(記者会見で退陣を表明する菅首相=田中秀敏撮影 読売)
菅直人首相(民主党代表)は、26日に記者会見で辞任を正式に発表した。
記者会見では、1年3ヶ月の政権運営について、「与えられた厳しい環境の下でやるべきことはやった。東日本大震災からの復旧・復興、原発事故の収束、社会保障・税の一体改革など、内閣の仕事は確実に前進している」と自画自賛した。
6月に退陣表明しながら、政権に3ヶ月間居座り、政治空白を生じさせた責任追及には、復興基本法の成立、原子力安全庁の設置決定などを挙げて、大変実り多い政策実行の期間だった、と答えた。
東京電力福島第一原子力発電所事故については、首相として力不足、準備不足を痛感したのは、福島での原発事故を防げず、多くの被災者を出してしまったことだ、と振り返った。
そして、次期首相を担う民主党代表選が、29日に行なわれることになった。ということは、今夜が、菅直人内閣最後の夜になる。
この夜長を、昨今の各紙の記事から、この内閣の総括を試みた。
菅政権についての世間の声は厳しい。言うまでもなく、政治主導の政治を掲げながら政務三役らが、官僚を使いこなせないまま、拙速に、ちぐはぐに物事を進め、省の政務は成り立たなく、内閣は機能しなかった。東日本大震災後は、民主党が党を挙げて、また内閣が死に物狂いで、この国難に対処する働きは見られなかった。国民からは、失望や怒りが高まった。
民主党も、まずかった。菅首相を支えるために一枚岩にはなれず、党はバラバラ、支えるどころか、足の引っ張り合いだった。その元凶は元代表と前代表の二人だ。
小沢一郎元代表や、鳩山由紀夫前首相が、これだけ状況が変わっても、未だに先回に掲げて戦った衆院選のマニフェスト(政権公約)の見直しに反対している。この公約をどうしようとしているのだろうか、説明を聞きたい。
この妖怪二人がこの2,3日、大忙しなのだ。
二人が、今度の代表選においても、権力を保持できるように奔走している。否、奔走はしていないんだ、呼びつけているんだ。昔の田中角栄のように。党の金を自由に遣えるポジションを俺に用意してくれるなら、うちのグループは応援するよ、と。
そして、あの泣き答弁の海江田万里氏が、網にかかった。
そして、以下の候補者が名乗り出ている。
(20110827読売朝刊より)
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20110827
読売・朝刊/社説
菅首相退陣へ
国政停滞を招いた野党的体質
1年3ヶ月足らずの菅「奇兵隊内閣」がもたらしたのは結局、国政の停滞と混乱ではないか。
菅首相が退陣を正式表明し、民主党代表選の27日告示ー29日投開票が確定した、30日にも新首相が選出される。
鳩山、菅両内閣が2代続けて迷走の末に短命に終わったことで、民主党の政権担当能力に重大な疑問符がついた。代表選の各候補は、民主党が今、瀬戸際にあるという危機感を持ち、過去の圧政を総括して代表選に臨むべきだ。
菅首相は記者会見で「厳しい環境の下で私自身はやるべきことはやった。一定の達成感がある」と自賛した。多くの国民の評価と大きな乖離があるのは明らかだ。
首相は、消費税率引き上げ、環太平洋経済連係協定(TPP)参加などの重要政策を場当たり的に打ち上げ、実現への戦略も覚悟もないまま、先送りを繰り返した。唐突に「脱原発」を打ち出し、エネルギー政策を混乱させた。
衆参ねじれ国会で野党の協力を得ようと、財源不足で破綻した政権公約(マニフェスト)の見直しに着手したが、子ども手当てなど一部の修正にとどまった。野党との連係は道半ばにある。
外交面でも、米軍普天間飛行場の移設問題で指導力を何も発揮しなかった。国家主権への意識に乏しく、尖閣諸島や北方領土の問題で中露につけ込まれた。
政官関係にも問題が多い。
首相は、官僚を基本的に信用せずに敵対相手とするという野党的体質を権力の中枢に持ち込み、行政を混乱させた。原発事故で民間人を内閣官房参与に次々に登用したことが、その象徴である。
無論、官僚にも前例踏襲、保身などの悪弊がある。だが、誤った「政治主導」で、官僚を思考停止に陥らせ、サボタージュを横行させる悪循環を招いた。これでは迅速な震災復興は望めない。
政治家が責任を取らない。議論の記録を残さない。政策実現に向けたカレンダーも持たないーーー。こうした民主党の未熟な政治文化が政権の混迷に拍車をかけた。
菅首相が6月の退陣表明後、3ヶ月近く「死に体」のまま居座ったことも、内政・外交の重要案件をすべて先送りするという政治空白を生んだ。その罪は重い。
民主党代表選は、小沢一郎元代表が海江田経済産業省への支持を表明するなど、党内の駆け引きが活発化している。官僚や野党との関係を再構築するための具体策を真剣に論じなければ、政権党の再生はおぼつかない。
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20110828
朝日・朝刊
天声人語
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小沢一郎氏は携帯電話を持たない。政界で「先生の携帯」と尊(たっと)ばれるものは随行秘書が身につける。本人はめったに出ず、必要なら「おい、ピコピコ」と命じるらしい。秘書が長かった石川知裕氏の著書「悪党ー小沢一郎に仕えて」で知った。
この週末、ピコピコはなり続けただろう。民主党代表戦は5氏が争い、明日には「次の首相」が決まる。小沢氏が推す海江田経産相、世論受けする前原前外相を軸に、またぞろ親小沢と脱小沢の数合わせだ。
