2012年11月12日月曜日

オバマ米大統領再選

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20121107 米大統領選で、民主党のオバマ大統領(51)が共和党のロムニー前マサチューセッツ州知事(65)を藪って再選を決めた。同日未明(日本時間同日午後)、オバマ氏は地元シカゴで勝利演説を行い、共和党との党派対立を乗り越えて経済の再生に取り組む姿勢を示した。この稿は全て20121108の朝日新聞の記事そのままを転載した。

 

天声人語

洋の東西を問わず、有言実行の政治は難しい。ケネディ大統領のスピーチライターだったソレンセン氏が、歴代米大統領の就任演説をすべて調べて、こう皮肉っている。「史上最低の大統領たちが最高に雄弁であることが判(わか)った」。負けていたらオバマ氏も、その仲間入りだったかもしれない。

むろんオバマ氏は最低の大統領ではないが、雄弁が独り歩きしてきた印象は否めない。米大統領は2期目を任されてようやく一人前ともされる。次の4年でアメリカをどう舵(かじ)取りするか、真価を問われることになる。

人種も文化も多彩な3億人が暮らす国に、大統領選挙は4年に1度の求心力をもたらす。人々は候補者に言葉を求め、胸に響く言葉によって連帯を含め合う。「民主主義の祭り」と呼ばれるゆえんだ。

しかし、今回は史上最悪中傷合戦と言われた。民主と共和、二者択一を迫る悪口のシャワーを浴びて米社会の分裂は深い。勝利宣言で「激しい戦いは国を深く愛すればこそ」と語ったオバマ氏だが、祭りのあと、傷をふさぐのは容易ではない。

オバマ氏の雄弁に戻れば、日本人の胸をゆさぶったのは「核兵器なき世界」だった。もう次の選挙の心配がない2期目には、思った行動がしやすいという。ぜひ広島と長崎を訪れてもらえないか。

就任前から「情けない大統領ならいくらでもいる。真に偉大な大統領になりたい」と語っていた。その願望も昨日の勝利で首がつながった。雄弁という木にみのる果実を、見せてほしい。

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社説

オバマ米大統領再選

理念を開花させる4年に

米大統領選で民主党のバラク・オバマ氏が再選された。

グローバル経済の荒波か、退場を迫られる現職の指導者は少なくない。オバマ氏に与えられた、さらに4年の任期は貴重だ。大胆に指導力を発揮してほしい。

現職有利とされる2期目の選挙だが、、共和党のミット・ロムニー前マサチューセッツ州知事に激しく追い上げられた。

社会保障を手厚くし、政府主導で景気回復を図る「大きな政府」のオバマ氏か、自由な経済競争を重視する「小さな政府」のロムニー氏か、という理念のぶつかり合いだった。

米国の閉塞状況を打破するのはどちらか。米国民は迷いつつも、社会の連帯に重きを置くオバマ氏の路線の継続を支持したということだろう。

この接戦が象徴する「分断」された米国社会を修復することこそが、オバマ氏にとって急務である。

 

「分断」修復急げ

 

選挙には両陣営がこれまでにない巨額の資金をつぎ込み、大量のテレビ広告で中傷合戦を繰り広げた。社会に残した傷跡は深いが、歩み寄るときだ。

米国では来年初め、政府の支出が大きく減らされ、ほぼ同時に増税される「財政の崖」が待ち受ける。

こうした事態に至れば、国内総生産(GDP)を5%近く押し下げるとされる。世界経済に与える影響も大きい。

まずは共和党との間で回避策を探り、協調の足がかりを得る必要がある。

オバマ氏は1期目、大型の景気対策や、国民皆保険に近い医療保険改革を導入して、財政負担の増加を嫌う保守派の猛反発を招いた。

厳しい財政削減を求める保守運動「ティーパーティー(茶会)」が勢いづき、2年前の中間選挙で共和党が下院で大勝した。同党は徹底して政権に非妥協的な姿勢を貫き、政治が動かなくなっていた。

大統領選と同時に行われた連邦議会選では、上院では民主党が過半数を確実にしたが、下院は共和党が多数を占めた。「ねじれ」は続くことになり、超党派での協力が不可欠だ。

共和党も大統領選で示された民意を受けとめるべきだ。「茶会」のような急進的な主張は、国民的な支持を得ていないことがはっきりした。協調すべきは協調しなければならない。

ロムニー氏は、オバマ氏の医療保険改革の撤廃を訴えた。だが、しっかりしたセーフテイーネットの存在は、経済にも好影響をもたらす。共和党も改革を受け入れるべきだ。

 

カギ握る中間層

 

