結婚相手である妹に対して、妊娠していることを両方の親に告げると言って、堕胎を勧める。妹の体を気遣う姉の素直な気持ちなのか、歪んでいるのか。この被害者の嫌がらせが、妹と少年の睦まじさに嫉妬した表れか、それとも一歩踏み込んで、妹から少年を奪いたいと思ったのか、その根拠は明らかにされないが、執拗さが余りにも異常だ。

少し急ぐ。

法廷中、弁護士による検事側証人に対する反対尋問のなかで、警察や検察の取調べがお粗末ゆえに、新たな事実が次々に明らかにされ、複雑な様相を呈していく。調査能力に乏しい弁護人には、教え子をなんとか助けたいと願う中学生時代の先生の協力があった。

被害者には情夫がいて、その情夫が刺傷現場の目撃者だったことで、物語は急転回。事件当日は、被害者は飲み代の集金日だった。途中、情夫の家に寄るとそこには、情夫の新しい女がいて、三人はひと悶着。少年の方は、同じ長後の金物屋さんで登山ナイフと洗濯バサミを買った。店主は、これから人を殺そうとするような殺気立った様子は少年の態度からは伺えなかった、と証言。少年は、結婚相手と横浜に引越しをするために、友人の父が経営する運送会社に車を借りる打ち合わせに寄っていた。その店先で友人と居るところに、偶然出会った被害者に、金田に帰るのだったら自転車に乗せてよ、と求められ、二人は犯行現場に向かうことになる。

情夫は二人の後ろを見つからないようにしてつけた。人里離れた山林の細い道、そこで事件が起きた。

妊娠のことを両方の親に告げられることに、本気で恐れて殺したのだろうか、、、、その程度で殺しはしないだろう。惚れられてつきまとわれることが嫌で殺したか、、、、、そんなことで、結婚相手とのこれからの新しい生活を壊すようなことにしないだろう。二人の間に秘密があって、その秘密を殺すことで霧消できるとでも考えたのか。

被害者が少年に近づいて、抱きつくくような仕草の果てに、ずるっと体が崩れたという目撃者の証言。この刺傷の現場において、少年に殺意の故意があったかどうかが、、、、、事件なのだ。

被害者は、経営する飲み屋の経営に疲れ果てていたのではないか。情夫とのやりきれない関係にもうんざりし始めていた、そのうえに情夫に女ができたこと、その女と激しく喧嘩をしてむしゃくしゃしていた。

少年に詰め寄っても冷たく拒否され、突然、自殺のことが頭をよぎり、少年の持つ登山ナイフに向かって行ったのではないか。

判決では、殺意は認められなく、被告人は暴行及び未必的傷害の故意を持ってーーー出血多量のため同女を死に到らしめた罪で、傷害致死と死体遺棄、懲役2年以上4年以下に処する、だった。

だが、真実は解らない。真実が解らなくても、裁判所は判決を下さなければならない。