先日、友人と街を歩いていたら、駅前の路上で軽自動車の移動式パン屋さんが、客が途絶えて所在なげな様子で客を待っていた。
オオムギとエンバク、パン(Wikipedia)
ご飯系の私は、パン屋さんなど気にもしなかったのですが、友人は明日の朝食用のパンでも買おうかな~とか何とか言いながら店に近づいて行った。
パン屋さんは、今までの浮かぬ顔つきながら、俄然、商売人の顔に早や変わりして、二人に向かって、愛想よく零(こぼ)れんばかりの笑顔を差し向けてきた。この件に関してあくまでも部外者の私は、側で、商売人はこうでなくっちゃアカン、と感激しながら眺めていた。
友人は売れ残って少なくなった、棚に並べられたパンを、それでも真剣に見比べていた。
幾つかを手にとって、これをくださいと、店主に袋に入れてもらうように手渡した。そこで、パン屋さんがその品を受け取ると同時、間髪入れずに、この焼きそばパンはいかがですか?
店主の言ったことは、これも買ってください、と言うことではなくて、サービスの品として貰ってください、と言う意味だったのです。店主の表情もその通りで間違いなかった。側に居た私の顔が、自然にニンマリ綻びた。私、この手の話、モライモノには弱いんです。
このオヤジ、どこかで自分の店舗をもっていて、その店で売れ残ったパンを、駅前ならばお客さんの足は遅くなっても絶えないだろうと考えて、路上で店を開いて売りさばく、また、焼きそばなどを挟んで加工したパンは頃合を見計らって、サービス品として使う、うまいことやってるなあ、と自分勝手に想像した。
ところが、どっこい、どうしたことか、友人は店主の意向を拒否して、どうぞお客さんに売ってください、と言ったではないか。友人の話す言外には、俺に只で呉れるよりも、売ってもうけてください、とそんな気持ちが込められていた。
そのド正面に居合わせた私は、何と、居心地の悪いこと!!! ニンマリした顔はすぐには元に戻らず 友人の背中の後ろに顔を隠した。帰り道、友人の後姿を感慨をもって見つめた。
たかだか3分ぐらいの物語でした。