20120513の日経新聞より
1996年にアメリカで公開された映画「ツイスター」を思い出した。
今から、15、6年前のことだ、友人に連れられて観た。あの友人は今、何処で、何をしているだろうか。確か、竜巻の予報システムを作るために、観測機のようなものを、竜巻の渦直下に忍び込ませようとする竜巻研究家夫婦らが奮闘する物語だ。映画には、男女の好きだ嫌いだ、滑った転んだは、当然配合されていたが、全体のストーリーは単純なものだった。
スクリーンの映像は、音響とともに迫力満点だった。心臓にガンガン響いた。怖かった。今でも、その時の衝撃は蘇る。さすがアメリカだ、アメリカの竜巻は凄いなあ、と感心していた。アメリカは、何でもかんでも、このように大げさに、面白、可笑しく表現して、飯のタネにしてしまう、凄い国やなあ、とその程度にしか考えていなかった。
ところで、ツイスターって、ツイストを踊る奴のこと? と友人に尋ねても答えてくれなかった。踊るツイストは、片足を軸にリズムに合わせて腰をひねる。軸でない方の片足の膝を曲げて宙に浮かした。昭和の30年代のことだ。踊る様子が、竜巻に似ていたので、勝手にこのように思い込んでいたが、それでよかったのだろうか。軸足が竜の尻尾か、長い舌のようであった。
野茂英雄投手のトルネード投法のトルネードはそのまま、竜巻か?
難儀なことに、最近、日本でも大きな竜巻に襲われることが多くなった。映画の舞台になった、アメリカの大平原で発生するものだと思いこんでいたが、こんな奴まで日本のアメリカ化だ!!
竜巻で屋根が吹き飛ばされた住宅。近隣でも、被害の軽い家屋もある=7日8時51分、茨城県つくば市北条、山本裕之撮影 20120508 朝日朝刊
20120507、茨城県つくば市と栃木県真岡市で竜巻が起こった。国際的な尺度(6段階)はつくば市がF2、真岡市がF1だ。スケールはF1、F2だったが、被害は甚大だ。過去に日本で観測された最大クラスは、2006年11月に北海道佐呂間町で9人が死亡した竜巻がF3だった。F1は風速33~49メートル、F2は風速50~69メートルだ。Fはシカゴ大学名誉教授・藤田哲也のFで、藤田スケールと言われている。
被害範囲は茨城県のつくば市と常総市をまたがる幅約500メートル、長さ約15キロと、栃木県の真岡市から益子、茂木両町にかけて、幅250~300メートル、長さは約18キロ。移動速度は、車並みの時速50~60キロと早く、広範囲に短時間で被害を出したことになる。
それにしても、予想・予測が立てられ難いと聞いているが、早く、こいつも予報してもらえるように、お願いしたいもんだ。
土台ごと吹き飛ばされてひっくり返った住宅(手前)。この下敷きになって鈴木佳介さんは亡くなった。奥の雇用促進住宅は5階部分まで壊された=7日午前7時58分、本社ヘリーから金川雄策撮影
20120508 朝日朝刊
20120508
朝日・天声人語
雨音の変調に振り向くと、ベランダで雹(ひょう)が踊っていた。白い粒の吹きだまりをすくい、はるか上空の寒気を想像する。しかし両手に山盛りの氷は、猛威の端で起きた異変にすぎなかった。
大型連休の最終日、関東地方を異常気象が見舞った。茨城県つくば市や栃木県真岡市で竜巻が発生、1人が亡くなり、50人超が重軽傷を負った。建物の損壊は計1500棟を超す。最大級の竜巻被害である。
関東ではその時、湿気を含んだ南の暖気が低空に流れ込んでいた。上空との温度差は上昇気流を生み、巨大な積乱雲となる。その底から雹が降り、雷はとどろき、竜巻が起こる。神出鬼没の巨竜は悪意を宿したように、家財を巻き上げ、駆け抜けた。
世界的には米国の真ん中あたり、オクラホマ、カンザス、ミズーリ州などが「竜巻銀座」として知られる。逃げ込むための地下室を備えた住宅も多いそうだ。だが面積あたりの発生数では、関東平野も大して違わないらしい。
800年前に書かれた「方丈記」に春の京を襲った「辻風」に記録が残る。〈三四町を吹きまくる間に、こもれる家ども、大きなるも小さきも一つとして破れざるはなし〉。地震や津波と同様、竜巻は昔から人の都合にお構いなく暴れてきた。文明が巡り合わせ、被害が刻まれる。
連休中、中高年登山者の悲劇も相次いだ。季節が移ろうこの時期、天の気まぐれに山も里もない。ひとたび牙をむいた自然の前で、悔しいけれど、人は飛べず泳げずの、弱き生き物に返る。