2012年5月8日火曜日

ジジイと孫のクチボソ釣りだ

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狩場の児童公園の池

 

今年の春休みに孫の晴と、狩場にあるプールで1時間たっぷり泳いでその帰りに、隣接する児童公園にある池で、10人ほどの老人たちのグループが、交代しながらクチボソを釣っているのを見た。その光景が、私には非常~に羨ましくて、その感覚は褪(あ)せなかった。

30余年前に、私の子どもたちをこの公園に連れて来た。その時にも、クチボソを釣っている人がいた。子どもたちも妻も、その光景には関心を寄せなかったが、私は子どもたちに、釣りの面白さを教えてやりたかった。当時、バブル期のはじける少し前だったので、友人たちの多くは、海や川に魚釣りに出かけていて、その釣果を競っていた。私は、創業当初だったので、ひたすら仕事に励んでいた。

子どもの頃、夏は、近くの川で、魚を釣ったりザルですくったり、潜って捕まえたり、私の第一期の黄金時代に、「魚」抜きでは語れない。

会社は、5月の1、2、3、4日の4日間は営業部は全員休み。他にもう1日を好きな曜日に休みをとるようにした。そして、今日20120504、晴れて念願が叶って、孫の晴とクチボソ釣りに行ってきた。

実は、この日までが大変だったのだ。

釣具を揃えるために奔走した。前提条件が、お金をたくさん遣わないことだったので、問題はそう簡単ではなかった。先ず釣具の上州屋に行こうと会社を出たが、玄関を出て、即、考え直した。否、上州屋ではない、最近店を増やしている中古の釣具チェーン店を思いついた。ちょっとでも安い釣具を手に入れたかった。あれこれ考えながら、横浜駅近くの店に、釣竿や釣糸、釣針などを買いに出かけた。

そこで、大いに驚かされた。

この類の店に行ったのは初めてなので、その驚きは相当なものだった。釣具の種類や量が多いことに、頭がクラクラするほどに圧倒された。狙う魚や、釣り場によって使う釣具は異なるので、種類が多くなったのだろう。それにしても、どの品も高価だった。冷蔵庫や掃除機、自転車やオートバイと同じ値段の品がずらりと並んでいた。吃驚した。なるほど、テレビやラジオの宣伝は華々しく、雑誌はいくつも出版され、街道には大型釣具店が多くできている。釣りを愛好する人が多く、その人たちのための釣具市場の膨大した規模に驚かされた。

考えあぐねた結果、釣竿は店で買うのを諦めた。

最後にたどり着いたのは、やっぱい上州屋だった。店に溢れた商品の山から、私が必要とするものを探しだすことができなかった。困り果て、店の人に話しかけた。昔、私の子どもの頃には、釣糸と浮(うき)、鉛の重し、釣針がセットになっているものがあったのですが、今もそのようなものはありますか?

竿は、店で買うのを断念した時に、自前で調達することを決意した。3日の夜、弥生台駅の裏山の竹薮に侵入して小さな竹1本を頂戴することにした、と友人に言うと、友人は怒り出した。お前、今は筍が生えている時季なので、竹を1本だけ貰いに藪に入っただけですと言ったって、筍泥棒だと疑われたらどうするんだ、窃盗罪などで捕まったら大変だよ、と戒められた。

友人の忠告を真摯に受け止め、雑木の小さい木1本ならばと、竹薮の隣接の山に行った。幸いに山の入口に転がっている木が適当に思えて、それを拾ってきた。

孫とクチボソを釣るのが、私にとっては、今年のゴールデンウイークの最大の目玉行事だった。

春休みに来た時に、老人たちが代わる代わる交代して沢山釣り上げていた場所が空いていた。しめしめ、ここが最良のポイントだということを、誰も知らないのだ。早速、釣針に食パンを、鼻くそほどに丸めてつけた。クチボソがちょこちょこ、餌を突っつく感触はあるが、ぐぐ~っと浮が沈むほどの引きがない。ちょこちょこ、突っついている様子が、ぼんやり見える。そのうちに餌はなくなっている。これの繰り返しだった。

カワセミが近くにやってきて、待ち構えていたカメラマンたちが一斉にシャッターを切った。カワセミは何かを感じたのか、それとも何気に、首をくるくる回していた。その度にオヤジカメラマンは緊張していた。

9時には会社に出たかったので、8時半には止めた。全員が休みだといっても、誰か一人は会社に居た方が何かといいことがある、と経験的に解っている。

残念無念、釣果はゼロだった。ジジイと孫のクチボソとの闘いは、あっけなく終わってしまった。

がっかりする私たち、ジジイと孫は、常連と思われる釣り人たちから、慰められるように今日は食いつきが悪いよ、なんて、言われた。そんなことを言われても、私にとって何の慰めにもなっていない。そうは言っても、釣り人たちのバケツには、何匹も釣った魚が泳いでいた。針につける餌も、私らの食パンとは違って、練りワサビのチューブ入りのようなものを使っていた。

空のバケツと曲がりくねった手製の竿を持って、池を離れた。

ヘミングウェイの「老人と海」の主人公は、クチボソならぬ巨大カジキを追う82歳の漁師だ、私の小さい頭の隅っこでチラチラ、63歳の此の俺、この屈辱は、近いうちに、必ず晴らしてみせるぞと決意した。

 

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上州屋で買ったセットの外袋だ。