20120721 朝日・夕刊・文化
階段の踊場で語る「三匹の猫」(横浜市地下鉄・踊場駅)
昭和51年から52年にかけて、私がかって勤めていた某電鉄系の不動産会社で、太陽とか月とか、神戸だとか横浜だとかの名のつく銀行の遊休地に、注文建築事業部が住宅を建てて売却する、そんな開発を長後街道を長後に向かって右側の窪地のような所で行った。私はその事業のスタッフだった。ちょうど、今の地下鉄駅の東側の辺り。規模は35棟ほどだった。
そのとき、「踊場」が面白そうな地名だから、この事業の販売用のパンフレットに使おうと思って調べたことがあった。だが、仕事が滅茶苦茶忙しかったこともあるが、印刷物を作るまでもなく売れてしまったので、私の思いつきはそれまでだった。
今からほぼ40年ほど前の長後街道は、狭くて、雨の日などは泥んこ道で車の混雑ぶりは半端ではなかった。立場の方から来たバスは、乗客がぎゅうぎゅう詰めで動かない。シビレを切らした乗客は、この踊場付近で降車して戸塚駅に向かって歩き出していた。その方が早かった。
そんなとんでもない長後街道も、踊場も、今は往年の嫌なイメージからは、スッカリ垢(あか)抜けして、ハイカラな街の風景に変わった。私よりも年配者たちには、隔世の感、大いにありだろう。
地下鉄の延伸に伴って、踊場駅ができたのが1999年。
今回はその駅名にもなっている「踊場」という地名の由来と、踊場駅のお話が朝日新聞・夕刊の文化欄に載っていたので、やはりマイファイルしておこうと思って、その記事そのまま転載させてもらった。ライターは森均さん。
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駅 ものがたり 踊場
横浜市営地下鉄踊場駅(横浜市泉区)の駅名は、地元に伝わる「踊る猫伝説」からきている。
言い伝えでは、毎夜、人里離れた峠に古猫が集まり、持ちだした飼い主の手拭いをかぶって踊り回ったらしい。いつからか、一帯を踊場と呼ぶようになり、とうとう駅名にまでなった。
構内各所に猫のデザインが施されている。通路の壁には縦長の大きな紡錘形の模様。気づかない人が多いが、眺めていると猫目に見えてくる。
階段の天井や手すりの下など、目立たない所にも猫がいる。案内板はなく、見つけるのは結構難しいが、「ひそかに隠れているのが猫らしくていい」と猫好きは言う。
「15匹いるから、探してみては」と笹木一慶駅長。その気になって歩き回ると、地上出口の横に猫の供養碑があった。住民が持ち寄った招き猫の置物が並ぶ。これも含めると15匹どころではない。近くの公園には、「ワンパク」でなく「ニャンぱく砦(とりで)」と名付けた子どもの遊び場があった。猫伝説はまだまだ幅をきかせている。