Ｗ 杯出場を決め、記念撮影でタオルを振り回すザッケローニ監督（中央）ら日本代表＝関田航撮影
サッカーファンにとっては、今日２０１３０６０４は特別な日だった。以下の全ての内容は、２０１３０６０５の朝日新聞・朝刊の記事だ。抜粋、転載させてもらった。
サッカーの日本代表（世界ランク３０位）は、埼玉スタジアムで２０１４年ワールドカップ（Ｗ杯）ブラジル大会のアジア最終予選Ｂ組で豪州（世界ランク４７位）と１－１で引き分けた。４勝１敗２分けで勝ち点を１４にし、１試合を残してＢ組２位以上が確定。５大会連続５度目の本大会出場を史上初めて国内の試合で決めた。開催国以外でのＷ杯出場決定は日本が一番乗り。
土壇場でＷ杯への切符を手に入れた。前半の再三の好機を逃した日本は０－０で迎えた後半３６分、相手の左クロスがそのままサイドネットに吸い込まれて先行された。窮地に立たされたが、ロスタイムのＰＫを本田が決め、初めてホームのサポーターの目の前でＷ杯出場を決めた。
Ｗ杯ブラジル大会は来年６月１２日から７月１３日まで、サンパウロ、リオデジャネイロなど１２会場で行われる。今年１２月にブラジル北東部バアイア州のコスタドサウイペで１次リーグ組み合わせ抽選会がる。
還暦ザック 日本で花
試合終了間際の日本の劇的な同点シーン。ザッケローニ監督は両拳を前に突き出して喜んだ。この試合には並々ならぬ決意で臨んでいた。
「しばらく家には帰らない」。４月の欧州視察の際に自宅に立ち寄ったザッケローニ監督は、そう家族に告げた。家族も「今までは何かイベントが終わる度に帰るのが普通だったので驚かされた」と話す。
少年の指導者から出発し、１９８３年に３０歳でイタリア４部リーグの監督に就任。確実にそのキャリアを積み上げ、９８～９９年に１部の強豪ＡＣミランを率いて優勝を果たす。
だがその後のイタリアでの評価は高くはない。当時を知る選手は「怒った記憶はないし、いい人過ぎる。ここ一番で勝負強さを発揮できなかった」と証言する。
周囲から「過去の名将」とささやく声も聞こえてきた時に、日本から誘いが来た。代表チームを率いた経験はなかったが、新天地での挑戦にかけた。２０１１年１月のアジア杯では、初戦で引き分けた選手の緊張感のなさに激怒。イタリア時代とは違う側面を見せ、チームを優勝に導いた。
一方で、懐の深さも失っていない。豪州戦直前の５月３０日の親善試合ブルガリア戦に敗れた後のミーティングでは、選手から直接意見を聞きながら意思統一を図り、チームの戸惑いを取り除いた。首相の長谷部誠は「日本人の考え方をよく勉強している。歴代監督の中でも、こんなに選手を思いやってくれる監督はいない」と話す。
４月に６０歳になった。「年寄り扱いはしないでください。気持ちは５０歳未満」。殻を破った還暦のイタリア人監督が、日本を率いてＷ杯へと向かう。 （内海亮）
ベテラン遠藤 強烈シュート
ＭＦ遠藤が鬼気迫るプレーで序盤からチームを引っ張った。攻撃を組み立てるだけでなく、自ら積極的に仕掛けた。前半６分にはゴールやや左から直接ＦＫを狙った。さらに１６分には、ゴール前で豪州選手をかわして左足で強烈なシュートを放った。
高さに特徴を持つ豪州を相手に、守備面でも大きく貢献した。「セカンドボールへの対応はどの試合より意識しながらやりたい」と話していた通り、こぼれ球を拾い、リズムよく攻撃につなげた。
後半３６分に豪州に先取点を許し、厳しい表情を浮かべたが、終了間際に日本が追いつくと、ゆっくり仲間に駆け寄って喜んだ。３３歳のベテランが自身３度目のＷ杯出場権を手にした。
