先月25日に行なわれた、サッカーのアジア杯準決勝の日韓戦で、日本のDF今野の手痛いファウルでPKを献上した。
前半23分、ペナルティーエリア内に送られたロングボールを朴智星(パク・チソン)と競り合った。今野のデフェンスは、相手に自分の体を密着させて自由にさせない、これは守備では当たり前のことだけれども、それが徹底しているからこそ、今野は日本代表には不可欠な選手なのだ。相手と移動しながら、走るコースに入ってしまったのとタイミングが少しずれたので、相手の肩を押すことになってしまった。そして、ファウルをとられた。相手は、韓国主将の朴智星、手強(てごわ)い奴だった。
PKのキッカーは、韓国チームのMF奇誠庸(キ・ソンヨン)選手。奇選手は現在、中村俊輔がかって所属していたこともあるスコットランド・セルティックの所属だ。
それから、問題が発生した。
奇選手がPKを決めた後、仲間に囲まれながら観客席に向いて猿真似をしたのです。膨らませた頬を左手で猿のように掻(か)いた。その挙動が韓国内で、賛否両論がおこっている。猿の真似は、かって白人が黄色人らに対して侮辱する時にするポーズだ。韓国内では日本人を侮辱する際によくやるパフォーマンスらしい。
私は、この試合をリアルタイムで見ていなかったが、その猿真似を見ても、それが日本人を侮辱している仕草だとは気が付かなかっただろう。実際に日本ではその状況をとらえて放映されたのだろうか、私が見たニュースではそのような場面は見受けられなかった。
でも、この「サルのセレモニー」に対する批判は、日本国内からではなく、韓国内から上がった。
その批判に驚いたのか、心配になったのか、奇選手はツイッターで日本の応援席でサポーターを掲げる旭日旗(きょくじつき)を見て、僕の心は涙を流したとつぶやいたそうだ。頭にきて、ついこの行動に出たということだ。
国際サッカー連盟(FIFA)は、人種、宗教、国籍などあらゆる差別に対し、勝ち点の剥奪や失格処分を含む厳しい罰則規定を設けている。そのFIFAから罰則処分を受ける可能性が高まると、一転、それまでの主張を翻し、自身がプレーするスコットランドでサポーターに侮辱されたことがあるので、その報復だった、と矛先を変えた。
そうすれば、どうなるか、今度はイギリスで炎上(ネットで大騒ぎすることをこのような表現を使うらしい)中だ。それにイギリス最大発行紙のサンは、「ずうずうしいmonki」の見出しで、奇選手の発言を批判した記事を掲載した。
この奇選手の猿真似で、日本人のどれだけの人がその意味するところに気づいただろうか。寛容な態度を示したわけではない。日本人は気が付かなかったのだろう。
それにしても、今更、旭日旗とは驚いた。旧日本軍の連隊旗、旧海軍の軍艦旗でもあった、あの日章と旭日を意匠したものだ。韓国人ならずとも、日本人である私でさえも、その旗には違和感を覚える。かっては、軍用だけではなくスポーツの応援などにも使われていたようだ。でも、それは昔、古い憲法の時代のことだと思うが。1990年、イタリアW杯に行ったとき、イタリア人に何故、自分の国の旗を持ってこないのかと非難されたが、そのことには納得したが、まさか旭日旗を持って行こうとは、どんなことがあっても思いつかなかっただろう。
韓国の世論はこの猿真似について大まか、奇選手に対して批判的らしい。韓国の監督は試合後のインタービューで日本のチームの技量とまとまりを認め、祝福の言葉を述べた。
極端な例をここで出そう。私が所属していた早稲田大学は韓国の高麗大学と、今でも毎年恒例で交流試合をしています。私が入学したのは昭和44年、1969年。大学に入ったときに、先輩から聞いた話では、韓国内で各大学と5試合ほどするのですが、田舎の大学では早稲田が勝ったままで試合が終了して、両チームが向かい合って最後のお辞儀をした瞬間、ベンチに猛スピードで逃げ込むんだよ、だって、観客席から石が投げ込まれるんだよ、と聞かされた。ニックキ(憎い)、日本の大学め、と言うことらしい。そんなことが現実にあった。50年ほど前のことだ。
猿真似のことは、時間の経過とともに何らかに収束されるだろう。その後、奇選手も反省しているようです。
2002年日韓がW杯を共同開催した。日本はベスト16進出で敗れたが韓国は4強入りした。韓国は日本チームを応援し、日本は頑張る韓国チームに感動しながらエールを送った。新宿・新大久保のコーリアンタウンは赤いシャツで沸いた。ソウル市役所前の10万人にも上る真(ま)っ赤(か)な群集にど胆を抜かされた。私は、韓国の熱気が羨ましかった。
それから、9年が経った。日韓のサッカーを通じての交流が成熟の時代へと、新しい段階に入っているという実感がする。
あえてこの章の終わりに、10年前に起こった悲しい事件を追想しよう。2001年1月26日、東京・新大久保駅で、韓国人留学生の李秀賢(イ・スヒョン)さんが転落した人を助けようとして電車に轢かれ、他の2人と共に亡くなった。
今更、旭日旗なんか持ち出すな。