新聞記事で、「コリアンタウン」と呼ばれる東京都新宿区の大久保とその周辺地域の約50箇所で、在日韓国・朝鮮人に対する差別蔑視言葉の落書きを消す作業を、今月の2日、市民グループが行ったことを知った。
その落書きは、商店街の看板や住宅の壁、工事現場の塀、JRの高架下などに書かれた「コリアン日本に来るな」 「非劣なバカ」 「帰れ」といった文言やナチス・ドイツの「かぎ十字」などだ。
今回の活動の中心になった市民グループは、ヘイトスピーチ(差別的憎悪表現)のデモに反対する「のりこえねっと」で、ツイッターで「差別落書きを許さない姿勢をしめそう」と呼びかけた。デモの際には、彼らは体を張って阻止を試みた。デモは容易になくなりそうもなく、今でも各地に拡散、散発的に行われている。
無念だ、と諦めていないのがこのグループ、今回の活動は、差別蔑視言葉で書かれた落書きを消すことだった。見れば嫌な気分になり、読めば神経がささくれだってくる。呼びかけに賛同した人たちが、首都圏や東海地方から約50人駆けつけ、雑巾やスポンジで消して歩いた。エライなあ、と感心させられた。
しばらく、この手のデモが鳴りを潜めていると思っていたら、今度は新種の蔑視モンだ。「アンネの日記」と関連本が、東京や横浜の図書館で300冊以上が破られるという卑劣な事件が起こった。まさか、大久保でのヘイトスピーチ・デモの一味の犯行かと、、、、想像してみたが、そんなことはないだろう、と打ち消してみたものの、すっきりしない。
大久保では、他の国や民族のことを差別蔑視言葉で表現し、「アンネの日記」や関連本からは、ナチス・ドイツの行為を表現から抹殺しようとしている。「アンネの日記」といえばナチス・ドイツによるユダヤ迫害の悲劇を象徴する本だ。当然、杉原千畝氏に関する本も含まれている。
20140228の朝日新聞・社会面の記事をここに転記させていただく。
自著「母と子でみるアンネ・フランク」が破られた早乙女勝元さんは「人間とは何か、が詰まっているのが本。それを切り裂くのは歴史を知らず、想像力を欠いた人だ。ナチスは焚書(ふんしょ)した末に人間をガス室で殺し、焼いた。本の次は人間を切り裂くことにならないか」と心配した。
高千穂大学の五野井郁夫准教授=首相の靖国参拝が一定の支持を集めるような社会の右傾化が背景にあるのではないか。歴史や領土の問題では中国や韓国に日本がおとしめられたと感じ、戦後の歴史観を否定しようとする人もいる。ネット上ではそうした意見が広がっており、戦勝国側の価値観を全て否定しようという意見さえ出始めている。その延長線上で、敗戦国が反省すべき象徴ともいえるホロコーストに関する本が狙われたのではないか。「ユダヤ人虐殺がうそならば、南京事件や慰安婦問題だって全否定でき、日本は悪くないと主張できる」というゆがんだ発想かもしれない。様々な意見はあるだろうが、史実に基づいて議論していくのが開かれた社会だ。
アンネ・フランク
第2次世界大戦下でドイツ・ナチスの迫害を逃れ、家族とともにオランダに移住したユダヤ人少女。13歳からの2年間の隠れ家生活で感じた恐怖や悲しみ、希望を日記に綴った。その後、アンネはナチスに捕まり、15歳で収容所で亡くなった。戦後、生き延びた父親が編集した「アンネの日記」は世界的ベストセラーとなり、2009年に世界記憶遺産に登録されている。