後半４５分、同点のＰＫを決める本田＝杉本康弘撮影
終了直前ＰＫ、ど真ん中決めた
決めれば同点。そして日本のＷ杯出場が決まる緊迫のＰＫ。蹴りこんだのは、ど真ん中だった。試合終了直前、ＭＦ本田の肝はすわっていた。我慢できずに左に飛んだ相手ＧＫをあざ笑うかのように、ボールはゴールに吸い込まれた。喜びを爆発させる控え組が本田に駆け寄る。初めて、ホームでＷ杯出場を決めた。
「ラッキーなＰＫだったけど、良かった。結構、緊張してた。真ん中に蹴って取られたら、しゃーないなと思って蹴った」。
引き分け以上で５大会連続のＷ杯出場が決まる一戦で、日本は苦しんだ。細かくパスを回して攻める日本に対して、ロングボールを多用する豪州。均衡を破れないまま、針が進む。
後半３４分、１トップのＦＷ前田に代えて、ＤＦ栗原を投入し、３－４－３にシステムを変えた。守備の駒を入れて、攻撃的な布陣への変更。重視するのは守備か、それとも攻撃か。迷いが失点に結びつく。交代直後、相手のセンターリングがゴールに吸い込まれた。
だが、１日にロシアでカップ戦に出場し、３日に帰国したばかりの本田はしぶとく、そして、たくましかった。終了間際にショートコーナーから上げたクロスが相手のハンドを誘う。同点のＰＫに結びつけた。
直前の親善試合に敗れ、ザッケローニ監督体制で初の連敗。そんな重苦しい雰囲気も本田が吹き飛ばした。「勝利できなかったのは残念だけど、Ｗ杯に行くことが決定して良かったな」。本田が日本を引っ張っていく。 （吉田純哉）
前半、ＧＫ川島はクルーズ⑩のシュートを飛び出して防ぐ＝上田潤撮影
幸せな巡り合わせ 編集委員・潮 智史
監督の名前を取って、「〇◇ジャパン」という呼び方がサッカー界で広がったのは、１９９２年に外国人プロとして初めて招いたオランダ人のオフト監督からだろうか。
翌９３年にＪリーグが始まると、選手強化の場はクラブに移り、代表は個々の選手をどう組み合わせるかがテーマになる。試合の直前に集まり、限られた時間で戦術をすり合わせる寄せ集めの色合いが濃くなった
クラブと違って、監督が代われば選手も入れ替わる。ぶつ切れになりそうだった流れの中で、ザック・ジャパンほど滑らかに前のチームを引き継いだ代表は記憶にない。
チームを後押ししたのは新しく難しい特殊な事情だ。Ｗ杯に初出場した９８年にゼロだった海外組は０２年４人、０６年６人、１０年４人。この日の豪州戦では登録２３人のうち１４人を占めた。最初の公式戦となった１１年１月のアジア杯で、選手たちはすぐさま自身の手でチームを動かし始めた。監督の細かい要求に耳を傾けながら長谷部や本田を中心にすぐに輪ができた。選手は「ピッチで感じたことを大切にしよう」と呼びかけあった。
南アで手にした自信と厳しい競争に身を置く欧州の環境が個々の選手をたくましくした。人一倍の観察力を持つイタアリア人監督は団結力と向上心に舌を巻き、アジア杯直後に「日本に恋している」と語っている。
代表を９９年からみる早川直樹トレーナーは過去との違いを実感する。
「試合に向けてメンタルを含めた準備しっかりやれる。意識の低い人間はここにはいられない。そういうチームになっている」。
チームへの献身や代表としてプレーする責任。求めれるスタンダードが目に見えて上がった。それを選手自らが作り出した分、負けても崩れにくいチームになった。
５日前にブルガリアに破れたあと、ザッケローニ監督は「やるべき時にやる選手たちだ」と信頼を口にした。伸び盛りのチームとの絶妙なシンクロ。幸せな巡り合わせが成長を促した。
