2013年4月17日水曜日

支えたいアスリート

アスリートたちに、こんなに熱い視線を注ぐ経営者もいるんだと、うらやましかった。

最近では高校のバスケットボール部の指導者による体罰が原因でキャップテンだった高校生が自殺したり、その前には、柔道の日本女子代表選手たちの監督、コーチによる体罰、ハラスメントの告発問題だ。何れも、現場を管理監督する組織の思考能力の低下、見事に機能不全状態を露呈、アスリートたちは被害者だ

アンチスポーツ派からは、スポーツ馬鹿どもが!?、と大いに批判される絶好の材料を提供してしまった。でも、そんな嫌なことはあったとしても、日々のアスリートたちは、真剣に、真面目で、その活動は常に我々に感動を与えてくれる。そんな折、20130402の日経新聞・スポーツ面におけるミズノ副社長、上治丈太郎氏の「支えたいアスリート」の文章が掲載された。企業人である上治氏から見た、アスリートたちの姿だ。こんなアスリートの生き方を知ると、私は無性に気分がよくなるのだ。

 

スポートピア

上治丈太郎/支えたいアスリート

 

日本が史上最多38個のメダルを獲得した昨年のロンドン五輪。初めて、もしくは何十年かぶりにメダルを取った競技も多かった。17の国内競技団体のスポンサーを務めてきたミズノにとっても、長年の努力が形になったうれしさは格別だった。

大会中もさることながあら、今回は終わってからも選手たちに感謝させられた。福原愛選手、石川佳純選手、平野早矢選手の卓球3人娘をはじめ、多くのメダリストが会社までわざわざお礼のあいさつにきてくれたのだ。競技団体の役員に連れてこられたのではなく、大半の選手が個人としての来社だった。

柔道で虎の子の金メダルを獲得した松本薫選手は、付き添いもなく1人でやってきた。単なるあいさつにとどまらず、「これからファンや子どもたちにどう接したらいいでしょうか」など色々聞いてきた。立場が人をつくるというが、金メダリストとしての自覚がにじみ出ていて頼もしく感じた。

最近の選手は、周囲への感謝や気配りをしっかりできる。時代もあるのだろう。デフレの中で育ち、企業のスポーツ撤退など厳しい環境を生き抜いてきた彼らだ。一方で、1年中合宿できるナショナルトレーニングセンターの開設など国の充実した支援の恩恵も授かっている。競技に打ち込めるありがたみを身に染めて知っている世代といえる。インタービューで周囲への感謝を口にする選手もとても増えた。

メーカーとアスリートの関係はもちろん、ビジネスでもある。商品開発やブランド戦略での大事なパートナーとして、有名な選手ほど成績に応じたインセンティブなど付帯条項も多くなる。契約社会の欧米選手だと契約書類は30ページにもなる。30年前は2、3ページだった。

ジュニア時代からサポートしてきた選手が五輪を目指すレベルまで来た途端、高い契約金で他のメーカーに引き抜かれたりもする。将来性のある選手は関わっている人たちも多いし、最近は青田買いも進んでいる。

ビジネスにドライな部分があるのは当然。だが、メーカーとして思い入れのある選手はビッグネームよりも、無名時代から製品を愛用してくれている選手だったりするものだ。正直言って、4年に1度しか注目されない五輪競技のサポートは損得だけを考えたら成立しない。結局は人と人との世界で、「この選手にメダルを取らせてあげたい」とほれ込むかどうかで、我々のサポートも変わっていく。

ソチ五輪の星、スキージャンプ女子の高梨沙羅選手からはシーズンが終わると手書きの礼状が届く。まだ16歳、なかなかできることじゃない。幼少期から応援してきた縁があるとはいえ、ミズノと契約を結んでいるわけではない。分厚い契約書よりも、そんな1枚の手紙に我々もその気にさせられる。  (ミズノ副社長)