かれこれ20年、小沢氏は政界座標の真ん中にいる。政治家は氏からの距離と方位で論じられ、政変となればここから始まる。「原点0(オウ)」は今般、処分中ながら師匠ばりの闇将軍を任じている。
その面前で、「小沢先生のお力を借りなければ日本は救えない。力を存分にふるって頂けます様ーー」とべったり持ち上げた海江田氏である。念願の地位に就いても、なにかにつけてピコピコにお伺いを立てそうな気配がする。
代表戦の構図を、小沢氏は「民主党の原点回帰か、菅政権の継続か」と語った。自民党に言わせれば「小沢傀儡(かいらい)か、菅亜流か」(町村信孝氏)となる。小沢氏の復権という原点回帰」を争うのでは、危機にある政治の出直しに値しない。
氏の好きな言葉に、「人事を尽くして天命に遊ぶ」がある。通常の「天命を待つ」と違って、己に期待しない趣がいいそうだ。永田町で山あり谷ありを楽しむのはご随意だが、今の日本、与党の遺恨試合に付き合う時間はそうない。
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20110827
朝日・朝刊
社説
首相退陣、代表戦へ 民主党は一から出直せ
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菅首相がきのう、「やるべきことはやった」と述べて正式に退陣を表明した。
歴史的な政権交代から2年。あっという間に2人の首相が行き詰まり、去っていく。これは明らかな失政である。
原因は何なのか。
菅氏が掲げた政策の方向性が間違っていたわけではない。
原発事故のあと、脱原発に踏み出そうとしたのは、菅氏の功績といえる。消費増税を含む税と社会保障の一体改革という不人気な政策づくりに取り組んだことも評価する。
けれど、政治は合意を取りつけなければ前に進まない。菅氏は合意づくりの術がつたなく、時に閣内の根回しさえ怠った。方針を唱(とな)えるだけでは、思いつきの政治だと批判されても当然だった。
だが、あえて問う。もっと視野が広く調整能力のある首相なら、長期政権になったのか。首をかしげざるを得ないほど、民主党は混乱している。
未成熟な選挙互助会
菅氏が苦しんだのは、衆参のねじれとともに、党内の足の引っ張り合いだった。
めざした消費増税やマニフェストの見直しなどに、小沢一郎元代表が率いるグループを中心に反対意見が渦巻き、党としての意思決定がままならず、政権は失速していった。
対立が最も先鋭化したのが、6月の野党提出の内閣不信任案に、小沢グループが賛成する構えを見せたときだ。
あそこで採決による決着が避けたために、菅氏は辞任への道を歩み始めた。その際に、鳩山前首相と交わした覚書の第1項目に「民主党を壊さない」とあったことが、民主党の現実と限界を象徴していた。
もともと民主党は政策も政治手法も、水と油ほど違う勢力が一緒になった。衆院小選挙区で勝つために、「非自民」勢力を幅広く抱え込んだ結果だった。要するに、小選挙区制が生んだ「選挙互助会」だったのだ。
野党のころは「政権交代」の一点で共闘できた。しかし、成し遂げた途端に共通の目標を見失う。そして内紛を繰り返す現状は、政党と呼ぶには未熟過ぎるように見える。このままでは、次の政権も同じ愚を繰り返すに違いない。
「選挙互助会」から政党に脱皮できるかどうか。きょう告示される党代表戦は、民主党の存廃をかけた正念場にある。
前哨戦では、盛んに「挙党体制」「党内融和」という言葉が聞かされた。震災後も繰り広げられた党内抗争は、いい加減にやめようという響きもあって、一定の説得力を持つ。
だが、「挙党一致」に込められた意味が、政策の違いに目をつむろうということなら、あまりにも無責任な対応だ。
まして、小沢グループにカネと公認権を握るポストを譲るというなら、有権者の支持をさらに失っていくのは避けられないだろう。
結集するか分裂か
代表選でやるべきことは、はっきりしている。党の立ち位置を定め直すことだ。
第一に政権交代時に掲げたマニフェストへの対応を各候補者が明確にすることだ。見直すのか貫くのか。順守するなら、どの予算を削って財源を調達するのか。「歳出削減で賄う」という表現はこの2年で「願望」と同義語になっているのだ。
第二に、選挙後は勝者の方針のもとに結集し、政策の実現に協力することだ。それに沿ったマニフェストの質向上も要る。同意できない議員は党を割って出るしかなかろう。
民主党のみならず、自民党も幅広い勢力を抱えており、政策を軸に再編する余地はある。
有権者にとっても、「自民党がだめだから民主党」といった否定形の選択の代わりに、政策本位で政権を選ぶ道が開ける。
最悪なのは、各候補者が「票目当て」に、あいまいな政策を掲げることだ。代表選は乗り切れても、対立の種は残り、政治が前に進まない。
政策本位の政治へ
代表選では、政治手法や政権運営の方法も問われるべきだ。私たちは「数の力」で与野党が激突するばかりの政治を終わらせるべきだと考える。
民主党は小沢代表のとき、参院第一党の力を使い、徹底して自公政権を揺さぶった。日銀総裁を空席にするなどして政府を追い込み、早期の衆院解散、政権交代を迫った。確かに政権交代を果たしたが、今度は民主党が報復を受け続けている。
小沢氏は「財源はなんぼでもできる」と言い、子ども手当ては月額2万6千円出すと公約を上積みさせた。こうした政治手法の根っこにあるのは、権力奪取を第一とする発想だ。
こんな政治から卒業して、与野党が政策本位で合意点を探す政治に変えよう。それが、ねじれが常態化する時代の政治を動かす道だと、この2年の経験から学ぶべきである。