2019年1月19日土曜日

日米が迫る”双子”小惑星

20190117(木)の朝日新聞・朝刊より。
新聞記事をそのまま転載させていただく。

日米が迫る”双子”小惑星
探査が本格化 互いの試料、交換へ

「米国版はやぶさ」とも言われる米国の探査機「オシリス・レックス」が昨年12月、地球から約1億キロ離れた小惑星「ベンヌ」に到着した。
日本の探査機「はやぶさ2」も来月後半、「リュウグウ」に着陸して砂や石の採取に挑む。
日米の探査機による小惑星探査が本格化する。

太陽系の化石
米探査機「オシリス・レックス」は、打ち上げから2年3カ月、約20億キロの長旅を経てベンヌに到着した。
最大のねらいは、ベンヌの試料を地球に持ち帰ることだ。

「太陽系の化石」と言われる小惑星には、46億年前の誕生当時の姿を残す岩石や砂があるとされる。
直接調べれば、生命に欠かせない水やアミノ酸などの有機物の起源、太陽系の成り立ちに迫ることができる。

オシリス・レックスは今月1日(日本時間)、ベンヌの高度2キロ以内に近づき、61時間で1周する軌道に入った。
小さな天体はいびつな形で重力も弱く、探査機が周回するには、入射角度などの慎重な調整が求められる。
ベンヌの直径は約500メートルで、これまで探査機が周回した天体としても最も小さい。

ミッション責任者でアリゾナ大のダンテ・ローレッタ教授は「素晴らしい成果だ。地図の作製と着陸場所探しが始まるのが楽しみだ」と述べた。
今後1年以上かけて撮影しながら、地表成分や地形、熱の噴出の有無などを詳しく調べ、着陸候補地を2カ所に絞る。

着陸は2020年7月の予定で、長さ約3メートルのロボットアームの先につけた円柱形の装置を地表に5秒間押しつけ、噴出した窒素ガスで舞い上がる砂を吸い込む。
少なくとも60グラムを採取し、23年9月の地球帰還を目指す。

表面に岩多数
ただ、着陸には懸念もある。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)のはやぶさ2が着陸するリュウグウの地表は、事前の想定以上に岩が多く、安全に着陸するためリハーサルを追加し、4カ月延期した。
ベンヌも同様に岩が多く、着陸は難航する可能性がある。

JAXAの久保田孝教授は「採取できる砂や石は大きくても2センチほどだろう。着陸場所に小さな砂があればいいが」と話す。

形状そっくり
オシリス・レックスが320キロの距離から捉えた画像は、昨年11月に公開されると、小惑星の研究者らに驚きを与えた。
数億キロ離れたリュウグウ(直径900メートル)の姿と、「双子」のようにそっくりだったからだ。

「同僚から『間違えてリュウグウに行ったんじゃないのか』と言われたよ」。
NASAで小天体探査の主任研究員を務めるポール・エーブル博士は、当時こう話した。

小惑星は、岩石成分が多い「S型」と炭素質で水や有機物を含むとされる「C型」などに分類される。
ベンヌとリュウグウはどちらもC型だ。
こうした成り立ちが形状に影響しているのか、今のところ不明だ。

一方、両者の違いも分かってきた。
ベンヌの表面には黒い点々が見つかり、水や有機物を含む炭素質コンドライトと考えられた。
赤外線分析で、地表は酸素と水素が結びついた水酸基(OH)で覆われていると見られる。
リュウグウにはこれまで、水の成分は観測されておらず、「カラカラの状態」らしい。

神戸大の臼井文彦特命助教によると、C型の水分は、太陽や隕石の衝突による熱によって失われる可能性がある。
臼井さんは「リュウグウとベンヌは進化の過程に違いがあるのではないか」と推測する。

科学的な成果をめぐりライバルとなる日米だが、着陸地点や試料回収の方法などの情報は共有している。
エーブル博士は「両国でタッグを組み、効率よく研究できる」と話す。
試料は回収後、互いに交換して解析する予定だ。

はやぶさ2ミッションマネージャでJAXAの吉川真准教授は「小惑星の共通点や相違点がわかることで、普遍的な知見が得られる。サンプルを持ち帰ったあとの分析が非常に楽しみ』と話している。

(石倉徹也)