20130430 18:40~、映画「天使の分け前」を、銀座テアトルシネマで観てきた。
16:30、高田馬場で、逗子市の土地の仕入れ契約を終えて、一緒に契約に立ち会っていただいた共同事業者の社長さんに、実はこれから映画を観に行くのですが、よろしければ一緒にいかがですか、と誘ってみた。社長さんに粗筋の一部を話すと、興味をもってくれた。
上映時間まで時間があったので、映画館の近くの居酒屋でイッペイ引っ掛けた。誘った私が飲み代を払わなくてはならない立場だったのに、あべこべに、払ってもらった。感謝、感謝。
銀座テアトルシネマが、来月の31日(20130531)に27年間の歴史に幕を閉じる。この劇場を運営している東京テアトルさんには、仕事の関係でお世話になっている。社長さんはじめ大勢のスタッフの方々にお付き合いをしていただいている。この会社の象徴的な劇場が幕を閉じると聞けば、足を運ばないわけにはいかない。まして、この映画が最終上映作品だと聞けば尚更のことだ。
2012年、イギリスの名匠ケン・ローチが、カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞したドラマ。脚本家は長年、この監督と仕事をしてきたポール・ラヴァテ。映画の舞台は、スコッチ・ウイスキーの聖地スコットランドのグラスゴー。グラスゴーの失業中の若者集団が直面している厳しい現実をコミカルに映画化したものだが、観衆に突きつけた問題は深刻だ。
「天下の分け前」のストーリーを、買ってきたプログラムの文章に私が大いに加筆した。できるだけ詳しく書いておけば、後日のための備忘の役を担ってくれるだろう。
主人公のグラスゴーに住む若者ロビーは、暴力にあふれた環境で育ち、少年刑務所を10ヶ月前に出所したばかり。家族のしがらみから、息子同士によるケンカの沙汰が絶えない。親の代からの宿敵クランシーに付け狙われていた。青年ロビーは、恋人レオニーとの間にもうすぐ子供が生まれることに免じて刑務所送りを免れ、300時間の社会奉仕活動を命じられる。裁判官は、ロビーの犯歴はどれも深刻だが、恋人を気遣う態度に更正の可能性が見受けられると寛大な判断をした。
奉仕活動の指導者のハリーから、奉仕活動のペンキ塗りの最中に、彼女が男の子ルークを出産したことを告げられる。出産した彼女を見舞いに、ハリーの運転で病院に駆けつけた。そこに居合わせた彼女の父マットと甥っ子たちに殴られた。マットはクラブ経営者で金持ち、娘とロビーの交際に反対していた。
怪我を負ったロビーが、知り合いの部屋を転々して暮らしていることを知り、ハリーは自分の家に連れ帰って手当てをした。さらに、彼はとっておきのウイスキーを開けて、ルークの誕生と父親のロビーを祝った。
父親としての責任を自覚したロビーは、ハリーに励まされ、自分がかって傷つけた被害者とその家族と面談して改めて罪の重さを噛みしめ、自分の子どもを抱き、二度と誰にも傷つけないことを彼女に誓う。
そんなある日、ウイスキーの愛好家のハリーは課外活動?と称してロビーたち奉仕活動仲間をエジンバラの蒸留所見学を組み込んだ日帰り旅行に連れ出した。ウイスキーを嗜む余裕はおろか、グラスゴーから出たことのない若者たちにとっては見る物全てが新鮮だった。彼らを酒に溺れさせるのではなく、素敵な文明社会のウイスキーの滴りを見せてやろうとした。ハリーの思い通り、奥深いウイスキーの世界に興味を持ったロビーは、仲間の紅一点モーがつい失敬してきたミニボトルを飲み比べ、ハリーに教わりながら文献を調べ、勉強するうちに、テイスティング「利(き)き酒」の才能に目覚めていく。モーには盗み癖がどうしても抜けそうにない。
自分には繊細な識別力があって、高級スコッチ・ウイスキーの地域別の複雑な味や他の微妙な違いを正確に判断することができたのだ。
一口口に含んで、そのウイスキーが子どもの頃食べたクリスマスケーキに入っていたクラガモンテだと当てた。彼に新たな希望が生まれた。この蒸留所で怪しげな、自称コレクター・タデウスに会う。この男が、この物語の最後には、奉仕仲間が仕掛けた 「天使の分け前」分を買ってくれることになる。この時点では、怪しげな男として出現している。
