2012年3月23日金曜日

頑張っている中西麻耶さん

20120321の朝日新聞・朝刊、社会面より。

全文、新聞記事をそのまま転載させていただいた。新聞社には無断だけれど、中学生のときからの朝日新聞の愛読者です。本物の朝日贔屓です。

この手の内容の記事に極端に弱いのです。早速マイ・ポケット奥に、仕舞い込みたくなりました。

 

見て 義足の体を

世界に挑むため

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(カレンダーを手にする中西麻耶さん)

 

今夏のロンドン・パラリンピック出場をめざす陸上女子のトップ選手が先月、セミヌードカレンダーを発売した。背後には何より資金難があるが、背中を押したのは「絶対にロンドンまでやる」という覚悟だった。

 

中西麻耶さん(26)は2006年、ソフトテニスで国体出場を目指す、大分県の21歳の会社員だった。勤め先は「練習と両立できる」という条件で入った鉄骨塗装の会社。その現場で、倒れてきた鉄骨に足を挟まれ、右足ひざ下を切断した。

約半年後に退院したが、周囲からの「何もできなくなった」という視線を感じることが多く、悔しかった。義足をつけて立つ練習から始め、翌07年に走り始めた。実力を上げ、98年には北京パラリンピックに出場。100メートルで6位、200メートルは4位に入賞した。

それでも世界との差を痛感した。「現役でいられる時間は限られている。悔いだけは残したくない」。09年に渡米し、世界のトップ選手が集う米国の国立トレーニングセンターの審査に通った。三段跳びの五輪金メダリストのアル・ジョイナーから指導を受けるようになった。記録は伸び、100メートル、200メートル、幅跳びで日本記録を更新した。

ところが、資金難に苦しめられた。最低2足は必要な競技用の義足は、1足約120万円する。月約千ドルの生活費や、日に約40ドルのセンター利用費に加え、コーチへの謝礼も必要だが、米国の就労ビザがないため働けない。ホームステイする費用が払えなかった時は、車で寝泊りした。

ニュージランドであった11年の世界選手権は、渡航費用が足りず、出場を断念せざるを得なかった。苦しい時期だったのに、競技関係者の間には「それなら米国に行くなよ」と彼女を非難する声すらあった。

パラリンピック資金にセミヌード

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(競技中の中西麻耶さん=越智貴雄氏撮影)

 

資金を作るため、カレンダーを作った。バッシングを受けるのは覚悟の上で、自分をさらけ出した。障害部位を出すと「障害者をさらし者にしている」という人もいる。でも、「本気で支援してもらうため、自分のすべてを賭けてインパクトのあることをしよう」との思いが強かった。

10年以上にわたってパラリンピックを撮ってきた写真家、越智貴雄さん(33)に撮影を依頼した。越智さんはその成果をこう語る。「彼女を一言で表すと『突破』。困難にぶち当たっても、真正面から立ち向かう姿が表現できたのでは」

白黒の中で、義足だけ色付きの写真もある。赤色やバラの絵柄の生地を選んで作ってもらう義足は「見られて恥ずかしいものではなく、美しいもの」だと伝えたかった。

中西さんは「私は障害者でなくアスリート」と言い切る。そのためのよりよい環境を求めて道を切り開いてきた。カレンダーも、その手段の一つだ。でも、「後輩にはこういう思いをしてほしくない」。被写体となることで「どんなにバカにされようがバッシングされようが、後輩たちが活躍できる道を作りたい」との思いを込めた。

「障害者のスポーツはレベルが低い」と思う人がいるとすれば、悔しい。ロンドンでは3種目での出場をめざす。出るだけでなく、世界記録の更新を狙う。

障害があると、殻にこもりがちな人もいるが「そういう人を一人でも外に出してあげられたら、自分にしか送れない人生があると思うから」。自分のカレンダーが何かのきっかけになってくれればと願っている。

カレンダーは3月からの14ヶ月分で1200円。2千部限定で、中西さんのホームページやブログから購入できる。

 

国の支援 五輪と格差

日本陸上競技連盟によると、世界選手権などの国際大会に日本代表として選手を派遣する場合、渡航費や宿泊費は陸連側が負担する。一方、日本身体障害陸上競技連盟によると、同様の大会へ選手を派遣する際、「メダルが確実」とされるトップクラスの選手でも自己負担が必要という。

原因のひとつは、国からの支援の差だ。文部科学省から日本オリンピック委員会(JOC)への補助金は年間約26億円、日本陸連などの競技団体にはこの補助金が割り振られる。また、補助金とは別に、委託事業としてトップ選手の医科学サポート費用約20億円も支出される。一方、厚生労働省から日本障害者スポーツ協会への補助金は、2011年度は約5億円だ。

補助金のうち、遠征や合宿に使える強化費を厚労省が措置するようになったのは09年度から。厚労省の担当者は「一気に同じレベルにはならないが、選手が自己負担なく練習できる環境を徐々に整えていくしかない」と話す。パラリンピック選手の多くは、障害者雇用促進法に基づく法定雇用枠などで就職し、活動資金としている。

(山本奈朱香)