- ジジイ、ぶちゃいよ、ぷっぷぅ!!
これは、私の友人・コウが私の顔を見たら、必ず私にぶつける慣用句で、ジジイ、臭いよ、屁(おなら)をぷっぷぅするのはやめてよ、ということだ。
自分で電話を掛けられないコウは、寝る前にこの慣用句を私に言いたくなって、わざわざ、中さんに電話を掛けさせる。
今回は、このコウのことだ。
長く一緒に仕事をしてきた中さんの次男と仲良くなった。この息子の名前がコウだ。仲良くなったなんて、ちょっと可笑しく聞こえるかもしれないが、その通り、実に愉快で怪態(関西弁=けったい)な話なのだ。
この年齢になって、ますます人恋しい私には、新しい友人の出現は、大いに刺激的だ。
この春、小学2年生になった男の子だ。
ダウン症で生まれてきた。小学校に入るまで、中さんは、コウに聴力が弱いことに気付かなかった。耳の穴が塞がっていて、音を感じとってなかったようなのだ。
そのために、言語を発声する機能の発達が遅れてしまった。中さんは、可哀相なことをした、と悔いている。
そのコウの母、中さんの奥さんが、体調を壊して生家で療養することになった。そのために中さんは、コウの学校への登下校を付き添い、放課後は会社に連れてくるようになった。そこから、コウと私の付き合いが始まったのだ。
先ずコウに対して、私のことをジジイと呼ばせようとした。
彼に話すたびに、私のことをジジイと繰り返したので、直ぐに私のことをジジイと覚えた。中さんのことは、当然パパだ。ジジイとは、コウにとっても発声し易い。
コウは、会社の内に居る時は、状況をよくわきまえて、重要な話し合いの最中には傍で静かに、父や父の話し相手の顔を見て大人しく横に座っている。社員が営業で外に出っ払った後では、気儘に、事務所の隅々で遊ぶのだが、この遊びが彼独特なのだ。
何故か、金庫のある場所がお気に入り。金庫の上にいつも置いてある団扇を、半分、骨だけになったものを振りかざして事務所内を歩く、その様子がまるで神主の態、周辺に弊社の日常とは違う雰囲気を醸(かも)しだす。そういう時に、営業活動が上手くいったという報告が、プロジェクトの現場から寄せられる。
特に、効果がてき面に出るのが、日曜日の夕方だ。不思議なくらい、いい話がどっと生まれる。
団扇をかざすコウの行動には、神々しく、私のような人間クサさがない。素(す)、そのものだ。人間さまを遠くに置き去ってきた風に彼は振舞う。それが、実に自然なのだ。
そして、そんな最中にも私を見つけると、ジジイ ぶちゃいよ、ぷっぷぅ、と体全体を捻(ひね)りながら、私にぶつける。そして、破顔、満面笑顔で、私の目を見つめるのだ。
コウとコウの兄 、中さんと私の4人が車に乗っていたときのことだ。コウの兄が屁を度々するのを中さんが咎(とが)めた、それが始まりの第一歩だ。父が兄に注意した言辞を、コウは俺に向かって転用したのだ。ジジイ ぶちゃいよ、ぷっぷぅ、と。
それから、コウは何回となく、私にぶつけるのだが、どんな状況下でも、そのフレーズは一字一句間違いなく定型なのが、私には不思議だ。
今日20120406も、朝、中さんがコウと学校に行くために一緒に家を出たところ、コウは学校へ行くなんてことは全然考えてなくて、中さんに、ジジイ ぶちゃいよ、ぷっぷぅ、と言って、会社に行こうとするんですよ、と中さんは言っていた。
久し振りにできた私の友人だ。このコウとの縁を大事にしたいと思う。