激しく競り合う吉田麻也選手＝４日、埼玉スタジアム、杉本康弘撮影
吉田選手 ヨルダン戦の失点シーン、糧に
後半３１分、豪州のＦＷのケーヒル選手がゴール正面で放った右足シュートに、ＤＦ吉田麻也選手（２４）が左側から体を投げ出すようにして足を伸ばした。決定的なピンチを逃れ、チームメイトに頭をたたかれた。最少失点で抑えた守りが土壇場の同点につながった。
吉田選手は、日本人ＤＦとして初めて昨夏、イングランド１部（プレミア）リーグのサウサンプトンに移籍。世界的な選手がそろうリーグで自信を深めてきた。アジア最終予選で４試合連続で守備の要を託されてきた吉田選手は、北京、ロンドンの五輪は本大会に出場したが、Ｗ杯予選は今回まで経験がなかった。
「初めての予選。１試合ごとに、戦いながら学んできた」。
３月２６日の敵地でのヨルダン戦。後半１５分、パスを受けようと動き出した相手ＦＷを、吉田選手は自陣左で少し遅れて迫った。相手の出方を見ようとしたその一瞬、内側へかわされ、そのまま持ち込まれて得点を許した。
いつものように吉田選手は、そのシーンを何度もビデオで見た。そして、あの時はスライディングタックルで相手を止めるべきだったと自分の中では結論を出したという。「どんな試合も要所でどう対処したかは、ほぼ思い出せる。結果から逆算して、どういう時にどうすればいいかを頭の中に蓄積している」。
長崎市出身だが中学１年で兄と一緒に転居し、Ｊリーグの名古屋グランパスの育成組織へ。自分がプレーしたビデオを必ず見る習慣を身につけたのはその頃だが、イングランドに移籍して、その大切さを痛感するようになったという。一瞬の判断力が命綱。自分の目で見た記憶に、頭上から撮ったテレビの画像を重ねて、最良のプレーを確認する。
「日本代表の選手はヨーロッパでプレーしながら成長している。僕たちの伸びしろが、アジアで一番でないとおかしい」。その自信が、ブラジルでの戦いにつながっていく。 （編集委員・忠鉢信一）
前半、指示をダス今野泰幸選手＝４日、埼玉スタジアム、上田潤撮影
２０１３０６０７の天声人語
その警察官はネット上で「ＤＪポリス」と名づけられた。サッカーの日本代表がＷ杯一番乗りを決めた４日夜、東京の渋谷駅前交差点を埋めたフアンを、指揮車の上から誘導し、喝采を浴びた。
「警備にあたっている怖い顔をしたお巡りさんも、皆さんと気持ちは同じです。皆さんのチームメイトです。チームメイトの言うことを聞いてください」「お互い気持ちよく、きょうという日をお祝いできるよう、ルールとマナーを守りましょう」
騒然とする若者らへの呼びかけが傑作だ。映像で見ると、路上から驚きの声や笑いが起こり、「お巡りさん！」コールが広がる。「声援もうれしいですが、、皆さんが歩道に上がってくれる方がうれしいです」と返すＤＪ。こんな光景は珍しい。
集う人々を警備の対象としてだけ見るのではない。喜びと高揚をともに感じている同じ人間として、協力を求める。そこに当意即妙の才がのぞく。理より情への訴えが、共鳴を呼び起こしたとも思える。
ＤＪは２０代の機動隊員だ。警視庁によると、当日の言葉はすべて自分で考えた。「人の心に響く。琴線に触れる」を心がけ、現場の状況や人々の年齢に合わせて柔軟にアレンジしたという。力量のある前線が信頼されて働く姿は気持ちがいい。
劇的なＰＫを決めた本田圭祐（けいすけ）選手が５日の記者会見で言った。「どうやって自立した選手になって『個』を高められるか」。たぶんＤＪもそんな気概の持ち主だろう。若い人たちにいいものを見せてもらった。
