2012年4月11日水曜日

こそ泥して、放火?

神奈川県のある街の中古住宅を見に行った。

弊社の生業(なりわい)は、中古住宅を仕入れて、その住宅に構造補強、設備仕様のチェックと変更、間取りの変更、その他の工事を施して、希望されるお客さまに買っていただくことだ。その仕入れ物件の現地調査に担当者、私、経営責任者の中さん、工事担当者と出向いた。

この物件は、数ヶ月前に泥棒が入って、奴らが逃げる際に火を点けて逃げたのですが、あなたたちの目で見て、あなたたちの会社で仕入れて貰えるか、壊すしかないのか、それを判断してください、と情報元の不動産会社の担当者から求められた。

その家は幹線道路に面していて、家の前は車や人の往来が頻繁だ。

外観は新築同様。建築してまだ3年も経っていないようだ。何棟かの分譲住宅のうちの1棟で、一番北側の端っこにあって、一番他人(ひと)目につき易い家だった。窓は黒いシートで目隠しがされていた。

応急で付けた南京錠を開けようとして、玄関扉の鍵が、サンダーのようなもので切られているのを、否応なしに目に入った。泥棒が家に侵入するために、鍵を壊すという小細工ではなく、切ったのだ。切れ目が激しいのは、大きなサンダーだからですよ、と工事担当者。浮いている物を、サンダーで切るのですから、さぞかし、大きな音が出たことだろう。人目もはばからず、なんと大胆不敵な盗っ人(ぬすっと)野郎なのだろう。

家の中に入った瞬間、酷(ひど)い状態に驚いた。懐中電灯を頼りに歩を進めた。失火による火災のように、火元と思われる箇所がない。満遍なく、表面的に燃えた跡というか、焦(こ)げた跡はあるが、柱や構造部分は石膏ボードなどの耐火機能が働いて燃えるまでには至っていなかった。なるほど、これが耐火、防火性能というものか、と改めて認識した。早期に発見できたのだろう、構造部分は燃えてなかった。

泥棒は、コソ泥作業の証拠隠滅のために、火焔の出る道具か機械で表面を焼いたようだ。外国のことは知らないが、日本においては、放火は、その悪質性において、窃盗や傷害とは大いに違って科せられる量刑は当然重い。

こんな泥棒は、きっと中国人ではないか、と工事担当者が推理した。中国人を差別したり、卑下している心算は毛頭ないが、日本の旧来のコソ泥の仕業(しわざ)ではない。少し前には、銀行のATM機を、盗んできた建設用重機を使って、ATM機そのものを、そのままごっそり運び去る事件が頻発した。主犯格は中国人だった。だから、今回、取り上げている住宅も、中国人がやったとは言い切れないことは承知している。

日本の普通の所帯では、自宅に多額のお金を置いておかない。このような住宅の購入者は、若く、子育ての最中の世代だ。手持ち資金は頭金として使い果たし、残金はローンを組む。

この家の所有者は、踏んだり蹴ったりの惨事に、さぞかし悲嘆にくれていることだろう。文句を言って行く場所が、見当たらない。警察では、それなりの調べと犯人探しはしてくれるだろうが、幸運に犯人が見つかったとしても、どうにもならん。火災保険は、再調達というか、元に戻すための建築工事費は補填してくれるだろうが、それだって、元に戻してまで住む気にはなれないだろう。又、狙われるのではないかと、心配になる。

そして、住宅ローンは、住めないんだから、払わなくてもいいかといえば、そうでもない。解体すれば、解体工事費がかかって、財産としての住居部分は無になる。それでも、、住宅ローンは払い続けなければならない。再建すればローンの増額になる。増額したローンを銀行が融資してくれるか、解らない。

その場所が嫌になったら、新たな住宅を買うか借りるかだ。ここでも、ローンか家賃が発生する。融資してくれても、くれなくても、ローン地獄まっしぐらだ。

こんな不幸な出来事は絶対、許してはいけない。余りにも、所有者の方には気の毒過ぎると思うが、これも現実なのだ。

弊社では、この物件を熟慮検討した結果、断念した。いつまで経っても、犯人グループに対する怒りは冷め遣らない。