20190122(火)の朝日新聞・波間風問(はもんふうもん)を転載させてもらう。
編集員・原 真人(はらまこと)
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消費増税対策
バラマキ もはやポピュリズム
政府がまとめた消費増税対策は「手厚い」というレベルを超え、もはやポピュリズムと言ってもいいレベルだ。
10月に消費税率は8%から10%に上る。
国民の負担増は5・2兆円。
これに伴って政府がふやす歳出は5・5兆円。
つまり、安倍政権は増税の増収額より3千億円も多くバラまくことになる。
これではいったい何のための消費増税か。
そもそもの目的は先進国で最悪の借金財政を立て直すことにあった。
赤字たれ流しに終止符を打ち、現役世代も将来世代も支えられる社会保障の基礎を築くはずだった。
それなのに増税でかえって赤字がひどくなってしまってどうするのか。
ポイント還元制度や国土強靭化のための公共事業は時限措置で、プレミアム商品券は1回限りである。
「それが終われば税収増の効果が出てくる」というのが財務省の説明だ。
これも当てにはなるまい。
ポイント還元や商品券をやめるとき、消費者感覚からすれば実質増税となる。
国土強靭化予算を打ち切れば、公共事業は前年度から実質削減になってしまう。
どちらも続行論が出てくるだろう。
財政意識に乏しい政権のもとで、財政省は難しい選択を迫られたのかもしれない。
バラマキ付き増税か、あるいは3回目の増税先送りか、と。
結局、悲願の「10%』実現が優先されたということだ。
それでも、10月に必ず増税が実施されるという保証はない。
世界経済には減速の兆しが出ており、米中貿易戦争が先行きに暗い影を落とす。
この先、株価急落や円高の急進ということもありうる。
3年前、経済が比較的落ち着くなかで「リーマン・ショック級の危機」を消費増税先送りの理由にしようとしたこの政権が、今回ばかりは先送りしないといえるだろうか。
今年は統一地方選、参院選と続く選挙イヤー。
衆院を解散しての同日選説もくすぶる。
考えたくないが、選挙対策として「増税は延期、でもバラマキは実施」という究極のポピュリズムに走る可能性も、なしとは言えない。
年始の財界パーティーで象徴的なやりとりを見た。
財界代表の小林喜光・経済同友会代表幹事が冒頭のあいさつで今年の最重要課題として「消費増税」をあげた。
そして「重要なのは経済成長と財政健全化の両立。基礎的財政収支黒字化の達成に政官民がしっかり目標を共有し努力しなければならない」と訴えた。
経済界から政権へのメッセージである。
ところが、安倍晋三首相はこれを受け流し、あいさつで「財政健全化」に一切言及しなかった。
かわって強調したのが消費増税対策だ。
「前回の消費税引き上げで消費が落ち込んだ反省をふまえ、十二分の対策を打つ。引き上げ分はぜんぶお返しし、さらにお釣りがくる」
健全化とはおよそ似つかわしくない年頭所感だった。