2012年6月9日土曜日

北島の今の心境は?

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20120412日経新聞(探検学校・三浦豪太)

高速水着を着用して出した自らの日本記録を上回った北島(日本選手権)

 

4月、ロンドン五輪の日本代表選手の選考も兼ねていた日本選手権で、ひょっこり日本に帰ってきて、100メートル平泳ぎで日本記録を上回り、3日後には200メートルでも優勝してしまった。

優勝してしまった、と言う表現は、私にとって、なんだか拍子抜けしたというのが、正直な思いだったからだ。五輪派遣の基準タイムを軽々とクリアし、初の4大会連続の五輪代表を決めたのだ。4大会連続とは、恐れ入谷(いりや)の鬼子母神だ。

2000年のシドニー五輪では、100メートル平泳ぎで4位入賞。次の04年アテネと08年北京の両五輪では、100メートル、200メートルの平泳ぎで金メダルを獲得した。

0、01秒の差を競う個人競技だ。

北京五輪が始まる前まで、アテネ五輪で2種目金メダルを獲得してから、どのように過ごしたのだろうか、それが知りたかった。最高の栄誉の金メダル獲得して、さらに次回に向けて緊張をどのようにしたら持続できるものなのか、知りたかった、心配もしていた。高速水着が話題になったときにも、目もくれず泰然自若、「泳ぐのは僕」と言い切った。ところが、どっこい、私の心配を露ほども感じさせない泳ぎで、2大会連続で2種目とも金メダルを掻(か)っ攫(さら)ってしまった。

そして、今度はロンドン五輪を目指している。

北京五輪後の1年以上の休息の後、2009年の11月に「今、復帰しないと、ロンドン五輪に間に合わないと体が言ってきた」と話した、といつかの新聞記事で知った。

そして、先の日本選手権で見事な記録で、我々の目の当たりに健在ぶりを証明した。

それじゃ、アメリカで、泳ぐってことをどのように考えて過ごしているのだろうか、と気になっていたら、ちゃんと新聞がその辺りを記事にしてくれていた。記者は女性だった。取材の的は、他ならぬ北島康介なのだから、もう少しの突込みが欲しかった。

この記事を逃すまい。今の北島の様子がよく解る記事だったので、いつも通り、マイファイルさせてもらった。

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20120605日経新聞 自己責任の国、米国で「水泳の楽しさ知った」という北島。

(米カリフォルニア州サンタクララ)

 

20120605 スポーツ

日経・朝刊  北島、考えて泳ぐ

米で開いた新境地

「結果がわからないからことに挑戦 楽しい」

ロンドン五輪で平泳ぎ2種目の3連覇に挑む北島康介(日本コカ・コーラ 29)が、米カリフォルニア州で3日まで行われたサンタクララ国際に出場した。二人三脚で歩んできた平井伯昌コーチのもとを離れ、米国に拠点を移して2年余り。独りで試行錯誤を楽しみながら泳ぎを仕上げ、五輪史上初の偉業がかかる本番を迎える。

五輪前の最後のレースとなるサンタクララ国際では、100メートル、200メートルとも低調な記録に終わった。もっとも、この結果は予想通り。むしろ良い刺激を受けたようだ。「これでいい練習をしたい気持ちでいっぱいになった。スイッチが入る」

悪い理由はわかっている。五輪代表選考会だった4月の日本選手権の後、再び追い込んだ練習をしていた。また、米国では腕のかきを重視するが、北島の持ち味はかって蹴った瞬間に肉離れを起こしたことがあるほどのキック力。この2つがまだかみ合っていない。

理屈では、キック力に強い腕のかきが加われば、速くなる。「自分の良さを生かさないといけない。でも、これをやったら速くなるとか、分からないよ。結果が分からないことに挑戦するのが楽しい」。

いいコーチの指導を受ければ「努力する選手、才能ある選手はある程度までは伸びる」と北島。だが「そこから先は何が正しいか分からない」。すでに誰も成し遂げたことがない場所にいる。その先の解を考えるのが、今は面白くて仕方ない。米国で新たに知った水泳の楽しみ方だ。

米国では練習メニューこそあるが、選手がそれぞれの意志を持って、自分の感覚を大事にして練習する。「人に流されないんだ。僕も(コーチの)デーブの話を半分聞き流している感じ」。体調やモチベーションを自分で保たなければならない一方で、「周りにガタガタ言われない。ダメだったら全て自己責任。失敗の原因を分析するのも楽しいしね」。

この2年、試行錯誤してコツコツ積み重ねてきたことは「徐々に生きている」。故障の多い北島がケガらしいケガや体調を崩していないのもその証しの一つか。今後のテーマは腕のかきとキックを合わせること。「自分のタイミング、水の感覚を頼るしかない」。

4年前、8年前は「絶対、金メダル」と目をギラギラさせていた。勝負そのものが楽しかった。今回は違う。「落ち着いているね。成し遂げたい気持ちはない」。今の醍醐味は自分で考えて泳ぐこと。そのために努力する。

「もう僕の勝負は(多く)見てもらったでしょ。でも十分な状態で五輪に出れば、みんなにも楽しんでもらえると思う」。自分の考えの正しさに手応えを感じている。

(サンタクララ〈米カリフォルニア州〉=原真子)