2011年4月8日金曜日

蕗を調理する

先日、弊社の販売物件である中古住宅(横浜市神奈川区三枚町)の敷地から採取してきたフキを調理することにした。一人暮らしの私には、単に貴重な食材ではあるのですが、「フキ」には特別な想いがあるのです。

ふきの栄養・選び方・保存方法

フキの生えていたのは、かっての住民が、たまには施肥したこともある庭ではなくて、家の裏手の日陰で、砂利混じりの所でした。3㎡ほどのところに群生していた。痩せて、ガリガリのフキだ。でも、只で頂戴するわけだから、良(い)いとか悪いとか、文句は言っていられない。

フキなどの山菜を見ると、自然に手が伸び、気が付いた時には、幾つかを手にしている、会社のスタッフは奇異な目で私を見るが、田舎育ちの私にとって、ありふれた自然な行動なのです。

子供の頃、フキ、ワラビ、ゼンマイを春の終わりにかけて、毎年のように山野に採りに行った。私より2歳、5歳上の兄たちは、戦力として野良仕事に参加していた。この季節、私の役目は、母と祖母との山菜採りだったのです。ワラビとゼンマイの時期から少し遅れて、フキが生えてくる。

生家は年々耕作面積を増やす意欲的な農家だった。父と母は真面目な百姓だった。

ゴールデンウイーク前の田植えとその後の茶摘みの時期には、家族総出で、朝早くから夕方暗くなるまで、田畑で働き、家では末っ子の私だけが、留守番をしていたのです。私にも、仕事の分担は与えられていた、風呂を沸かすことだった。当時、井戸からつるべで水を汲み上げ、バケツで運び、竈(かまど)で薪に火を点ける、なかなか子どもには難儀な仕事ではあったが、子供心に役に立ちたいと思っていたのだろう。父から、蟻が十匹であ・り・が・と・う、なんて駄洒落でお礼を言われた。

そんな農繁期の朝食といえば、食卓にはご飯と漬物はあっても、それ以外のおかずらしきものは、フキや、ワラビ、ゼンマイの塩漬けや昆布と塩辛く煮たものぐらいしかなかった。味噌汁は温めた。それほど、フキやワラビ、ゼンマイは掛け替えのない食材だった。私たち子どもが起きだしたときには、家族は皆、田や畑に出かけているのです。そのような日々が4月半ばから6月の初め頃まで続くのです。

だから山菜採りは、レクレーション感覚ではなく、食料の確保、仕事の一環として真剣そのものでした。

フキは少し湿り気の多い土壌を好む。日当たりの良い場所でも見つけることはできるのですが、少し陰がある所に多く生えていた。一つの群れを見つけて、その群れを追っかけていくと、またそこに新しいフキの群生に出くわすのです。

料理前の予備的知識を集めた。

問題は、灰汁(あく)抜きの方法を知ることだった。女性スタッフの和さんに聞いてみた。和さんはベテランの主婦?だ。料理については何でもかんでも質問に答えてくれるのですが、今回は、少し考えてから、、、、キュウリの塩モミのようにしてから茹(ゆ)でるといいそうですよ、と誰かの知恵を借りてきたのか、そのように教えてくれた。

家人にも電話で教えを乞うた。茹でればいいんですが、筋(すじ)をちゃんと取らないとアカンよ、灰などがあればいいんですが、手に入らないですよね、だった。

決意を固めて台所に立った。

缶ビールを一口、二口飲んで心の準備をしてから流し台のボールにフキを入れ、そして洗った。いかにも貧相なフキだ。フキを知らない人には、食材には見えなかっただろう。水洗いだけでも、灰汁が出て、ボールの水は黒くなった。葉柄の表皮全面の筋を根元から先に向かって取った。爪が真っ黒になった。実は、筋を取るのは、茹でてから取った方が取りやすかったんですよ、と後日家人から指摘された。

5センチぐらいに切りそろえてから茹でた。充分茹でた後も、冷めるまで、そのまま鍋に入れたままにしておいた。冷めて、一口噛んで柔らかくなっていることに、ただそれだけなのに、嬉しかった。味は苦味があっても、間違いなくあの懐かしい田舎のフキの味と香がした。内心、やった!と顔に喜び線が放射状に走ったのを自覚した。

水気(みずけ)を絞って、皿に盛った。又、1本つまんでみたら、灰汁もなく舌に穏やかだ。これでいい、これ以上何も加工するまい、このまま食うのが一番いい。じっくり眺めてから、醤油をかけて食った。言うまでもないが、ビールでもウイスキーでもない、日本酒をお燗して用意しておいた。

美味かった。この夜の、私の夕食小景でした。

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追記=大学時代、秋田出身のサッカー部の後輩の自宅に招かれたときのことです。フキのシーズンは春なのですが、東北の秋田だから少しシーズンがずれるのだろうか、その時は夏休みだったように思う。現在、彼は秋田市役所に務めている。

後輩の父親に、秋田蕗の栽培地に連れて行ってもらった。40年以上も前のことです。此の頃、年のせいか、懐旧の念が深くなったようです。

フキは、子供の頃から馴染みの植物だったのですが、2メートルもある茎(葉柄)のフキを目(ま)の当たりにして、吃驚した。フキのお化けのようだった。案内パンフレットには、フキを傘のようにして子どもがふざけていたり、フキの下で娘さんがかくれんぼしている写真もあった。

 

★ワンポイントレッスン

何故、「きゃらぶき」なんて呼ぶのか、日本語大辞典〈講談社)で調べた。きゃらぶき=フキ、またはツワブキの若い茎を灰汁抜きし、醤油で伽羅色に煮付けたもの。保存食でもある。

伽羅色とは、濃い茶色のことだ。