選挙選終盤、オバマ、ロムニー両氏がともに強調したのは中間層への配慮だった。中間層が活気を取り戻してこそ、米国の再生につながる。

また、それが分断修復のカギとなるのではないか。

オバマ氏が苦戦した最大の原因は、経済の低迷だった。

失業率は8%を超える高い水準で推移し、就任時に約10兆ドル(800兆円)だった財政赤字の累積は、約16兆ドルに増えた。

希望の兆しもある。

選挙の直前になって、失業率は2ヶ月続けて7%台に下がり、9月の住宅着工件数も4年2ヶ月ぶりの高い水準だった。回復の軌道に乗りつつある、との見方が強い。

この流れが続けば、政権基盤が安定し、社会のぎすぎすした空気も和らぐだろう。

 

対中関係をどう築く

 

財政的な制約もあり、世界に軍事力を振り向ける余力が少なくなるなか、米国が外交・安全保障でどういう役割を果たすのかも問われている。

4年前、アフガニスタンとイラクの二つの戦争で米国の威信は大きく傷ついていた。

そこに、オバマ氏は全く違う米国の姿を示した。

「核なき世界」を唱え、米国とイスラム世界の新たな関係を求める力強い言葉に、世界は喝采を送った。

だが、いずれも道半ばだ。

中東は「アラブの春」後の秩序作りで揺れている。内戦状態のシリアでは多数の死者が出て、暴力がやむ気配はない。イラン核問題も緊迫している。

紛争の拡大を防ぎつつ、どう解決に導くのか。国際社会をまとめる指導力も試されている。

アジア太平洋重視を打ち出しているオバマ政権にとって、習近平(シーチンピン)・新体制の中国とどう向き合うかは最大の2国間問題だ。

経済面の相互依存が増すなか、実利的な関係を進めると見られるが、大国化した中国が周辺国と摩擦を起こす場面が増え、米国は警戒を強めている。

尖閣諸島をめぐって中国との緊張が続く日本としても、オバマ政権の対中政策を見極め、連係を深める必要がある。

外交、内政両面で、理念を開花させることができるか。オバマ政権の真価が問われる4年間になる。

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変革、これからが本番

アメリカ総局長=立野純二

 

7日未明、シカゴ。再選を果たしたバラク・オバマ大統領は、1万人の聴衆に、かれ声で語りかけた。「経済は回復している。10年の戦争は終ろうとしている。そして、長い選挙戦は終った」

未曾有の経済危機や、イラク、アフガニスタンでの戦争終結にも並ぶ苦難。それほど激烈をきわめた選挙だったと吐露した。「一つのアメリカ」を唱えて歴史に名を刻んだ黒人大統領の再選演説として、実に皮肉な言葉だった。

争点は最後まで経済復興だった。

ミット・ロムニー氏の武器はビジネス経験。最後は逆にその過去が災いした。特にオハイオなど自動車産業の拠点州では、市場に破れた企業や工場を切り売りした投資家よりも、逆に産業を救った現職大統領への信任が上回った。

自由競争にゆだねる社会か、それとも格差の是正を重んじるべきか。低成長と財政赤字に悩む先進国共通の問いに、米国民は後者の「大きな政府」路線を選んだ。リーマン・ショックを招いた市場の暴走の記憶が生きていたともいえるだろう。だが、それは決して論争の決着ではない。

むしろ、社会の対立がこじれているのは、経済格差だけではなく、人種間の分断も深まったからだ。台頭する新移民層と、旧権益層の保守層とのあつれきを背景に、白人の「オバマ離れ」が鮮明になった。議会下院の共和党支配は変わらず、オバマ政権は2期目も内政に悩まされるだろう。

今回ほど米国が世界を論じず、内向きに終始した選挙は珍しい。つい10年前、民主化の旗を掲げてイラクの独裁を力ずくで倒した米国が、隣のシリアで3万人が殺されてなお傍観するのはなぜか。両候補はその答えで一致した。「再建すべきは我々自身だ」

米国はもはや一極支配の覇権国ではない。核なき世界。グリーン・エネルギー革命、イスラムとの対話。オバマ氏が掲げた崇高な目標の大半が道半ばながら、多くの国々は再選を歓迎した。欧州経済が揺れ、中東が混迷し、アジアの秩序が変わる動乱の時代、むしろ4年前より今こそ世界は変革の旗手を渇望している。

「世界は困難にあふれているが、私たちは運命の囚人ではない。我々の行動で歴史を正しい方向に向けられる」(3年前のノーベル平和賞受賞演説)。あれから理想の語りが消えた姿に夢がしぼむ思いがしたのは米国民だけではない。世界が信じた「オバマ伝説」の本番は、初当選の酔いが覚めた今から始まる第2幕にこそあると考えたい。