ウイスキーが樽の中で熟成されている間に、毎年約2%が蒸発して中身が減っていくことを教えられる。この減少分のことを、この地では「天使の分け前」と呼ぶ。この天使の分け前があってこそ、ウイスキーは美味さを増す。
ロビーにとってハリーは、職もなく、住む場所もない落ちこぼれが、初めて信じられる大人の存在であった。そんなハリーと巡り合い、励まされ、荒んだ気持ちが穏やかに感じられるようなる。自信を取り戻そうとしていた。そんなある日のこと、クランシーに襲われる。ロビーは暴力で立ち向かおうとするが、ハリーが、吹っかけられた喧嘩に乗るな、喧嘩に乗ってくるように仕向けるのが奴らの考えで、奴らの思う壺にはまってしまったら、元も子もないではないか、と制止する。
マットから、5000ポンドで恋人レオニーと息子ルークから別れるように突きつけられる。
社会奉仕活動で知り合った仲間と北ハイランドの蒸留所へ出かけていく。
レオニーとルークとの安穏とした生活を築くためにはどうしたらいいのだろうか、悩みはいつもそこにあった。ところが、そのヒントを得たのだ。そのヒントとは、仲間とともに1樽100万ポンド(日本円で1億4000万円)以上で落札されようとしている幻のシングルモルトの樽から数リットルを盗み、それを何とか金に換えることができれば、人生のスタートの原資になるではないか。手に入れることができれば、いかがわしいウイスキー販売業者に売り飛ばせばいい、と計画した。
2%の「天使の分け前」分を、自分たちが天使になり代わってもらおうというわけだ。別の言い方をすれば、盗むってことなんだが。高価なウイスキーの競り会場に近づいて進入するのに、キルト姿に扮した。キルト姿で、北ハイランドのバルブレア蒸留所までヒッチハイクでどうにかたどり着いた。道々怪しまれて警察の尋問に遭い、キルトをめくり上げてまで検査を受けた。
たどり着いた会場では、仲間たちはカーンタイン・モルトクラブの会員として入場した。会場には、あの怪しげなウイスキーのコレクター・タデウスも来ていた。入札の前日、開会のためのセレモニーが終わった会場に、一人ロビーはその樽蔵の奥に身を潜めた。深夜、仲間が蔵の外に持ち寄ったミニボトルに、目玉の最高級スコッチ・ウイスキーの樽から、ビニールホースで天使の分け前分を引いた。かすめ取ることができた。
翌日、何も知らない関係者たちによる入札は、熱気に包まれ、落札者ならびに関係者は喜び、悔しがり、祝ってその競(せ)りは静かに終わった。
仲間は、最高級スコッチ・ウイスキーの入ったミニボトル3本を抱えて帰途につく、その道すがら3本のうち1本を割ってしまう。だが、3本のうち1本が無くなっても、その希少価値が高まって、総額は変わることはないよ、と宥める。
謎めいた男タデウスと合流、ロビーはそのボトルを買ってもらうことに成功。売り上げを4人で分けた。ロビーはテイスティングの能力を買われ職を得ることができ、レオニーとルーク、ロビー家の3人は買い求めた車で、新たな地に向かってスタートした。
ケン・ローチ監督のインタービューの一部を付け加える。
ーーーーーなぜこの物語なのでしょうか?
昨年(2011)末、イギリスにおける失業中の若年層が初めて100万人を超えた。我々は、今を生きる若い世代の多くが空っぽの未来に直面している問題について物語を作りたいと思っていたんだ。彼らは自分たちが定職に就けないと思っている。それが人々にどんな影響を与えるのだろうか?そんな彼らが、自分自身をどう見ているのだろうかと思ったからだ。
ーーーーーキャストについてはどうですか?
ロビーの恋人であるレオニーを演じる女性を探すのには、長い時間を要してしまった。彼女の役柄は最も簡単だと思っていたんだけれど、実際は最も大変だったんだ。そのソーシャル・レベルを表現することがとても重要だったからだ。彼女の父親は金を儲けたから引越し、中流家庭のバックグラウンドを娘に与えようと必死だった。つまりレオニーはロビーや他の連中と同じグループではないんだ。それなのに、彼女はロビーの世界に近付いて、その世界を理解している。彼女の役にはそのバランスを取る資質が重要で、上流階級ではダメだし、あまりに労働者っぽくても違う、”ロビーが何かを感じる”という点が本当に難問だった。