国立競技場のパブリックビューイングで、日本代表に声援を送るサポーター＝４日夜、東京都新宿区、福留庸友撮影
やった！！
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やっぱり、２０１３０６０５の日経新聞のスポーツ面の記事も、加えておきたい。
前半、戦況を見守るザッケローニ監督
監督と選手 和の力
終盤に来て、ややもたついたものの実力伯仲と思われた最終予選を４勝２分け１敗、得点１５、失点５でクリアしたことは十分に及第点だろう。
今予選の突破を振り返り、つい比べたくなるのは７年前のＷ杯ドイツ大会で惨敗したジーコ監督のチームである。
前任者がＷ杯ベスト１６を土台にさらなる高みを目指せる。誰もがそう考えたところも似ている。違うのはチーム運営の手法だろう。ジーコ元監督は前任者トルシエ氏の否定から入った。規律に縛られた選手を解放し「自由」を与えた。選手たちの力量を信じ、大人扱いしたのだが、放任された選手たちがそれを持て余した感は否めない。
ザッケローニ監督は受容から入った。現代表の真価が問われるのはこれから先だが、ここまでは岡田前監督が残した果実を巧みに継承したように思う。長谷部、遠藤、本田、川島、長友ら南アフリカ大会の骨組みを生かしながら着実に自分の色も加えてきた。
勤勉で粘り強い守備を土台とした南アのチームに攻撃力を加味する。Ｗ杯でベスト１６より先に進むために、３年前の１０月に船出した新監督に期待されたことだった。
新監督が目指したのはスピーディーにパスを交換しながら常に相手陣内に踏み込んで戦う組織のサッカーだった。欧州組みがチーム内に急増したのが追い風になった。
本田と香川は日本が誇る二枚看板だが、Ｗ杯出場を決めるまでの１３試合（３次、最終予選の合計）で２人がそろってプレーしたのは最終予選のわずか４試合しかない。故障等で飛車角どちらかを欠くのが常態になりながら、清武の台頭や岡崎の成長などがその穴を埋めてきた。「欧州組のライバルは欧州組」となってチーム内の競争に慢心や油断が入り込む余地がなくなった。
その競争心が外向きに転化され、一つになって十分に発揮された時の力はアジアの枠を超えていたように思う。
これまで仕えてきた監督の中でもザッケローニ監督は「コミュニケーションをとるタイプ」と主将の長谷部はいう。
「一緒にいる時間が短い中で一つのチームとしての意識を持たせてくれる。カタコトの英語や日本語でまめに話しかけてくれたり日本人と日本を尊重し、理解しようと心がけてくれる。選手を思いやる気持ちが強い」。
イタリアでビッグクラブを率いた経験を持ちながら、そうした部分を鼻にかけることはない。批判を含んだ安直な日本人論も振りかざさない。
むしろ、口を開くと出てくるのは「日本の選手育成は素晴らしい」「サッカー大国ほど伸びは鈍化している。日本の成長はこれからだ」「日本人は和で勝つことの喜び、グループで勝つことの喜びを知る民族」という礼賛だったりする。
サッカーをよく知る監督と、Ｗ杯や欧州の経験を生かし、自立志向を強める選手たちが絶妙のタイミングで巡り合い、ともに尊重し合いながら高め合ってきたこと。予選突破の理由はそこに尽きる。 （武智幸徳）
芽吹いた「あ・うん」
勝ち点１をもぎ取れば御の字とばかり、堅い守りを敷いたオーストラリアのゴールに執拗に迫った。日本が放ったシュートは１９本。トップ下に入った本田が無類の強さでボールをキープすることが、周りの選手がスペースを突く時間稼ぎにつながる。攻撃は格段にスムーズになった。
