2013年3月6日水曜日

大根役者って、なぜ大根なんだ?

今、読書中の「新聖喜劇」・(著者=大西巨人)の文章の中で、「大根役者」が出てきた。

大根役者の大根は、あの野菜の大根のことだ。私にとって、年間を通じて特別親しくしている野菜だ。おでんに、糠漬け、生野菜としてアルプス盛り(かって、居酒屋山ちゃんの名物メニューだった)、今日の朝飯にも、味噌汁には大根を入れた。存在感は絶大だ。

物語の中で、教育練習兵が、「毎日毎日三度三度大根のおかずばっかり食べておりますので、大根中毒しそうです。このごろは戦友たちの顔までが大根のように見えてきました」と、葉書に記したことが検閲で見つかった。教官は、副食に大根が多いという軍事機密?が軍の外に漏れると、練習兵を責める。制裁が厳禁されているにもかかわらず、公的制裁だとか、何とか言って。

大根役者という言葉を、ヘボな役者のことぐらいしか認識がなかった。どうもこれって、少し調べる必要があるなあと感じて、本棚の「常識として知っておきたい日本語」(幻冬舎)・著者=柴田武を手にとった。

大根役者という言葉は、大根は煮ても焼いても当たらない(食中毒にならない)ところから、いくら頑張っても客席が沸かないことにたとえられたという。

昭和50年だから、私が学校を卒業して2年目のことだ。新聞やテレビで八代目坂東三津五郎が河豚(ふぐ)の毒に当たって死んだことを知った。若いころから、敵役や老役(ふけやく)を得意として、人間国宝にもなった歌舞伎の名優だ。この死因の、大当たりの「河豚」の毒と、当たることのない(食中毒ならない)「大根」を引っ掛けて、「大根役者」を説明してくれている。

それまでに、河豚なるものを食ったことがなかった私には、なんぜ、そんなにまで危険を冒して、食うんだろうと不思議だった。大騒ぎだった。この八代目は、毒の強い肝をもう一皿、もう一皿と板前にせがみ、とうとう四人前を食ってしまった。

河豚の毒に大当たりしてこの世を去った八代目坂東三津五郎は、「もしかして、歌舞伎の隆盛を願うあまり、わざわざ危険な部分に箸をつけたのではなかろうか」と著者の柴田武氏。