パネルを使って説明する日銀の黒田東彦総裁=4日午後、東京都中央区、遠藤啓生撮影
日銀の新たな量的緩和が始まった。
アベノミクス3本の矢のうち、第一の矢と言われている「大胆な金融緩和」を狙い、日本銀行に乗り込んだ黒田東彦(はるひこ)総裁が、いきなり新たな量的緩和策を打ち出した。安倍晋三首相にとって、待ちに待ったこの時だ。早速、「見事に期待に応えていただいた」と高い評価をした。黒田氏から思い通りの金融緩和策を引き出したことになる。
さてこの先はどうなるんじゃ?
世の金融の仕組みについての知識が全く乏しい私だけれど、少なくとも、新聞の記事の範囲内程度までは、理解度を深めておく必要がありそうだ。
20130405の朝日新聞・朝刊の1面と2面の記事から関係する部分をそのまま転載させてもらった。一番関心があるのは、この新たな緩和策が、デフレ脱却の期待が高まる円安と株高を招き、結果、成功のシナリオを描かれるか、失敗のシナリオに終わってしまうか、だ。
以下は新聞記事のまま。
☆新たな量的緩和策の骨子
・金融市場調整のために操作する目標を従来の無担保コールレート(短期金利)からマネタリーベース(日銀が流すお金の量)に変え、年間約60兆円~70兆円増やす。
・買い入れる長期国債の満期までの期限を3年から40年にのばし、残存期間の平均を3年弱から7年程度までのばす。
・株価指数に連動する投資信託(ETF)を年1兆円、上場不動産投資信託(REIT)を年300億円に買い入れ額を増やす。
・2%の物価安定の目標の実現を目指し、安定的に持続するために必要な時点まで金融緩和を継続する。
・金融緩和のために国債を買う資金枠の「基金」を廃止し、通常の金融市場調整で国債を買う「輪番オペ」と統合する。
・長期国債の買い入れ額の上限を銀行券発行残高以下にする「銀行券ルール」を一時的にやめる。
先ずは1面の見出しだ。
資金供給2年で2倍/日銀、新たな量的緩和/過去最大130兆円投入/必要な策全て講じた/長期金利は最低更新
日本銀行は4日、黒田東彦総裁の就任後初となる金融政策決定会合で、新たな量的緩和策の導入を全員一致で決めた。日銀が金融機関に流すお金の量(マネタリーベース)を2年で過去最大となる130兆円分増やし、規模を2倍にする。2001年から08年まで続けた量的緩和の4倍近い量を投入し、歴史的な金融緩和に踏み出す。
日銀が、金融政策の主眼を、政策金利を動かすやり方から、市場に流すお金の量を調節するやり方に変更するのは06年3月以来だ。
日銀が重視する(マネタリーベース)は紙幣など現金と当座預金の合計で、昨年の12月末時点で138兆円。日銀はこれを13年末に200兆円。14年末に270兆円まで増やす。過去13年でようやく2倍になったが、今後は2年で一気に2倍にし、過去最大を更新する。
長期国債は現在の2倍の月7兆円のペースで買い、長期国債の保有額は12年末の89兆円から、14年末には2倍の190兆円に増やす。
日銀は今回、国債の買いすぎを防ぐ自主ルールの「銀行券ルール」は一時凍結した。事前に予想された「廃止」ではなく凍結にとどめたことで、過剰な買い入れをしないよう一定の配慮をみせたものとみられる。
そして2面の見出しは、決意の緩和 大胆船出/暮らし好転?両刃(もろは)の剣/政権味方、素早い転換
黒田総裁は国際や投資信託をどんどん買って、日銀が市場に流すお金(マネタリーベース)を2012年末時点の138兆円から、14年末に270兆円まで増やすという。日銀が流すお金が2倍になると、一体何がおこるのだろうか。
マネタリーベースとは、日銀が金融機関に流すお金のことだ。金融機関はそれを元手に、企業や個人に貸すので、お金はぐるぐる循環し(信用創造)、金融機関以外の民間部門が持つお金の総額(マネーストック)は約1100兆円に達している。
日銀は、この金融機関の元手となるお金を2倍にし、民間に出回るお金の量を1100兆円から、さらに大きくするのが狙いだ。
それは私たちの生活にどのような影響をもたらすのだろうか。黒田総裁が期待しているのは、3種の効用だ。
まず、国債を大量に買えば、全ての金利の指標になる国債の金利が下がる。住宅ローンや企業の借り入れ金利の低下につながる。長期固定住宅ロ-ン「フラット35」の金利は、「21年以上35年以下」が年1.80~2.75と、すでに過去最低水準だ。新たな緩和策の発表後、4日の東京市場では国債金利が過去最低になった。住宅ローン金利はさらに下がりそうだ。お金を借りて設備投資する企業が増える可能性もある。
2番目は、大量のお金を流し込まれた金融機関が貸し出しを増やすことだ。多くの金融機関はこれまで、企業にお金を貸しても返済してもらえずに損をするリスクがあると考え、安定してもうかる国債の保有を増やしていた。しかしさらなる緩和で国債の金利は下がり、もうけは減る。むしろ緩和による経済活性化に期待して貸し出しを増やす可能性がある。
三つ目は、消費者や企業の間で、物価が上がるのではないかという「期待」を高めることだ。物価や地価が上がると信じる人が増えれば、値上がりする前にモノを買ったり工場や家を建てたりする人が増える。
でも、心配な点もある。円安による輸入品の物価上昇だ。日銀がお金をたくさん供給して、モノの量よりお金の量ばかりが増えれば、お金の価値が下がり、円安になる。
そうなると、日本では、さまざまな輸入品の値段が上がる。燃料を輸入に頼る電気料金は5月から家庭向けが月最大221円上がる。パンや菓子の原料の小麦粉は6月末から値上がりする。モノの値段が上がれば、消費が減る。そうすると企業の売り上げも減り、従業員の給料が減るという悪循環に陥りかねない。黒田総裁は「経済情勢を見ながら政策を調整していく」と話す。
デフレから脱却して物価が上がったが、生活が苦しくなったという不満が出始めれば、景気回復への期待が失望に変わる可能性もある(橋本幸雄)