引き分けでもＷ杯出場が決まるのだから日本も無理する必要はなかった。しかしザッケローニ監督は７９分に選手交代に出た。前田の代わりにＣＢ栗原を投入。本田が前線に上がり、香川がトップ下に。空いた左ＭＦには長友がＳＢ一つ繰り上がった。
重しがとれた長友がいきなり左サイドを駆け上がる。ゴールに肉薄し放ったシュートはＧＫに阻まれた。交代の恩恵かと思えた瞬間、ラッキーパンチをオーに食らわされた。８１分の失点。にわかに濃くなる敗色ーー。
栗原の投入は３バックへの変更に見えたが、選手たちは「４バックのまま」という。とにかく失点からの数分、日本のサッカーがとっちらかったのは確か。８５分にハーフナーを前線に投入、本田と香川のポジションを元に戻し、執念で同点に追いついたが、結果次第では「強攻策が裏目」とたたかれるところだった。
「はっきりいって１０歳はトシをとった」とザッケローニ監督は。老練な監督にとってもスリリングなラスト１０分だったらしい。これでＷ杯本番を見据えた発言も遠慮なくできる。「ゴールの確率を高めることがこの先の課題として残っている」。
そういう意味では本田と香川の軽やかな連係はこの試合の白眉だったかもしれない。これまでにない「あ・うん」のプレーの芽が見えた。１年かけてこの芽に大輪の花を咲かせたい。 （武智幸徳）
「ほっとした」 香川の目潤む
イングランド・プレミアリーグで活躍する香川にとっても、アジア最終予選突破を懸けた大一番の重圧は、並大抵のものではなかっただろう。試合後のインタービューでは、目をかすかに潤ませ「最後に（本田）圭佑が決めてくれてよかった。ほっとしている」と大きく息をついた。
持ち前の機敏な動きで好機に顔を出したが、勝負を決める決定的な仕事はできなかった。１９分過ぎに絶好のタイミングでゴール前に飛び込んだが、どんびしゃりのシュートがＧＫの正面を突いた。喜びもほどほどに「こういう試合で決めないといけないと痛感した」と反省が口をついた。
故障明けの長友 果敢に攻める
攻守に奮闘した長友は「失点してもチームに動揺がなかった」と仲間の精神的な強さをたたえた。自身も故障明けの影響を感じさせず、果敢に攻め上がってのシュートなど持ち味を十分に発揮した。
ただ相手を押し込みながらの引き分けという結果には「正直、勝たなければいけない試合。そこは厳しく見ないといけない」と苦言も。「僕は本気で世界トップを目指している。控えの選手を含めて個人の実力を高めないといけない」とＷ杯本大会見据えていた。
逆襲封じに集中 長谷部、守備光る
「きょうは素直に喜びたいけれど、もっと成長しないと世界では戦えない」と長谷部は試合内容に不満をもらす。攻め込みながらもなかなかゴールを割れなかった。
そんな中で、ボランチとして相手の逆襲を遅らせることに集中した。無理に突っかけず、体をうまく寄せることで前線への決定的なパスを封じ続けた。「守備に関してはある程度できたと思う。失点はお互いに事故みたいなもの」と振り返る。
「自分に重圧を掛けながら予選を戦ってきた」という主将は、「予選突破に向けて有利になってからつまずいたのはスキができたから。チームにもっと厳しさを求めたい」と口元を引き締めた。
公式戦
東京・渋谷駅前。過去のＷ杯本選の際、群集によるトラブルが起きたため、４日夜は警視庁が数百人の警察官を配置した。スクランブル交差点の歩行者の通行を制限した。それでも日本が豪州と引き分け、Ｗ杯出場を決めた９時半ころになると若者を中心に交差点に面した商業施設の前に人が集まりだした。
